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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第29話:誰にも邪魔させない、愛の刻印(後編)

不気味なほどの静寂が、寝室に満ちていた。

 窓の外、白銀の世界を冒涜するように輝く「赤き月」。そのどす黒い光が、カイルム様の逞しい背中に血のような陰影を落としている。


「……逃がさないと言ったはずだ、エルシア」


 地鳴りのような振動に身を強張らせる私を、カイルム様はさらに強く、折れそうなほどに抱きすくめた。

 肌と肌が密着し、混ざり合った魔力が火花を散らす。彼の瞳は、窓の外の異変など一顧だにせず、ただ私だけを食らいつくそうと燃えていた。


「カイルム様……。空が、王都の方が燃えています。あの熱が、ここへ……」


「見なくていい。……今は、私だけを感じていろ」


 カイルム様は、私の懸念を遮るように唇を奪った。

 それは先ほどまでの慈しむような口づけではない。独占欲を剥き出しにした、深く、鋭い「刻印」のような接吻。


 彼の熱い舌が私の理性をなぞるたび、王都の異変への恐怖が、甘美な痺れへと塗り替えられていく。

 カイルム様の手が、私の背中から腰、そして太ももへと這い上がり、その指先が私の肌に触れるたび、そこが青白い結晶となって輝き始めた。


「……あ、っ。カイルム様、身体が……光って……」


「これは、私の魂の鎖だ。……誰にも、神にさえも君を渡さないための、永遠の呪い」


 カイルム様の声が、直接私の脳髄に響く。

 彼が魔力を込めると、私の鎖骨のあたりに、彼が纏うマントと同じ「氷狼」の紋様が浮かび上がった。

 それは彼の魔力の奔流。私が彼のために縫い上げた「氷の刺繍」と共鳴し、私の「白氷」が彼の「死神の熱」を優しく包み込み、昇華させていく。


 その瞬間だった。


 ドォォォォォォン……ッ!!


 窓ガラスを揺らすほどの衝撃波が、南の空から押し寄せた。

 同時に、寝室の気温が急速に上昇し始める。北領の清冽な空気を食い破るように、王都の「大太陽」の狂った熱気が、魔力の波となって聖域へと侵食してきたのだ。


「……ちっ。無粋な真似を」


 カイルム様が、私をシーツの中に隠すようにして、寝台の上に立ち上がった。

 彼の周囲には、もはや隠そうともしない漆黒の魔気が渦巻き、室内の温度を無理やり氷点下へと引き戻す。


「カイルム様、いけません! その熱は普通ではありません。王都の核そのものが、あなたを……私たちを標的にしているわ!」


「ならば、返り討ちにするまでだ。……私の寝所を汚した報い、その命ですら足りぬと教えてやろう」


 カイルム様が手をかざすと、窓の外に巨大な氷の防壁が立ち上がった。

 けれど、赤い月から降り注ぐ熱線は、その氷をじりじりと蒸発させていく。


(……母様。私に、力を貸して)


 私はカイルム様の背中にしがみつき、自身の魔力を彼の身体へと流し込んだ。

 「調和の聖女」としての力が、カイルム様の荒ぶる魔力を研ぎ澄ませていく。

 

 黒い魔力と白い光が、彼の指先で一つに重なり――。

 放たれた一撃は、空を切り裂く「蒼雷の吹雪」となって、押し寄せる熱波を真っ向から迎撃した。


 キィィィィィィィィン……ッ!!


 大気が悲鳴を上げ、ぶつかり合ったふたつの魔力が、夜空に巨大なオーロラを描き出した。

 不快な熱は一瞬でかき消され、ノースウォールの空には、再び静寂が降りてくる。


「……はぁ……はぁ……。防いだ、のですか?」


 カイルム様の胸に顔を埋め、私は震える声で尋ねた。

 彼は私を再びベッドへと引き込み、私の耳朶を甘く噛んだ。


「……ああ。だが、これはただの挨拶だ。……あのリュシアンという男、余程死にたいらしい」


 カイルム様の指が、私の首筋の「氷狼の紋章」をなぞる。

 その紋章が、不気味に赤く脈動し始めた。


『――ああ、見つけた。エルシア……。君を閉じ込めている、その野蛮な檻が見えるよ……』


 空から降ってくるような、粘ついたリュシアンの声。

 空間が歪み、赤い月の中に、狂乱に満ちた王太子の顔が浮かび上がった。


『私の太陽は、もう誰にも止められない。……君が戻らないのなら、北の地もろとも、君を灰にして私のものにする。……待っていなさい。夜明けと共に、王都ルミエールが君を迎えに行く』


 幻影は、嘲笑と共に消え去った。

 後に残されたのは、急速に溶け始める窓の外の雪と、カイルム様の、かつてないほどの激しい怒りの沈黙。


「……エルシア。……決まったな」


 カイルム様は、私を抱きしめたまま、低い、底冷えのする声で囁いた。


「夜明けを待つ必要はない。……こちらから、あの都を、太陽ごと凍てつかせに行こう」


 初夜の睦み合いは、終わりを告げた。

 けれど、私の心に宿る愛の熱は、どんな太陽よりも強く、私の瞳に「戦う聖女」の光を宿していた。

「こちらから、あの都を、太陽ごと凍てつかせに行こう」

カイルム閣下の怒り、ついに臨界点突破ですわ……!

初夜という、ふたりにとって最も神聖で甘い時間を汚された報い。

王太子リュシアンは、自らが放った炎以上の絶望を味わうことになるでしょう。


エルシア様に施された「氷狼の紋章」。

それは、ふたりの魂が魔力レベルで不可逆的に結ばれた証。

もはや、王都のどんな権威も、このふたりの絆を引き裂くことは不可能です。


さて、物語はいよいよ第一章の最終局面。

北領の軍勢を率い、あるいはふたりだけの圧倒的な魔力で、

炎上する王都へと「断罪」に向かうカイルム閣下とエルシア様。

最高に爽快で、少しだけ切ない「真のざまぁ」が始まります。


もし、閣下の宣戦布告に「かっこいい!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

王都へ向かう二人に「追い風」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、王都の「狂った太陽」を消し去るための、

最強の「零度」になります。

次回、第30話「幸福の朝。世界で一番愛される『北領の女神』の誕生」……

いえ、「燃える王都への進軍。聖女の祈りと死神の剣」でお会いしましょう。

(※物語の加速が止まりませんわよ!)

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