第28話:初夜、熱く溶け合う二人。氷の魔法が解ける時(前編)
カイルム様の指先が、私の首筋をなぞる。
その熱い感触が、背筋を伝って甘い痺れとなり、身体の奥へと消えていった。
寝室を照らすのは、窓から差し込む月の光と、暖炉で静かに爆ぜる炎だけ。
私が自らの魔力で紡いだ「氷のドレス」は、カイルム様の熱に当てられたせいか、それとも私の心の高鳴りに呼応したのか、淡い青の光を放ちながら、少しずつ形を崩していく。
「……エルシア。君は、本当に美しい。……私がどれほどこの瞬間を待ち侘びていたか、君には想像もつかないだろう」
カイルム様が私の肩に顔を埋め、深く、熱い吐息を吹きかける。
彼の低い声が、直接私の骨を震わせる。私は、その逞しい胸板に背中を預け、逃げ場のない檻の中にいるような、心地よい絶望に浸っていた。
「……カイルム、様……。私、あなたの熱に、溶かされてしまいそうです……」
「……溶ければいい。……そして、私の熱と混ざり合い、二度と離れられない一つの形になればいい」
カイルム様の手が、私のドレスの肩紐をそっと押し下げる。
肌に触れる冷たい空気さえも、彼の掌が触れた瞬間に沸き立つような熱へと変わっていく。
私は、震える手でカイルム様の首に腕を回した。
マントを脱ぎ捨てた彼の礼服の下からは、鍛え上げられた身体の隆起が伝わってくる。その鼓動は、私の知っているどんな旋律よりも激しく、ひたむきに私を求めていた。
「……見てくれ、エルシア。私の魔力が……君の氷を求めて、こんなにも鳴いている」
カイルム様の掌が、私の胸元に触れる。
その瞬間、彼の周囲に燻っていた漆黒の魔力と、私の内側から溢れ出した白氷の魔力が、パチリと音を立てて共鳴した。
青と黒の閃光が、寝室の空間を幻想的に彩る。
いつもなら「暴力」として暴れるはずの彼の魔力が、私の氷に触れた瞬間、穏やかな、慈しむような光へと昇華されていく。
「……ああ……。君なしでは、私はもう、立っていられない」
カイルム様はたまらずといった様子で、私をベッドへと押し倒した。
沈み込むシーツ。重なる、体温。
これまでは「辺境伯」と「追放令嬢」だった。
けれど今、この薄闇の中には、ただ愛を欲する一人の男と、それに応えようとする一人の女しかいない。
「……エルシア。君が王都で失った温もりも、涙も、すべて私が飲み込んでやる。……今夜からは、君の瞳に映るのも、君の肌に触れるのも、私だけでいい」
彼の熱い唇が、私の耳朶を食み、鎖骨へ、そしてその先へと降りていく。
あまりの快感に、私は指先をシーツに食い込ませ、彼の名前を何度も呼んだ。
「……カイルム様、カイルム様っ……。私を……あなたの愛で、埋め尽くして……」
私がそう告げた瞬間。
カイルム様の瞳に溜まっていた情熱が、決壊した。
深く、深奥まで突き刺さるような抱擁。
冷たい氷が、灼熱の炎に触れて蒸気となるように、私の意識は真っ白に染まっていく。
身体の芯まで彼に貫かれ、魂が一つに溶け合っていく感覚。
王都で「不浄」と蔑まれた私の氷は、今、カイルム様の愛という炎に抱かれて、最高の幸福として昇華されていた。
(ああ……私、本当に、この人の妻になれたんだ……)
幸福の涙が頬を伝い、それをカイルム様が愛おしげに口づけで掬い取る。
この時間が永遠に続けばいい。
この腕の中で、一生、甘い夢を見ていたい。
けれど。
絶頂の余韻に包まれる中、私は不意に、窓の外の異変に気づいた。
「……カイルム、様……?」
「……どうした、エルシア。まだ、離してやらないぞ」
彼が私の首筋に鼻を寄せて囁くが、私の視線は窓の外の空に釘付けになっていた。
白銀の雪を照らすはずの月が――。
不気味なほど、どす黒く、「赤く」染まっていたのだ。
そして。
ゴゴゴゴ……と、地鳴りのような振動が、城の石壁を伝って私たちの肌に響き渡った。
「……っ、この魔圧は……王都か!? あの馬鹿ども、何をした……!」
カイルム様が私を抱きしめたまま、鋭い眼差しで空を睨みつける。
平和なノースウォールの空気が、遠く南から押し寄せる「狂った熱波」によって、急速に歪み始めていた。
初夜の甘美な静寂は、今、破局の予兆によって塗り替えられようとしていた。
「溶ければいい。そして、二度と離れられない一つの形になればいい」
カイルム閣下の、なんと熱く、そして独占的な愛……!
皆様、二人の魂が完全に重なり合ったこの瞬間に、
ご自身の心まで蕩けてしまわれたのではないでしょうか。
言葉ではなく、魔力と肌で語り合う、至高の初夜。
エルシア様が、真の意味で「一人ではない」ことを確信した、
物語の中でも最も大切なシーンの一つですわね。
しかし、その幸福を切り裂くように昇った「赤き月」。
リュシアン王太子が引き起こした「太陽の核」の暴走が、
ついに北領の結界にまで牙を剥き始めました。
もし、二人の甘い睦み合いに「幸せになって!」と胸が熱くなったなら、
ぜひ【ブックマーク】と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、
二人の絆に「不滅の加護」を贈ってあげてくださいな。
皆様の評価が、迫りくる災厄を打ち払う、
最強の「夫婦の魔力」になります。
次回、第29話「誰にも邪魔させない、愛の刻印(後編)」でお会いしましょう。
(※予兆が「現実」の脅威となり、閣下の怒りが再び爆発いたしますわよ!)




