表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/36

第27話:敗北の残響。狂える王太子の最後通牒

「……エルシア。やっと、二人きりになれたな」


 祝祭の喧騒が遠く離れた、城の最上階。

 カイルム様は、寝室の扉を閉めると同時に、私の背中から腕を回して深く抱きしめた。

 

 氷のドレスが微かに鳴る。私が紡いだ魔力の衣は、主であるカイルム様の体温に触れて、幸せそうに淡い光を放っていた。


「……疲れさせてしまったな。あんな無様な連中に、君の神聖な式を汚された」


「いいえ。……カイルム様。私、あの方たちを氷に閉じ込めたとき、不思議と悲しくはなかったのです。ただ、この静寂をあなたと一緒に守りたかった」


 私は、彼の胸に後頭部を預け、その逞しい腕に自分の手を重ねた。

 

「三千の軍勢を、たった一息で黙らせる。……君はもう、誰にも手の届かない、本当の女神になったのだな」


 カイルム様の声には、誇らしさと、それを上回るほどの「焦燥」が混ざっていた。

 彼は私の肩に顔を埋め、独占欲を剥き出しにするように、首筋に深く、熱い吐息を吹きかける。


「……怖いのだよ、エルシア。君があまりに尊くて、いつか空へ消えてしまうのではないかと。……だから、今夜は、君の指先から吐息の末まで、すべてを私の刻印で満たさせてもらいたい」


 カイルム様の低い声が、身体の芯を甘く痺れさせる。

 王都から向けられた刃は、もう怖くない。

 けれど、この人が向けてくる、溶けてしまいそうなほどの愛の炎だけは、私の冷気でも鎮めることはできないようだった。


 ◇◇◇


 一方、その頃。

 王都ルミエールの王宮は、かつての栄華を失い、文字通りの地獄と化していた。


 四十度を超える熱波が廊下を走り、侍女たちが次々と倒れる中、玉座の間には、這いずるようにして戻った異端審問官マルファスと、わずか数十名の生き残りが震えていた。


「……何だと? もう一度言え」


 玉座に座るリュシアン王太子は、その瞳に狂乱の色を宿し、火傷で赤黒く腫れた手で肘掛けを握りつぶしていた。


「……は、はい……。エルシアは……不浄の娘などではありませんでした……。彼女が手をかざすと、我々の太陽の火は……一瞬で凍りつき、三千の騎士は……誰一人、彼女のドレスの裾に触れることさえ叶わず……。彼女は、女神でした……」


「女神だぁッ!? あのゴミが、女神だと!?」


 リュシアンが立ち上がった瞬間、彼の背後から巨大な火柱が噴き上がった。

 あまりの熱量に、周囲のカーテンが瞬時に発火し、マルファスは悲鳴を上げて後退る。


「私の熱を吸い取らねば死ぬだけの、冷たくて不気味な人形だったはずだ! それを、あの北の野蛮人が……私のものだったはずの道具を、あんなにも……あんなにも眩しく磨き上げたというのか!?」


 リュシアンの脳裏に、報告されたエルシアの姿が浮かぶ。

 ボロ布を纏い、屋根裏で怯えていた少女ではない。

 ダイヤモンドのように輝く氷のドレスを纏い、愛する男の隣で、この世の誰よりも幸せそうに微笑む「聖女」の姿。


 それが、自分に向けられたものではないという事実が、彼の肥大したプライドをズタズタに引き裂いた。


「……リュシアン様、お気を確かに……。公爵家も、私の『陽炎』も、もう限界ですわ……。熱くて、死んでしまいそうです……」


 側で力なく座り込むベアトリスが、汗に塗れた顔で縋り付く。

 かつては愛らしいと思っていた「情熱」も、今や不快な臭気を放つ熱源にしか感じられない。リュシアンはその手を乱暴に振り払った。


「黙れ! お前たちのせいで、私は真の宝を失ったのだ! ……エルシア、エルシア! 戻れ、私の元へ戻れ! 戻らないというのなら、この国ごと、お前を焼いて殺してやる!」


 リュシアンの瞳が、漆黒に濁った。

 彼はふらふらと、王宮の地下に眠る「大太陽の核」へと歩み出す。

 

 歴代の王たちが、調和のために管理してきた魔力の源。

 それを暴走させれば、王都は数刻のうちに炎上し、その余波はノースウォールの氷壁さえも溶かすだろう。


「……エルシア。お前の愛をくれないのなら、お前の絶望が欲しい。……私と一緒に、この世界を焼き尽くそうじゃないか」


 狂王の笑い声が、燃え上がる王宮に響き渡った。


 ◇◇◇


 ノースウォールの城、甘い香りに包まれた寝室。

 カイルム様の腕の中で、私は不意に、胸の奥がチリりと焼けるような不吉な予感を覚えた。


「……エルシア? どうした、身体が冷たくなっているぞ」


 カイルム様が心配そうに、私の指先を口づけで温めてくれる。


「……いいえ、カイルム様。……ただ、遠くで悲しい炎が泣いているような気がして。……でも、大丈夫です。私には、あなたがいますから」


「ああ。何が起きても、私が君の盾になる。……夜はまだ長い。……すべてを忘れて、私だけに溶かされていろ」


 彼の手が、私のドレスの肩紐に触れる。

 王都で何が起きようとしているのか、まだ私たちは知らない。

 けれど、私たちの愛が紡ぎ出した氷は、どんな地獄の火であっても、決して溶けはしない。

 

 私は、カイルム様の首に腕を回し、その熱い情熱の中に、自ら身を投じたのだった。

「私と一緒に、この世界を焼き尽くそうじゃないか」

……リュシアン王太子、ついに一線を超えてしまいましたわね。

愛が得られないのなら破壊を。その傲慢な身勝手さが、

王都ルミエールを本当の終焉へと導こうとしています。


一方、ノースウォールの寝室で、

不穏な予感を感じつつも閣下の愛に包まれるエルシア様……。

この「嵐の前の静けさ」のような、甘くも切ないひととき。

カイルム閣下の独占欲は、これから訪れる最大の試練をも、

愛の力でねじ伏せてしまうことでしょう。


さて、王都の「大太陽」の暴走。

それが北領の地にどのような影響を及ぼすのか。

そして、エルシア様が「調和の聖女」として果たすべき、最後の使命とは?


もし、二人の甘い夜と、王太子の自滅っぷりに「続きが気になる!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をお願いいたします。


皆様の応援が、王都を焼き尽くす炎をも凍らせる、

最強の「白氷の魔力」になりますわ。

次回、第28話「初夜、熱く溶け合う二人。氷の魔法が解ける時(前編)」でお会いしましょう。

(※物語はいよいよ、二人の身も心も一つになる、最高潮のシーンへ突入しますわよ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ