75.彼女達は何が為にそれを纏う
「シルヴィア様、ごきげんよう」
夜遅く、女子寮で、シルヴィアが扉を開けると、そこには不気味なほど優雅に微笑み立っていたソフィアがいた。
「……そ、ソフィア様」
意外な訪問者に目を点にさせたが、直ぐに「中へどうぞ」と言った。
しかし、彼女は手の仕草でストップをかけ、丁寧な仕草で封筒を差し出した。
「受け取ってくれますわよね?」
それは、ソフィア主催のお茶会の招待状であった。
◇ ◇ ◇
「どうしてお茶会に誘われたんだろう……」
お茶会当日、学園内の会場に向かいながらシルヴィアは呟いた。
恐らく虐められるのだろうが、大したことはしてこないだろう。
そう考えて、彼女は大人しくお茶会に参加しようとしていた。会場に着くと、彼女は貴族のような挨拶をする。
「ごきげんよ……う」
思わず言葉を失い、遅れて声が出てきた。
シルヴィアは制服で来ていたのだが、他の者達は皆、ドレスを着ていた。
冷や汗がどっと出ながらも、正しい作法で椅子に着席する。
「シルヴィア様、その服装はどうしたのですか?お茶会はドレスと決まっていますのに……」
「ど、ドレスが無かったのかもしれませんわね」
フォローとなっていないフォローを1人の令嬢がすると、ソフィアは嘲笑うように言い放った。
「国の宝である聖女様がドレスを持っていないなんて、不思議ですわね。この国の財政は苦しくないはずなのですが」
「さ、流石ソフィア様!聡明ですわね」
「まあ、ありがとう。シルヴィア様、私達を失望させないでくださいませね。作法やしきたりを間違えるなど……ね」
もはや悪意を隠そうともしないソフィアに、シルヴィアは苦笑するしかなかった。
「皆様を失望させてしまわないよう、努力してまいります」
「是非そうしてくださいませ」
にこりと、ソフィアは端正な顔立ちで微笑んだ。
「そ、そういえば、明日定期テストがありますわよね。皆様、どのような状態でございますか?」
話を変えて、空気を良くしようと令嬢が問いかけた。
「そうですわね……それなりに順調ですわ」
「私はあまり……。戦術と領地経営が少々危ないかもしれませんわ。このようなことは、殿方達に任せておけばよろしいのに」
分かりますと、他の何人かの令嬢達が異口同音に言った。
「私は貴族学が苦手で……会ったことがない方々は、覚えづらくて……」
シルヴィアが困り顔でそう訴えると、令嬢達は、共感して、コツを親切に教える。
雰囲気が和らいできた所で、令嬢がソフィアにそう聞いてしまったのが、駄目だった。
「ソフィア様はどうですの?」
「あら、私は勉強なんて時間の無駄なこと、しておりませんわよ」
……場が一気に白けるのが分かった。
「冗談かしら?」「けれど、そう言い直っしゃらないわよね」と、ひそひそと会話がされる。
「ソフィア様は優秀なのですね。羨ましいですわ」
シルヴィアが口にしたその瞬間——
ビシッ!
ナイフが彼女の首に突きつけられた。
「!」
「きゃあっ!」
驚いて声が出ないシルヴィアとは対照的に、令嬢達は悲鳴を上げて怯える。
「簡単に羨むことが出来るなんて、浅はかですわね」




