68.悪役令嬢は聖女に堂々たる宣告をする
「え!?ひ、人が倒れてる!?だ、大丈夫ですか?」
バッ!と勢いよく振り向いた。
ソフィアの見つめる先には、今来たばかりのシルヴィアが、慌てたように立っていた。
周りの生徒たちが関わりを恐れて誰も手を差し伸べようとしない中、彼女は倒れて気絶している令嬢たちのもとへ駆け寄り、丁寧に状態を確認している。
ソフィアはその光景を見下ろすと、急ぎ足でありながらも優雅な取り立てで近づいていった。
近づいてくるソフィアに気づき、シルヴィアがパッと顔を上げて立ち上がる。
「ソフィア様!1週間ぶりで__」
バチィーンッ!!
静まり返っていた廊下に、あまりにも鮮烈な音が鳴り響いた。
目の前の聖女の顔が、純粋な驚きと困惑に包まれるのがよく分かった。
ソフィアが、何の前触れもなく彼女の頬を全力で叩いたのだ。
「え……?あ、ソフィア……様?」
理由もわからず急に強い衝撃を受け、シルヴィアは赤くなった頬を押さえながら途方に暮れた声を漏らす。
ソフィアは一瞬たりとも表情を崩さず、氷のように鋭い眼光で彼女を射抜く。
「私、貴女が嫌いです」
「あ……そう、なんですね。やはり」
シルヴィアは寂しそうに視線を落とし、悲痛な溜息を吐く。
「ですから、今後、私は貴方をいじめ抜きます。……せいぜい、覚悟をしておいてくださいませ」
ソフィアは踵を返し、今度こそこの場から立ち去った。
その様子を近くの壁に隠れて見ていたものが居る。
「うわ……女同士の修羅場……」
カイン・ヴィルハルト・アマリリス
メイン攻略対象にして、この国の王太子だ。
◇ ◇ ◇
「あら〜どうなさったの?そんな、キョロキョロなさって」
「え?あ……教科書などが、紛失しまして」
翌日の朝。ソフィアはすべてを把握している様子で、優気に笑みを浮かべて問いかけた。
「それは大変ですわね。……うっかり、貴女の使用人が持っているかもしれませんわよ?」
「……!授業に間に合わなかった時は、先生に伝えておいてください!」
シルヴィアはハッと顔を強張らせると席を立ち、王宮から付けられた使用人たちの元へ慌ただしく走り去っていった。
その光景を冷ややかに見送るソフィアの背後で、レオンが声を潜めて話しかける。
「ねえ、フランク知ってる?」
「何を?」
「昨日、ソフィアお姉様がシルヴィア様に「いじめ宣告』したんだって」
「うわ、マジか」
「マジだよ」
グーにした手を可愛らしく顎に添える仕草をしながら、レオンは深く頷く。
「いじめ宣告か……流石、ソフィアはやることが違うな」
フランクはククッと楽しそうに笑った。
その場に居合わせたかったとまで続ける彼に、レオンは可哀想な者でも見るかのような視線を向ける。
「何?どうした?」
「いや、別に……ただ、フランクって本当変わってるよね」
堂々たるいじめ宣告の場に居たがり面白がるなんて一般的にはあり得ないと思い、レオンは率直な感想を口にした。
「え……あ、まあ……そうだな」
一瞬フリーズしたフランクは、不自然に視線をぐるりと泳がせる。
(案外、くるな……)
しかし、自分の感性がズレている自覚はあるため、「よく言われる」と続けようとした——その矢先、雷に打たれたような衝撃顔をしているレオンを見てギョッとした。
「レオン、どうし……」
「フランクー!変なこと言ってごめんねー!そんな顔しないでー!」
バッ!と勢いよく抱きついてくる。
「ちょ、おめーよ」
そう言って引き剥がそうとするが、思ったより力が強く、なかなか引き剥がせられない。
「レオンさーん、重いんだわ。とりま、どいてくれ」
淡白な態度であしらわれ、レオンは不満そうに頬を膨らませながら渋々身体を離した。フランクは少し緊張感を纏わせながら尋ねる。
「俺、そんな変な顔してた?」
『そんな顔』という表現が、気になったのだ。
普通の顔だったはずだと、彼は首を傾げる。
「うん。してた」
だが、レオンから見るとそうではなかったらしい。
「どんな顔?」
「えーっと、……その表情を見て、僕、無神経なこと言っちゃったんだなって分かった表情」
「……」
「と……りあえず!」
自分が作ってしまった気まずい空気に耐えかね、レオンはパッと声を張り上げた。
「フランクが変でも何でも、フランクのこと大好きだから安心してね!」
真っ直ぐな目でじっと見つめられる。
「……いや、失礼だな、お前」
「はうっ!いや、まあ……事実じゃん?」
「おい」
失礼を重ねたレオンに思わずツッコミをする。
2人は、本題も忘れ話していたが、とても楽しそうであった。




