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悪役令嬢は訪問して、命令を下す2

「ご機嫌うるわしゅう、皆さん。この世から無惨に消えるのと、店を買収されるの、どっちが良いかしら?」

 王都の知る人ぞ知る名店に足を踏み入れるなり、ソフィアは凶悪な笑みを浮かべて言い放った。

「は?」

「え?」

 唐突すぎる脅迫に、店員も店内のお客たちも呆然と戸惑う。

 ソフィアはその反応を察しながらも一切の説明を省き、威圧的に言い捨てた。

「店長を呼んで下さる?」

「……」


 ガンッ!

 

 ソフィアは近くにあった高級テーブルを思い切り蹴り飛ばした。

「一秒で連れてきて」

 店員たちの顔から一瞬で血の気が引いた。

「お、お持ちください……!」


 

「えっ、えっと……貴、貴族様、一体どのようなご用件でしょうか……?」

 揉み手をしながら、冷や汗びっしょりの店長らしき男が駆けつけてきた。

 そのへりくだった態度を横目で冷ややかに見下ろしながら、彼女はもう一度言ってあげる。

「この店、従業員も含めてぜぇ〜んぶ、私に頂戴?」

「い、致しかねます! 当店よりも遥かに素晴らしいお店が王都には沢山ございます。そちらを当たられた方が、よろしいかと……」

「貴方の意見なんて聞いてないの。さっさとその契約書にサインして?」

 どこからか取り出した何枚もの契約書を、ビシッと店長の胸元に叩きつける。

「も、申し訳ありませんが、この店は代々受け継いできた大切なもの。易々と渡すわけには……」

「あらそう。分かったわ」

「え!? ま、真でございますか!?」

「ええ」

 あっさりと引き下がったソフィアに、店長はパッと表情を明るくして安堵の声を上げた。


 

「だってぇ……」

 ソフィアはそのままテーブルの上に乗り、優雅に足を組む。

「その時は、貴方たち店員も親族もろとも、全員処刑するんだもの」

 その整った顔立ちに、歪んだ愉悦の笑みが浮かんでいた。

「はっ……えっ?」

 店長の額から怒涛の勢いで汗が吹き出す。

「どんな方法が良いかしら。斬首? 磔? 火あぶり? それとも隣国との国境にある魔物がはびこる山に放り込まれて死ぬ?あ、信長がやったっていう、首から下を土に埋めて切れ味の悪い大鋸で通行人にひかせる方法も楽しそうね! これにしましょう!」

「あ……あ……」

 店員だけでなく、店内にいた客たちの顔色まで土色に変色していく。

 店長はそのおぞましい処刑構想の狂気に毒され、ガクガクと膝をついて地面に座り込む。

「あら、どうしたの?」

 ソフィアは花が咲くような完璧な笑みを浮かべた。

「貴方が断ったんじゃない」

「ひっ……!!」

 店長をはじめとする全従業員がソフィアの前に跪き、ガタガタと震え上がった。まさに死相が出ている。

「も、申し訳ございません!この店は喜んで譲ります。レシピも技術も全て! 身も心も捧げて貴女様にお仕えしますので、どうか、どうかご容赦を……!」

「言ったわね?」

「え?」

 涙目で顔を上げた店長を見下ろし、ソフィアは極上の悪女の顔で、笑った。

「私に、絶対服従を誓いなさいよ?」


 ◇   ◇   ◇


「次は、……『Vaneau(ヴァノー・) & Clair(エ・クレール)』」

 王都に軒を連ねる店の中で、明らかに異彩を放つ巨大な店の前で、ソフィアは足を止める。

 『Vaneau(ヴァノー・)& Clair(エ・クレール)』

 王都最高峰と名高い、社交界の流行を生み出す、貴族服専門の仕立て屋である。



「権力や金には、屈しないような気がするのよね」

 どんなに地位の高い貴族であっても、厄介客であれば容赦なく門前払いにしたという逸話が絶えない頑固な店だ。これまでの工房や菓子屋のような力押しの脅しは効かないだろう。

 しかし、彼女の整った唇には余裕の笑みが浮かんでいた。手中に収める自信があったのだ。

「『風を見て帆を揚げる』を実践すれば良いだけだもの」


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