61.悔恨公爵は拳を握る
「……ぶっちゃけ、今のソフィアのことどう思うかい?」
談話室で、私は4人に問いかけた。
「どう、ですか?」
「うん」
ギルの言葉に、私は頷く。
「そう聞かれると、難しい……」
レオンが百面相を始める。
フランク宰相子息も、どう言うべきか、迷っていたようだった。だから、私から話すことにする。
「私は、前のソフィアでは無いとは思う」
4人が顔を上げて、私を見つめる。
「……ついさっきのを見る限り、演技っぽいけれど演技ではなかった。嫌々……ではなく、自分の意思のように思えたんだ。どこまで以前のソフィアとは違うかは、よく分からないんだけどね」
困ったように、首を傾げ、苦笑する。
ギルが、付け足すように言った。
「ソフィア…さまは、私達に嫌われにいっているような気がします。ツンツンしていて、冷淡ですが、どこか……なりきれてない、みたいな」
「さっき、なってしまったような気がするけどな」
「覚悟決めちゃった感じしたよね」
フランク宰相子息やレオンが、淡々と繋げる。
普通の会話のようであるが、そこには悲哀がある。
「学園の時は、そこまで酷いことをしていなかったと記憶しているのだけど、合ってるかい?」
報告されていないことがあるかもしれないと、私は聞いた。
人の恋人を奪う事件は、取り敢えずカウントしないでおこう。
「正直、そこまでのことは……」
「口が悪くなって、不敬は普通に働いておりましたが、まあ一応」
不敬は働いていたんだ。
フランク宰相子息の言葉に、反応する。
「私も……勝手に怯えていた形でしたから。雰囲気が、一番怖かったです」
ローラの言葉に、思わず納得してしまう。
あの子は、威圧感がある。通常時も雰囲気が常にあるから、今の彼女の場合だと、2人きりはキツイだろうな。
「学園に居る時は、なりきれていなかったけれど、ついさっき、なってしまったと」
私はまとめる。
まとめてみたが、そうすると分かってしまった。
「私達のせいかぁ〜」
ハアーッと上を見上げる。
まさか、良かれと思った行動が裏目に出てしまうとは。
「特に気にしない素振りを見せたら、飽きて行動をやめるかなと思ったんだけど、そのせいで行動がエスカレートしてしまうとは……ごめんね」
謝ると、慌てて返される。
「何で謝るんですか!」
「旦那さまは悪くありませんよ!」
「報告忘れていたのに、気遣ってくれて、ありがとうございます!」
そう言ってはくれるが、それに甘んじるのは違うだろう。
「だけど、1番迷惑がかかるのは私ではなく君たちだから」
私に迷惑がかかるのは、どんと来い!というような感じなのだけれど、学園にソフィアが入学した今、1番側に居るのは私やリーシェではなく、レオン達だ。
「あと、父上……僕、ソフィアお姉様の変化は魔法によるものだと思うんです」
「どうしてだい?」
「金を積んで王宮魔道士を呼んで、魔法によるもの以外の状態異常を解く魔法を行使したんですが、何も反応がなくて……」
いつの間にそんな大金を。
「僕達、今、性格を変えられる呪いや魔法を探しているんですが、父上は何か知っていますか……!?」
一瞬、沈黙する。
それから、私はふっと笑い、彼の頭に手をおいて撫でた。
「レオン達は、諦めてないんだね」
「?当たり前じゃないですか」
当然のことのように答えるレオンが愛おしくなって。
頭をもっと撫でると、「やめてください」と言われてしまった。
「私が知っている限りは無いかな。あったとしても、伝説級の代物だ。家系魔法としては、あんなに大きく変わるものは無いね」
「そうですか……」
子犬の幻覚が見えてしまった。
「だけど、まだまだ見つかっていない魔法はあるからね。魔法は、創ることも出来るというし」
それに、私が知らない魔法も沢山あると続けると、4人はほっとしたように顔を緩ませる。
ギルが、声を上げた。
「ソフィア様の真意が、俺にはよく分かりません。嫌われて、どうなるのが目的なのか。見当もつきません」
「私も。逆であれば、想像がつくのですが」
「うん。真意が無いっていう可能性もありはするけど……」
「「「何も分からない……」」」
声がシンクロした。
「私やリーシェも、そこが分からないんだ。ただ、少なくとも、目的はあると思っているよ。ギルが言っていたように、嫌われることも目的の1つと言えるね」
「どうしてそう思うのですか?」
ローラが、不思議そうに聞いてくる。
しかし、そう問われても答えは1つしか言えない。
「勘だよ」
私がそう呟くと、4人は拍子抜けしたように、けれどどこか納得したように静まり返った。反論は無かった。
◇ ◇ ◇
「……それでは、私達はここで」
フランク宰相子息が席を立つ。それに続いて、レオンも立った。
「うん」
ありがとう、と返す。
部屋から出る際、レオンがこちらを振り向いて言った。
「お父様みたいに、冷静で居られるよう頑張りますね!」
「……うん」
静かに微笑んで、手を振った。
「それ言うのは良くないだろ」「でも、僕感情に振り回される事が多いからさ」というような雑談が耳に入ってくる。
パタン、と扉が閉まった。
今、ここには誰も居ない。
部屋に完全な静寂が戻った瞬間、私は壁に深く背を預け、ずるずると滑り落ちそうになる身体を耐えた。
「冷静、ね……」
噛み締めるように、その言葉を反芻する。
「そう見えたなら、私には役者の才能があったようだね」
自虐的な呟きが、誰もいない室内に虚しく響く。
握りしめた拳にぐっと力が入り、爪が皮膚に食い込んだ。
「2度も……何も出来なかった……!」
私のせいで、皆を1度傷つけたというのに。




