52.悪役令嬢は悪女を謳歌し、裏切らせる
「だけどよ、そうなると、今のソフィアの状態は戻りかけてるってことなのか?」
「さあ……俺にはさっぱり」
「僕も……だけど、僕が知ってるソフィアお姉様は嘘じゃないと思うんだよね」
「嘘とかあんの?」
「いや、分かんないけど!」
レオンは大きなため息をつく。
「余計、意味分かんなくなっちゃったな……」
新たな疑問が登場し、それは3人を悩ませるのだった。
「今はもうこれ置いとこうぜ。レオンは、何調べてたんだ?」
フランクが、気を取り直すように聞いた。
「禁忌魔法」
「「禁忌魔法!?」」
ギルとフランクが思わず大きな声で言ってしまい、レオンに静かにと注意される。個室と言えど、誰に聞かれているか分からない。
「え、禁忌魔法って存在したんですか?」
「お前、何で知ってんの?」
禁忌魔法は、秘匿されている。貴族の中でも、禁忌魔法の存在について知っている者はほんのごくわずかだ。それを、たった13歳のレオンが知っているのは異常だった。
「あー」
レオンは明後日の方向を向く。
「ソフィアお姉様を診察してもらった後、あの王宮魔導師を脅……あ、ミスった。違う違う。えっと、交渉したら、教えてくれたんだ」
『人の心を操れる魔法とかってないの?』
『お教えするわけには……』
レオンはニヤリと笑った。そして、王宮魔術師に近づく。
『ふーん、あるんだ。ねえ、多分それ言っちゃ駄目だったやつでしょ。今ここで素直に教えてくれたら、あるってこと、言いふらさないであげるよ?それで、あるの?』
彼は、少し泣きそうになりながらも教える。
『禁忌魔法っていうのがあります……。恐らく学園図書館の禁書庫にあるかと……』
『わぁ、ありがとう!じゃあね!』
「あと、ソフィアお姉様が、前『この世界、禁忌魔法とか無いのかしら』ってボヤいてたからね!」
Vポーズとウインクをしながら、レオンは言った。
「まあ、今のところ、ソフィアお姉様のことと一致するの無いんだけどね」
「つまり、禁忌魔法について記された魔導書を読み漁っていけば良いんだな」
「じゃあ、俺、授業時間などでここに来て読んでますよ」
フランクがレオンの言うことをまとめ、ギルが提案する。
「頼めるか?」
「勿論です」
「それじゃやるか!」
「はい」「うん」
3人は禁忌書庫に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
数日の間、3人は禁書庫に入り浸った。しかし、ソフィアも考え行動しているということをすっかり忘れていた。
「そ、ソフィア様! 私、この人の恋人で……っ!」
大講堂の片隅で、一人の女子生徒が涙目を浮かべながら、私の前に立ちはだかった。
私はこの数日の間で、男子生徒達を誘惑し、取巻きと化させていた。
「ええ、そうなの?」
私はわざとらしく首を傾げてみせる。
知っている。手を出したときから。
「は、はい……っ」
怯えながらも必死な彼女をよそに、私はその隣にいる男子生徒へと視線を移した。
制服のボタンを絶妙に外し、引き締まったデコルテと柔らかな谷間を強調しながら、甘く囁きかける。
「ん〜。……ねえ貴方、私とそこの恋人さん、どっちが好きなのかしら?」
「も、勿論、ソフィア様です……!」
男子生徒は、私から漂う媚薬効果のある香水と、14歳とは思えない発育の良い美ボディの誘惑に完全に正気を失っていた。
思春期だもの。そもそもこんなに顔の良い異性が近づいてきたら、恥ずかしがるに決まっているわ。
「え〜?でも、そこの恋人さんは?」
「こいつなど、ソフィア様と比べる価値もありません!」
「嬉しいわ」
私は妖艶な笑みを浮かべ、男子生徒の耳元に、チュッとわざとらしい音を立てて接吻をした。男子生徒は狂気的ながらも愛おしそうな目で私を見つめ、私の手を取ると、その手首に、消えない痕を深く刻みつけるように吸い付いた。
「ソフィア様っ……!!」
目の前で恋人を完全に奪われた女子生徒が、絶望したように顔を青くさせ、大声を上げた。
ああ……
周囲の視線が集まる中、私はヘラヘラとした笑みを崩さない。
「そんなに怒らないで? 美容に悪いわよ?」
「誤魔化さないでください!」
遮るように、女子生徒の親友と思わしき別の生徒が前に出た。
「でも〜、彼、私の方が好きって言ってたしー?」
「っ……この泥棒猫が!」
激昂した親友の生徒が、怒りに任せて手を振り上げ、私を目がけて振り下ろそうとする。
――私は、ただ静かに口角を上げた。
ほんっと
その手が私の肌に届く寸前、ピタリと空中で止まる。
彼女の手首を後ろからガシッと掴んだのは、整った顔立ちをした、大柄な男子生徒だった。
「エヴァン……!」
自分の恋人が助けに来てくれたのだと思い、親友の生徒は嬉しそうな顔をした。――だが、直後、その顔は絶望に染まる。
「……何で、どうして貴方がそこに居るの……!?」
かわいそうっ……!




