幼馴染達はすれ違い、集い、困惑する2
その後、3人は場所を移動してから、今まで調べていたことについて共有し合った。
「まず、俺は他国のも含め、実在する魔法を魔導書で調べていた。だが、今調べている限りは、性格改変の魔法は存在しなかった」
図書館の個室の中で、フランクは言った。次に、ギルが話し出す。
「俺は、あんまり関係はない気がしますが、ソフィアが豹変した時のローラさんの反応がおかしかったので、それらについて調べてみたのですが……」
「が?」
言葉を途切れさせたギルに、レオンは不思議に思って首を傾ける。ギルは少し悩み、それから口を開いた。
「……あくまで、噂や聞いた話ではあるんですが__」
◇ ◇ ◇
「あの、ローラさん」
俺は、ソフィア達が授業を受けている際、廊下で話しかけた。
「何?どうしたの?」
俺は少し間を置いてから、話し出す。
「ローラさんに、ソフィア様を直接窘めて欲しいんです」
「……私が?」
「はい」
俺は強く頷く。
ローラさんは、強い。出会った時から、たとえ旦那様やソフィア相手でも、自分の意見を決して曲げず、間違っていたりする行動は窘めていた。
そんな彼女を信頼しての発言だった。
「ごめんなさい、私には出来ないわ」
しかし、受けてくれるだろうという予想は外れ、直ぐに断られた。
「え……何故ですか?ローラさんは、いつもソフィア様相手でも強く言えていたではありませんか!」
ローラさんは、怯えるように言った。
「そうね、いつものあの優しいソフィア様ならいけたわ。だけど……今の、今のソフィア様には言えないの」
(『別に良くない?』)
「あの時とは違うとは分かっていても……どうしても重ねてしまうの。怖いの……今のソフィア様が怖いの……!」
(『使用人が死んで、何が悪いの?』)
何かを思い出したように彼女は顔を青くさせ、片手でもう片方の腕を強く、ギュッと握った。何かに耐えるかのように。
「あの時……って、何ですか?」
俺が知る前のソフィアが居たということ……?
ローラさんは、「知らなかったのね……」と小さく呟いてから、提案した。
「この場では話せないわ。明日の朝早くに、そうね……学園の温室内はどうかしら?」
「……分かりました」
何か深刻な話なのだろうと俺は察した。この日は、もうその話題に触れなかった。
次の日の早朝、俺は温室に入った。朝もやが立ち込める温室中には、既にローラさんの姿があった。ティーテーブルの椅子に座っていた。
俺は音を立てないように歩み寄り、ローラさんの向かいの椅子に腰掛けた。
「昨日の話、聞いて良いですか?」
「本当に、良いの?」
念を押すように問いかけてくる。
「はい」
俺は大きく頷いた。
「忘れもしない……四歳の頃からだった。あの頃のソフィア様は、今の優しいソフィア様とは打って変わっていたわ」
彼女は遠い目をして話し出す。
「まず、旦那やリーシェ様達と関わろうとしなかった。最低限の会話もしていなかったわ。食事は一緒だけれど、一緒に何かするのはそれくらい。リーシェ様なんて、あの頃は今より病弱で、よく体調を崩してた。だから食事もあまり一緒に出来なくて。だけど、ソフィア様は、一切会いに行こうとはしなかったわ。旦那様は、よく構っていたけれど、ソフィア様は面倒くさそうに、適当にあしらうだけ」
語るにつれ、彼女の目から光が薄くなっていくような気がした。
「私達使用人に対しては……」
一度なにか言おうとしていたが、声が出ないようだった。彼女は深呼吸を数回し、話を再開した。
「無駄口を一言でも叩いたら、即解雇が日常だった。何もしなくても、『つまらない』。そんな理由で、解雇をすることもあったわ。最初は、旦那様がそんなことを許すわけもなく、そのまま働いてもらっていたのだけど……それに気づいたソフィア様は、その人達を虐めるようになった。花瓶の破片を頭から浴びさせたり、入れたばかりで熱い紅茶を頭からかけたり」
辛そうに、彼女は言った。
「……使用人は虫以下という扱いだった。山に行ったら突き落とされ、窘めたら蹴って殴られ。魔術を扱えるようになった時は、『終わった』と本気で思ったわ」
「魔術……ですか」
思わず呟く。四歳の頃から既に使用できていたなんて。
「火傷を負わされたり、溺死させられそうになったり。だけど、誰も死ななかったわ。そうはならないように調節していたのだと思う。優しいソフィア様に変わられたのは、5歳の時のこと。ソフィア様が高熱で苦しみ、叫ばれてからだった」
◇ ◇ ◇
「という風に、ローラさんは言ってました。ルドルフ執事長にも手紙で聞いてみましたが、間違ってはないようです」
ギルの言葉を、レオンは疑わなかった。
「僕が養子入りする前に聞いたソフィアお姉様は、『噂では、使用人を虐げる傲慢で苛烈な令嬢』だった。あの時は間違いだと思ってたけど……まさか本当だったなんて」
「ああ、俺達が会った頃には既に変わったときだったからな」
ギルが頷く。
「多分、僕が聞いた噂だった時のソフィアお姉様だったら、僕虐められてただろうな」
「俺も多分執事になってなかった」
(エドワードも、生きてなかった……)
「それにしても、ローラ、虐められてたのによくソフィアのこと崇拝出来るようになったな」
「嫌いじゃなかったのかな」
二人の言葉を聞き、ギルはあの会話の続きを思い出す。
『ソフィア様のこと……嫌いでしたか?』
ローラさんは、意外そうに驚いてから、安らかな笑みで微笑んだ。
『まさか。嫌いになんてなれなかったわ。……嫌いになりたいと思った日もあった。けれど、どうしても、嫌いになんてなれなかったわ』
懐かしそうでいて、切なそうな表情だった。




