51.幼馴染達はすれ違い、集い、困惑する
放課後。レオンは、図書館の禁書庫で見つけた、禁忌魔法について記された書籍を読みふけっていた。
(思えば、この本達を探すのも長かったな……5日もかかったし)
レオンはそう思いながら、静寂な室内で、本の内容に集中する。
「お前、1人で何やってんだ?」
「えっ」
突然背後から声をかけられ、レオンは、弾かれたように椅子に座ったまま振り向いた。
「フランク……それにギルも!2人こそどうしたの?」
「最近、お前、授業外だと単独行動することが多かったからな。気になって。まあ、予想はつくけどな」
「睡眠時間も減らしているようですし」
呆れ顔のフランクに、無表情だけど少し心配そうなギル。
フランクがレオンに問いかけた。
「それで?お前は何やってんだ?」
「……ソフィアお姉様のことに対する手がかりが掴めると思って、本探してた」
「ふーん。1人で?」
「えっ……う、うん、そうだけど……」
フランクの鋭い視線と低い声に、レオンは困惑を隠せない。
場の空気が一瞬で張り詰め、誰も喋らない重苦しい緊張感が漂う。
「……なかった?」
「え?」
フランクが、ポツリと呟いた。しかし、あまりにも小さな声だった為、フランクは言い直した。
「何で、俺らに一緒にやろうって言わなかった?」
「……」
レオンは驚きを隠せない。
(どうして……)
「どうして、1人で抱え込むんだよ……」
声が小さく震え始める。
「そんなに、頼りないか?俺達」
泣きそうな表情に、声に、レオンはガタッと音を立てて立ち上がる。
「そんなことない!僕はただ……っ」
「ああ、分かってる。分かってっけど……っ」
苦しそうに、顔を歪める。
フランクの言葉に、レオンは疑問に思う。
(分かってるなら何で……)
「もっと……頼れよ、俺達を。ソフィアみたいにはなれねぇけど、俺達だってお前の友人だ!お前が大切だ!……水くせぇぞ。1人で、抱え込むなよ……お前も、辛いじゃんか……」
徐々に、声の大きさは小さくなり、最後には、少しかすれていた。
フランクの表情を見て、いつの間にか傷つけていたのだと、レオンは理解した。
「柄にもないこと言った。頭冷やしてくる」
フランクは返事を待たずに、立ち去ろうとする。そんな彼の腕を、ギルは掴んで止めた。
「フランク」
彼を真正面から見つめる。
「逃げちゃ駄目だ。俺達がすれちがってる場合じゃない。ちゃんと話せ」
「……ああ、そうだな。……ありがとな」
フランクは苦笑交じりに頷くと、レオンの前に立ち直した。
「……えっと、まず、取り乱した。ごめん」
「うん」
「俺が言いたいのは、一人で抱え込まないで、俺達にも頼って欲しかったってこと」
「うん」
「お前は?」
フランクはすっかり、いつもの冷静な調子を取り戻したようだった。
フランクに促され、レオンが、少しためらいながらも胸の内を話し出す。
「僕は……頼るなんてこと、考えもしなかった」
「……そうか」
誤解されそうだと考え、レオンは慌てて声を張り上げる。
「フランクとギルのことを信用してない訳じゃないんだ!だけど……頼り方が、分からない。頼るってことが、難しい__」
俯きながら、レオンは吐露した。
(ずっと……ずっと、誰にも頼ってこなかった。全部1人でこなしてきた。そもそも、頼れなかった。頼れない状況だったから、頼らないことを習得した。ずっと、頼ってこなかったんだ——)
視界が滲み始め、フランクたちの靴先が見えなくなっていく。みっともなく泣き出しそうな自分を必死に抑え込もうと、レオンは壊れそうなほど強く唇を噛み締め、両手で膝の布地を握りしめた。
――その時、ポンと頭の上に大きな手が乗せられた。顔を上げると、フランクが立っていた。
「な……に……」
驚いて目を丸くするが、頭を撫でるフランクの手の温もりに、喉の奥がぐっと詰まる。
「んー、何となく?……ごめんな、気づけなくて」
フランクは気まずそうに視線を泳がせながら、言った。
「お前は『出来なかった』のに、俺、『しない』だけかと思って……押し付けてたわ。主観的に考えちゃ駄目なのにな。悪かった」
「ううん……」
細い声で、レオンは首を横に振る。
フランクは、手をレオンの頭の上から離し、ポンと肩に乗っける。
フランクは、決定事項のように自信満々で言った。
「これからは、俺らが、自分から頼られに行くようにする。お前は、気軽に待っとけ!」
レオンは、フランクの言葉を噛み締めた。
「というか、フランク様、勝手に俺のことまで含めて話してませんでした?」
「お?入れないほうが良かったか?」
「いや、文句は何も無いんですけど……」
ギルはフランクに複雑そうな視線を送ってから、レオンをちらりと見て、あるものを取り出す。
「レオン様、これ」
差し出されたのは、丁寧に折られた真っ白なハンカチ。
(『お前は、気軽に待っとけ!』)
差し出されたと同時に、こらえていたものが、少しずつ、少しずつ溢れてくる。必死に張り詰めていた糸が、今切られてしまった。
「ありが、と……っ!」
ハンカチを受け取って、それをギュッと強く握りしめる。
「二人とも、ありがとうっ……!」
一滴零れたと思えば、また流れ落ち、また、肌を滑る。ぽろぽろと、大粒の涙が止まらなくなって頬を滑り落ちる。
図書館だ、皆が見ている、と思っても、溢れ出る嗚咽と涙は押さえきれなかった。
「ありがとう……っ」
(どうしても——嬉しくて。こんな……!僕なんかが、優しくされて、恵まれてて……良い、っのかな……っ)
レオンは感謝の言葉を紡いでいく。
「2人が居てくれて良かった。2人が2人で…良かった……!」
気持ちが、溢れた。
「俺も……お前らの、……ソフィアのおかげで、変えてもらったよ」
(以前の俺だったら、誰かの為になにかをするなんてことあり得なかった。大切な奴なんて、存在しなかった)
「__ありがとな」
フランクの言葉と一緒に、ギルも微笑んだ。
レオンは、尽きることのないその涙を、また、溢れさせた。




