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49.幼馴染の専属執事は悪役令嬢を無意識に翻弄する

「ん?ローラが立っていない。ってことは、ソフィア、まだ来てないのか。珍しいな」

「そうですね。いつもは、一番乗りくらいのノリで居るのに……」

 フランク様の疑問に、俺は頷く。ちなみに、レオン様は居ない。調べたいことがあるからと、最近別行動をしている。

 疑問に思いながら教室前で待機していると、甘い匂いが漂ってきた。

 何だ?

 不思議に思い、匂いのした方角へ目を向けると、昨日までとはまた違った風に注目を浴びているソフィアが視界に入った。

 悪い予感しかせず、思わず目をつぶる。しかし。

 ……そういえば、この甘い匂い、嗅いだことがある。暗殺者をしていた時。この匂いは……媚薬!?

 ソフィアに急ぎ足で近づく。そして、俺は顔を顰めた。

 

 

「貴方、可愛らしい顔をしてるわね」

「え、あ、はひ……っ」

 ソフィアが、ある男子同級生に音もなく近づき、耳元で甘く囁きかける。

 今日の彼女は、いつもなら規律正しく留めている制服のボタンを、ギリギリ下品にならない、絶妙に洒落ていると感じる限度まで外していた。

 そこから覗くのは、13歳にしてはあまりにも発育の良い、白く柔らかな谷間。

 ソフィア、よく食べよく運動するからな……発育が速い。

「特別に、私の愛人にしてあげなくもないわよ?」

 驚きすぎて、傍観してしまう。


 

 普通なら、あまりにも不躾な誘いに周囲も含めて無礼だと怒るところだが、至近距離で押し当てられる豊かな胸の感触、即死級の美貌、妖艶な瞳、そして鼻腔をくすぐる香水の罠に、男子生徒は完全に思考を奪われ、顔を真っ赤に染めるしかなかった。

 ソフィア、お前どこでそんなテクニック覚えたんだ?お前がよく読んでるロマンス小説か?


 

「ちょ、ソフィアお姉様……っ!!」

 その光景に耐えかねたように、レオン様が顔を真っ赤にして二人の間に割って入った。

「その人、もう婚約者が居るんだよ!?」

「レオン……だから何だって言うの?」

 ソフィアは煩わしそうにレオン様を見つめ、声音を一段と低く沈める。どこか冷たく、けれどゾクっとする声。だからか、レオン様は一瞬、気圧されてひよってしまいそうになっていた。

 けれど、彼は拳をきつく握り締め、彼女の目を真っ直ぐに見据えて言い直した。

「関係あるよ! 人の婚約者を奪うなんて、『ノブレス・オブリージュ』とは、完全に懸け離れてるよっ……!!」

 その言葉が響いた瞬間、ソフィアの瞳が、ほんの一瞬だけ、ピクリと不自然に揺れた。


 

「ソフィ……」

 彼女の名前を呼ぼうとしたその時。彼女と目が合った。ソフィアは首を傾ける。

「なあに?貴方も文句?」

「え、いや、…いや、そうなのか……?」

「それとも_」

 ソフィアは俺に近づき、クスリと笑う。

「貴方もやって欲しいの?」

 意地悪い笑み。上目遣い。計算されている。


 

 足を大きく踏み出し、俺も彼女に近づいた。指1本分ぐらいの隙間になる。

 彼女の目を射抜く。

「ソフィア、知らなかったか?俺は、妖艶より爽やかな方が好きなんだ」

「ほほえ……」

 彼女は小さく目を見開いてから、タタッとスキップするように後ろに下がった。俺の顔を何故か暫くじっと見つめ、踵を返す。さっきの男の顎を歩きながら撫でた。

「じゃあね」

 彼女は教室に入っていった。



「ギル……お前、そんな風に笑うんだね」

 レオン様が俺に歩み寄ってきた。

 笑うんだねということは今さっき俺は笑ったということだと思うが、笑っただろうか?

「あんな優しい笑顔、ほぼ初めて見たよ」

「一応聞きますが、悪口じゃないですよね」

 俺は普段どんな表情をしているというんだ。いや、基本無表情だと自覚しているが。

 レオン様は「悪口じゃないよ」と笑い、続ける。いつものにこやかな笑みに近いが、やはり違う。少し弱々しい。

「いつもは無表情で、感情出さないけど、ソフィアお姉様の前だったらよく出すよね」

 ・ ・ ・

 にっこりとした笑みだが、何も思わない。少し怖いとすら感じる。どういう意図なのかすらも分からないし、意図があるのかも分からない。

 不気味に思いながら俺は聞いた。


 

「それ、今聞く必要ありますか?というか、どういうことですか?」

「僕にとっては今のソフィアお姉様の案件と同じくらい重要だよ?——で、どういうことか聞いちゃって良いの?」

 ついさっきのソフィアのような意地悪い笑顔。血縁関係は無いが、二人は確かに姉弟だと確信する。

「何か、駄目なことなんですか?」

「別に〜?僕にとっては良くも悪くもだよ?ギルにとっては……うーん、どうなんだろうね」

 本当にどういう意味なんだ。

 レオン様の意味深な態度に、少し気になり始めてしまった。しかし、本能がNGを出している。詳しく聞いてしまっては駄目だ、と。

「やっぱ良いです」

 俺はそう言って、逃げるように元の立ち位置、教室前に立った。


 

(『ソフィアお姉様のこと好きなんでしょ』って言おうと思ったけど、逃げられちゃったな。まあ、それでギルがソフィアお姉様への感情を自覚しちゃったら困るから別に良いんだけどさ。……ずっと逃げてちゃ駄目だよ?ギル_)

読んでいただきありがとうございます!ソフィアの心理描写が最近少ないのですが、あまり気にせず呼んで頂けると嬉しいです。少しでも良いと思ったら、ブックマークやリアクション、コメントなど、お願いします!

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