48.悪役令嬢は、幸せの為
「まあ、シルヴィア様と王太子殿下だけですか」
「……マジか」
「嘘でしょ……」
カインとシルヴィアは頭を抱える。特殊な立場の三人組である。
「つまり、この世界の英語は終わってるってことですね!」
ソフィアは満面の笑顔で言った。
「ソフィア……今まで習ってこなかったのか?」
フランクは尋ねる。
「私、この世界で習わなくたって出来ますもの」
「英語?古語だぞ?」
「古語=英語なのよ。そんなことも分からないの?」
理不尽すぎる。フランクはまず英語というものを知らないので、ただただ首を傾げ、漫画であればクエスチョンマークが頭上にありそうな表情をしている。
「サブジーナス公爵令嬢、そんなに言うのであれば、貴女の言う古語を教えてくれますか?」
可笑しい、間違っていると何度も言われてへそを曲げたのか、教師は怒り心頭で詰め寄る。
ソフィアは簡単と笑い、教室の前に立つ。
「そうね、貴方達まさかの分からないらしいから、基本からいってあげましょう」
煽り立てる。
ソフィアは、石板に、石筆を使い、音を立てて何かを書き込んでいく。Be動詞の文だ。
「まず、Be動詞というものが存在します。Beから派生した、am、is、areです。amはIつまり私、areはyouつまり貴方もしくは貴方達。それから複数形の時に使用しますわ。isはそれ以外です。Iが私だとすら分からない貴方達には難しい話かしら?」
「いいえ、続きをどうぞ」
教師は不機嫌さをあらわにしながらも、そう言った。ソフィアは愉快そうに微笑む。
「Be動詞は『=』の関係をしています。そうですね…… 何と言いましょう……」
表現方法に迷っていると、カインが手を上げて発言した。
「Be動詞を使用した文は動きのない文になるということであっているかい?」
「あら、良い表現をありがとうございます。王太子殿下なら、『君は何を言っているんだ?』とでも言うのかと思っていましたので、とっても意外ですわ」
カインは苦笑する。
ソフィアはそうして解説を続けていき……
Be動詞の文の説明が終わった。彼女は、ちんぷんかんぷんだと思っていそうな顔達を前にして、楽しそうにしていた。
「じゃあ、ロペス子息。『私は生徒ですって』書いてもらえますこと?」
「ああ……」
生徒はstudentで良いんだよな、と彼は思考しながら文を完成させる。
I am a student.
「あら、正解ですわ」
つまらなさそうにソフィアは言った。フランクが間違えるのを見てみたかったのだろうなと、レオンは静かに思った。
「サブジーナス公爵令嬢」
教師はソフィアを呼ぶ。そして、聞いた。
「君が古語の革命者だとして、長年研究されてきた、勇者が記したとされる古語を君は読めるのか?」
「どれです?」
ソフィアは言われた古語の教科書のページを開く。他の生徒達も、同じように開いてみた。
I was betrayed.
By the fiancée I loved. Her heart belonged to another. She was the first person I had truly loved since coming to this world.
I thought that she believed in me. It was that very trust that gave me the strength to press on. I even accomplished the impossible task of slaying the Demon King.
I will not forgive her. No matter what happens, I will never forgive her.
I'll damn her to hell.
No matter what happens, I will never forgive her.
ソフィアが解読しようとしたその時、
「可哀想……」
ぽつりと、教室に声が響き渡った。
その声の持ち主はシルヴィア・ロドン。転生者でないはずの彼女だった。
「あら、シルヴィア様読めるのですか?」
「え、あ、いえ、その、えっと……ええ。正直全く読めないのですが、何故か頭に浮かんできまして……」
「まあ、奇遇ですこと。読んでみてはいかが?」
ソフィアに促され、シルヴィアは苦い顔をしたものの、話しだした。
「裏切られた」
突然の強ワードに生徒達は耳を疑う。
「裏切られた。愛する婚約者に。彼女の心は別の男へと移っていた……いえ、……他に男ができたと。この世に生まれて初めて愛した人だった。信じてくれている。その信頼によって、魔王を討伐するなんて不可能と思えた偉業を成し遂げることが出来たというのに。……許さない。何があろうとも決して許しやしない。地獄に叩き落としてやる。俺は、絶対に許さない」
聖女が言って良いのか迷う文章に、教室中は沈黙する。
一方で、ソフィアは「勇者が浮気されたことあるって初めて聞いたわ」と、勇者伝説を詳しく読み直そうかと考えた。
◇ ◇ ◇
一日の授業が終わり、ソフィアはぶつぶつと何かを呟きながら廊下を歩いていた。
「どうしましょう。悪女感、そこまで無いわね。ただの、凄い嫌な人になっているわ。……駄目。どうしましょう。あまりどんなものが良いか思いつかないのよね。ゲームのソフィアの真似をするしかないのかしら……」
「ソフィア様、あの、ハンカチ落としましたよ」
少し怯えながら、男子生徒はソフィアが落としたハンカチを差し出した。彼女は礼を言い、ハンカチを受け取ろうとしたその時。
「分かったわ」
ポツリと、呟いた。
「?何か仰いました?」
「いいえ、何でも無いわ。ありがとう」
男子生徒の手を両手で包み、彼女は彼に近づいた。
(決めたじゃないの。私は、幸せになる為に行動するって)
「少し、良いかしら?」
これから一週間くらい、毎日19:20分頃投稿します!




