46.シスコン義弟は知った
「禁書庫の方まで案内してください!」
「ひぃっ!……は、はい……」
あまりの剣幕に、若い司書は短く悲鳴を上げて怯えながらも、すぐに歩き出した。レオンはあちこちに視線を彷徨わせ、髪もいじり、落ち着きがなかった。
「ここです」
重厚な扉を開けた中を指差し、司書は言った。
「ただし、傷をつけたり持ち出した……」
司書が言い終わる前に、駆け足でレオンは暗い闇の中へ突っ込んでいった。
「ちょ、待ってください……!」
司書も早歩きでレオンを追いかけたが、既にレオンの姿は無かった。
「何なんだあの人……あ、待って名前聞いてない!どうしよう!」
完全にやらかしたと右往左往した司書だったが、やがて腹を決めたように、とぼとぼとカウンターに戻っていった。
「これ……じゃない。これは!違う。ああ、もう!焦れったいな!」
手を少し湿らせながら、レオンは本を取っては戻し、背表紙の題名を確認する。しかし、中々お目当てのものは出てこなかったようだった。
「うわっ!」
焦る手つきで無理に一冊を抜き出した拍子に、隣り合っていた数冊の本が雪崩を起こし、バサバサと床に散らばった。床に散らばった本の題名を確認しながら、レオンは本を集める。
「『アマリリス王国 家系能力記載つき貴族家名』に、『聖女観察記録』……なにこれ?」
聖女観察記録という奇妙な題名にレオンは興味を持ち、手をとめる。
(観察?観察ってどういうこと?)
本をはたき、立ち上がる。本を開こうとしたその時。
「まあ、レオン様?」
静寂を住んだ声が破った。
振り返れば、制服を着たシルヴィアが佇んでいた。
「シルヴィア様!?どうしてここに……」
「聖女に関する文献を探しておりまして……」
それならば丁度良いと、レオンはシルヴィアに今さっき見つけたばかりの『聖女観察記録』を渡した。
「これ、さっき偶然見つたので」
「まあ!ありがとうございます」
シルヴィアは、貴重なものを持つように、だが丁寧すぎる受け取り方をする。
「それでは」
そう去ろうとすると、「あのっ!」と声をかけられる。
「どうしました?」
足を止め、不思議そうに振り返ったレオンに、シルヴィアは躊躇いながらも視線を伏せた。
「……ソフィア様、やはり何か強力な魔法にかけられているといった可能性は無いですか?」
「……無いです。無くなってしまいました」
「そうですか。……すみません」
シルヴィアは嫌なことを聞いてしまったと謝る。レオンは、ソフィアのあの冷ややかで見下すような目を思い出す。
拳を強く握りしめ、唇を噛んだ。
「辛い、ですよね。分かります」
「……分かる?」
言葉が熱を帯びて落ちた。
カチッと音がなり、彼の何かのスイッチが押された。
「そう簡単に『分かる』なんて言わないでくれ! 君も平民から突然聖女にされて、両親と引き離されて嫌な思いをしたんだとは思うけど……っ…僕の、この苦しみと一緒にしないでっ……!」
(ソフィアお姉様に拒絶され、『他人だ』と言われた。守るって、あの時決めたたのに。次こそ僕が守るって……。僕の気持ちが分かるだって?分かるわけがない!)
「ーーわかりますよ」
いつもよりトーンの2段階下がった声。
強く言ったにも関わらずもう一度同じことを繰り返したシルヴィアを怪訝な目で見た。
彼の目に映ったのは、歯ぎしりしそうなくらい歯を噛み、めらめらと燃え上がる炎を宿したような目をしたシルヴィアだった。
温厚な笑みを四六時中浮かべている姿からは考えられない姿だった。
「凄く、辛いです」
「……シルヴィア様は、何時から、なのですか?」
少し震えた声でレオンは尋ねた。
「何年……もう、5年くらいですかね。……5年。こんな、こんなに……経ってたんだ……」
シルヴィアは絶望に押しつぶされるように、ズルッと本棚に寄りかかりながら座り込む。
「無礼なことを言いました。申し訳ありません」
(怒りやすいのは僕の悪い癖だ。ほんと……直さないと)
「いえ……気持ちも、分からなくはございませんから」
シルヴィア様は「失礼しました」と、いつもの完璧な聖女の仮面を被り、去っていった。
「人って……見かけによらないよね。そりゃ、そうか」
レオンは自分の浅はかさを自嘲する。
「何考えてたんだか。僕みたいな……僕より不幸な人は、きっと他にも沢山居る。貴族だし、恵まれてる方だ。いや、僕も凄い可哀想なんだけど。……皆頑張ってるんだ。僕も、頑張らないと」
レオンは両頬をパン!と叩き、再びお目当ての資料探しに集中した。
近日、また新しい話を投稿します。




