41.華麗なる女子寮と、過保護な専属メイド
私はローラと隣になって話しながら寮に入る。
薔薇や美しい花々が咲き誇る広大な庭園に囲まれた、宮殿のような建物。なんかベルサイユ宮殿を思い出したわ。
外壁は純白で、神々しい。しかし、だからこそ花々が映える。
一歩足を踏み入れると、大理石の床に巨大なシャンデリア。コンシェルジュが常駐していた。
全てが優雅。華美。
現代の高級ホテルを余裕で超えてるわ。
乙女ゲームでは全く登場しなかったけれど、こんなに綺麗なのね。なんで出さなかったのかしら。勿体無いわ。
浮かれながら、ローラに部屋を案内してもらう。
私はローラと一緒にエレベーターに乗り、最上階10階まで上がる。ドラマで見た、明治頃のフランスにあったエレベーターを思い出したわ。
「この機械は本当に不思議です。魔力で動くだなんて」
「そうね。けれど、便利よね。アール・ヌーヴォーやアール・デコ調の装飾が施されているのもこの寮の雰囲気に合っているわ」
10階に着き、私は廊下を歩く。10階は超VIP部屋だ。公爵家と王族クラスしか入れず、4部屋しかない。
ローラが既に公爵家から持ってきた持ち物を部屋に配置してくれたので、私はすることがない。ちょっくら寮の探索に行こうと思う。
「ローラ、寮、案内してもらっても良いかな?」
「勿論です。この寮のことは網羅しました。お任せください」
流石ローラだ。仕事が出来る。
私は早速ローラにこの寮を案内してもらうことにした。
まず、1階にある大浴場。
「うーん、ここはプライドがエベレスト並みの令嬢達には不人気じゃないのかしら」
そう言うと、ローラはフフと不敵な笑みを浮かべる。
「私も最初はそう思っていたのですけれど、違いますの。超!人気らしいです」
私はその言葉に固まる。令嬢の皆さん、裸の付き合いが好きなの?
「学園からシルク製の湯浴み着が支給されるので、露出も上品に抑えられるらしいんです。何より――」
ローラが声を潜める。
「ただのお湯ではなく、アネモネ帝国の最新魔導を使った『魔導炭酸泉』なんです。入るだけで肌が真珠のように白くなり、髪はツヤツヤ、ダイエット効果まであるとか」
「え、なにそれ」
私は呟く。
絶対通うしか答えは無いじゃない。
次に、カフェテリアだ。
朝食や夕食を食べるのとは別に、24時間いつでも淹れたてのお茶や最高級のスイーツが楽しめるサロン。24時間というのが、金かかっていると思う。今は桃のシュークリームが流行りらしい。今度、誰かを誘って食べてみよう。
男子寮は、ダークグレーの城壁に紺青の屋根という、女子寮とは対象的な作りだ。女子寮と男子寮の間には、3階建ての学園図書館がそびえている。
「ここは図書館でして……」
「あ、ローラ、ここは明日学園見学で紹介されるから大丈夫よ」
「あら、そうでしたっけ。了解いたしました」
ローラは図書館を飛ばして、近くのガラス張りの温室を紹介する。
「天井がすべてガラス張りで綺麗ね」
「はい。あ、そういえば、令嬢達の中に好きな花を育てている者も居るとのことです」
「まあ、良いわね」
最後に、サロンド・アステリアに向かう。いわゆる、ジム&魔術・魔法鍛錬部屋だ。
防音の為の重厚な扉をローラに開けてもらう。
中は
「……うわ、殺風景」
物が全然無い。
筋トレ用具など全く無い。中世ヨーロッパモチーフの世界だからしょうがないかもしれないけれど、無駄に広いのなんなのかしら。
私の与えられた部屋より大きいっていうのはムカつくわね。なんなのよ、ジムとしてはランニングくらいしか機能してないじゃない!
「無駄に期待させといて、酷い部屋ね」
軽く言いがかりをつける私をローラは宥める。
「ソフィア様、私の方から学園長に言っておきますから、そう怒らないでください。怒った姿も美しいですが、ソフィア様には笑顔が一番似合いますわ」
「ローラ……」
なんて可愛いのかしら。いや、年上なのだけれどね!ローラ、もう21歳よ。前世の私も超えられてしまったわ。
「ローラ、これからも私の側に居てね!給料の高さとかは約束するから!」
ギュッと抱きつくと、少し慌てた声で「も、勿論です。私がソフィア様のメイドを辞めることなど、私が死んでもあり得ません」と言った。
真面目な顔で言っているが、少し言い過ぎである。
「ふふ、ありがとう」
ローラが柔和な微笑みを浮かべた。
「取り敢えず魔術撃っておきましょう」
私はこの部屋の機能性がどんなものかを知る為に、手袋を取ってローラに渡す。彼女は私の邪魔にならないよう私の背後にサッと下がった。
「魔力が少なくなっちゃうけど……まあ、良いわよね」
学園内で危険なことが起こることは無いはずだもの。あるとしても、ヒロインである聖女くらいだわ。
私は呪文を唱える。
「土よ、裂けよ、大地よ、呑み込め、【地割】」
言い終わったのを合図に、轟音で地が割れ、地面が下に向かって壊れていく。
地面が割れ、人が呑まれていく様子は神の怒りともとれるほどの魔術だ。しかも、お父様の13歳での初陣の際の戦の時の様子を見ての言葉らしい。
「この魔術を撃ったらしいけれど、お父様、若い頃から凄かったのね……」
お父様に欠点がなさすぎて私が見劣りする。
ローラを見てみると、目の前で衝撃的な事が起こったのに、平然としている。
流石、サブジーナス家の使用人だ。メンタルがエグいわ。
「ソフィア様?どういたしました?」
「い、いいえ、ただ……ローラは凄いなと思っただけよ」
「え?ありがとうございます」
突然の言葉にローラは戸惑う。私は気にしないでと微笑み誤魔化していると、ローラが両手で口を抑え、私に前を向いて見るよう言った。彼女の言う通り前を向いてみると、地面が先ほどとは逆に上へ戻っていき、何もなかったかのように平で真っ白になっていた。
「まあ」
私は少し予想できていたので少しだけ驚き、アネモネ帝国の技術に感心した。ここアマリリス王国などでは現代の機械のような物は無い。完全に魔術重視なのだ。
「あ」
部屋が戻るのなら身体も治るわよね!
けれど、もし大雑把な治り方をしたら大変よ。最悪、不発でもすぐ治せるように、まずは親指の先で試しましょう。
私はスカートを捲って足ベルトからナイフを取り出すと、迷いなく親指の腹に刃を強く押し当てた。
「ソフィア様!」
ローラが息を呑む。ちくっとした痛みのあと、親指の先からぷくりと一滴、赤い血が滲み出た。
――けれど、それも一瞬。
滲んだ血がすうっと消え、傷跡さえ残さずに元の綺麗な指先に戻っていく。
「えー! やっぱり! 凄いわ、この部屋」
回復しなくても大丈夫なように親指にしたが、直ぐ回復した。
予想がバッチリ当たってはしゃぐ私だったが、直後、両肩をがしっと強い力で掴まれた。
「ソフィア様、私が何を言いたいかはお分かりで?」
「は、はい……」
そこからはローラが強かった。
「ソフィア様が間違うなんてありえませんが、もしも間違えたらどうするつもりだったんですか?幸い傷は浅かったですが、少し間違えたら……私……」
目を潤ませる。
「ごめんなさい、これからはもっと考えて行動するわ」
泣かれてしまったらもうお手上げだ。でも、ちょっと過保護すぎないかしら。
「事前報告をお願いします……」
「分かりましたわ、ローラさん」
丁寧に言ってみたら、なんだか変な顔をされた。
42話、悪役令嬢(主人公)は当然ながら巻き込まれるを来週土曜もしくは日曜日に投稿します!軽くシリアス回です




