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37.悪役令嬢は乙女ゲームの始まりを改めて知る

 月日は流れ、彼の者は騎士となり、彼の者は商人となり、彼の者は文官となり……。

 私はとうとう、聖アマリリス王立学園へ入学する。



 聖アマリリス王立学園の石畳を、ヒールの音を響かせて歩く。

 馬車から降り、学園に向かって歩きながら聖アマリリス王立学園の制服をちらりと見る。

 眩しいほど純白のジャケットの襟元には、緻密な金の刺繍が施されている。胸元で揺れる青いブローチは、まるで澄み渡る初夏の空を切り取った色をしていた。

 ネイビーのベストをきっちりと締め、フリルのタイを整える。



 ああ、この制服、ほんっとうにおしゃれだわ。

 男子と女子の制服は似た構成になっているけれど、どちらともおしゃれで、バランス良くまとめられている。

 今日は入学式なので、制服と同じブローチが付いたネイビーのリボンを私は髪につけている。

 それがまた可愛い。

 私という美の暴力に美を加えたら、鏡で自分を見た時、眼が死にそうだったわ。



 うふふ、と機嫌よくしていると、石に躓いて転びそうになる。

 地面が迫る、と思った瞬間。

 ぐい、と強い力で腕を引かれ、私の体は宙で止まった。

「大丈夫か? 気をつけろよ」

 聞き慣れているけれど、でも少しだけ低くなったギルの声。

 差し伸べられた彼の手と、その言葉が引き金だった。

『大丈夫? ソフィア?』

 脳裏に、今の状況と重なるようにして、見覚えのない光景が脳裏をよぎる。

 それは、見渡す限りの美しい花畑。風に揺れる花びらの向こうで、誰かが私を心配そうに覗き込んでいた。日光に反射されて輝いている銀髪が揺れる。

 その温かな声、懐かしい空気感。でも、それが誰なのか、いつのことなのか、どうしても思い出せない。

 「ソフィアお姉様……?」

 ぼーっと立ち尽くす私を、隣にいたレオンが不思議そうに、少しだけ心配そうに覗き込んでくる。

 彼の言葉で、私は慌てて思考を現実に引き戻した。

 「な、なんでもないわ。ありがとう、ギル」

 平静を装って歩き出すけれど、胸の奥のざわつきは消えない。

 なんだろう、今の。前世の記憶? それとも、何かのアニメの記憶?うーん、私前世でも思い出とかはすぐに忘れるからなー、全く分からないわ。まあ、いっか。



 入学式が行われる、学園の象徴とも言える大講堂(オーディトリアム)に着いた。ここで、一旦ギルとは別れる。

 重厚な扉が開かれると、そこには既に多くの新入生たちが集まっていた。

 高い天井から吊るされたシャンデリアが、私たちの真っ白な制服をさらに眩しく照らし出す。私の視界に飛び込んできたのは、整然と並べられた椅子と、壇上に掲げられた王国の紋章。

 私は講堂内を観察しながら、レオンと隣の椅子へ座った。

 数分すると、隣に誰かが腰掛けた。見ると、フランクが座っていた。

「よっ」

 彼は、私達に片手を軽く上げる。

「昨日ぶりね」

「そうだな」

 フランクは、最近勉強の量を減らしたらしく、高頻度でサブジーナス家に遊びに来る。領地は隣り合っているから、移動は楽だけれども、来すぎじゃないかしら。

 現代日本のクラスの男子達を思い出したわ。あいつら、しょっちゅう誰かの家でゲームしてたのよね。

「ていうか、ソフィア、お前身長低くなったか?」

 フランクが聞いてくる。その言葉に、私は普通の声量にとどめながらも怒りを顕にする。

「あのねぇ……!私、160cmあるのよ?女子の中では高いわよ!お前らがデカくなりすぎなのよ!」

 最近、フランクは身長の件で私をからかってばかりだ。一昨日もこの質問をされたわ。そろそろ、拳(物理)で語ることを考えている。

 ちなみに、フランクの身長は167cmで、ギルは165cm、レオンは163cmだ。全員私よりデカくなりやがったのよね。特にフランクは癪だから、もっと伸びてやるわ。



 そんなことを思っているうちに、大講堂は新入生で埋め尽くされ、入学式が始まった。学園長の挨拶の後、新入生代表がスピーチを始める。

 確か、今年の代表は……

 「新入生代表、シルヴィア・ロドン」

 皆初めて聞くであろう、呼ばれた名前に、大講堂が小さくどよめいた。

 壇上に上がったのは、私と同じ白と紺の制服に身を包んだ、白銀髪の美しい少女。

 

 

 彼女は正面を向くと、13歳とは思えないほど落ち着いた、透き通った声で話しだした。

 「皆さん、ご入学おめでとうございます。私の名が呼ばれたことに驚く者も多かったと思います。改めて挨拶させていただきます。この度、聖女に就任されました、シルヴィア・ロドンと申します」

 彼女の言葉に、大講堂がざわめく。平然としているのは、王太子殿下とフランク、そして私だけだった。

「皆様と共にこの学園に入学できましたこと、とても嬉しく思います。社交界に慣れない身ですので、困った時は助けてくださると幸いです」

 ふわりと彼女は笑みを浮かべる。

 パチパチパチ、と大講堂に割れんばかりの拍手が響き渡った。



 彼女こそ、今代の聖女であり、私たちの同級生、そして、聖女シリーズ第2作目「アマリリスの聖女」の主人公だ。

日曜日にまた更新します!

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