お土産。
「あ……そういえばなんだけど、属性検査に使ってた石板。王家に返さなきゃないんだけど、これ、石板に戻らないし、使用者登録が私で固定されちゃってて外せないから、新しいのを用意して持っていかないと」
管理者権限で思い出した。
メアリローサ国の王家で使われていた属性検査に使われていた石板だった物。
魔導学院に強制転移させられる時に、ブレスレットのような形状となって、外れない。
というか、元の石板に戻らない。
大事に保管されていたようだから、確実に貴重なもの……機能も優秀だものね。
帰ったら返えさなくちゃいけないのに。
まぁ同じ石板であればいっぱいあった記憶があるから、問題はないんだけど、私が触るたびに同じ現象が起きても困るから、起動するにしてもせめてイエス、ノーの選択ができるようにしておこう……。
「ルーク、メアリローサ国で入手が難しい物とか、何か欲しい物はあるかい?」
「薬草であれば、それこそ、魔力熱に使うキナが欲しい。全く入ってこない」
『キナ』前世では伝染病であるマラリアの治療薬、解熱作用があるとして有名で、こちらでは更に伝染病である魔力熱にも効果がある。
マラリアは夜になると、高熱に吐き気、下痢を起こすのだけど、夜中くらいには治るんだ。
ただ、それで完治ではなくてね、また夜になるとさっきの症状が出る。
これが毎日続いていくのだけど、症状自体は軽くなっていくの。
……だから治ったと思うでしょ?
治ったと思うころにはね、内臓がぼろぼろになってるの。
血を破壊していく病気だからね。
内臓を直接攻撃する訳では無いのだけど、血が破壊されてしまうと、内臓は何もできなくなっちゃう……。
(日本では罹ることがほぼないと言われているけど、マラリアが頻発する地域では、赤ちゃんの主な死因にマラリアという名が出てくるんだ……)
まぁ、こっちの魔力熱はマラリアと違って、虫を媒介して広がるものではないけど、子供の致死率がとにかく高い。
数年おきに大発生をして、インフルエンザのように一気に広がっては、たくさんの子供の命を奪い去っていく。
「育つ気候が違うからね……あれは熱帯植物なんだよ。しかも大きく育った木の皮の部分だから、メアリローサでは、発芽はしても、収穫できるまでは育……あ、育つわ」
つい最近、特長的な幅広の葉を見かけてる。
それにメアリローサ国って縦に微妙に細長い地形だったから、南の下限あたりでならもっとしっかり育つかもしれない。
それこそ収穫が見込めるほどに。
「似たような形状の雑草をこの前、聖樹の丘からの移動中に見かけてる。あれ、キナだわ。ただ、すごく細かったから、メアリローサ国では自生したとしても一年草、もしくは宿根草みたいな感じなのかもしれないね。原料って意味だと、そもそも木化した部分を使うから、5年から6年以上育たないと無理だし……環境でいうなら国境の南の下限辺りなら、何とかなるかも?」
「……ひとまず資材庫のものを少し分けてもらおうか。種もあるなら欲しい。栽培も視野に入れたい」
ルークの目が光る。研究好きだもんね。
エルフの得意分野とも言うべき薬草の事だし、これは任せてしまった方が確実な気がする。
ま、栽培って言っても、魔素の関係上、畑では育てられないから、気候の合いそうな森に植えて放置するしかないんだけどさ。
熱病への治療薬としても使われてるくらいだから、魔力熱以外にも、効能が期待できるかもしれないね。
「あとはないかな?」
「流石に急には出てこないな」
ルークが唸りだしそうな雰囲気で、顎を軽くさわる。
その一つ一つの仕草にすら、見惚れてしまう綺麗なお兄さんなのに、今の仕草はどうにもおじいちゃんっぽくて思わず笑ってしまい、不思議そうに顔を傾げられてしまった。
何でもないのよ?ふふふ。
紅茶や焼き菓子の注文と同じように、薬草と石板をリストに入れた。
……ちゃんと持ってきてくれるかな?
ダメだったら直接取りに行かないと…と思ってたら、もう届いてました。早すぎ。
あとは……本題かなぁ。
「じゃあ、必要そうな物はおいおい思い出したらって事で。ずいぶん脱線しまくっちゃったけど、本題の帰宅ルート考えないといけないね」
「……王には『死の森を抜ける』と説明してしまったが、転移魔法陣を最大限に使いたいところだな」
正直、今のメンバー全員が戦闘に不向きである。
主力になるだろうルークは強いと思う。
それでも『死の森』では『最低限なら動けるだろう』というレベルになってしまうんだ。
しかも、幼児2人を守りながらでは、到底無理だ。
(きっと必死に守ってくれるだろう、けど、そういう状況は作らないのが一番だ)
みんな無事で帰らないと、ダメ。
応接のテーブルをつつーっと指で突くと、周辺マップの他に転移魔法陣の設置されている場所がほんわかと光って表示された。
今思うにこれって、スマホとかパッドみたいな感じだねぇ。
持てるものなら、このテーブルを持ち帰りたいわ……。
めちゃくちゃ、重そうだけどね。
「魔導師学園に転送された時みたいに直通ルートが使えたらいいんだけど……緊急用だから一方通行みたいなのね。一番、メアリローサ寄りのルートだと……あれ?聖樹の丘あたりにゲートがある」
「あぁ、ただそれは一度、上に出てから乗り換えないといけない」
他のルートを探してみるけど、学園内からの直通で行けるゲートは、魔導学園の上に広がっている王国内か王国の外……今では思いっきり死の森の中です。ここは危なすぎる。
「魔導師学園から直通だと……一番メアリローサ方面に移動するにしても、死の森のど真ん中……か。だと、やっぱり一度上に出て乗り換える方が早いね」
「上のゲートが生きてるかは確認できるか?」
『上』つまりさ、この魔導学園から、まず上部にある王国に向かうことになる。
王国は……魔物の氾濫で滅びてしまってるんだ。
ただ、その王国にあった、転移魔法陣の乗り換え場所まで行かないといけない。
まぁ、あれだ。前前世というかシシリーの生きていた時代は、魔法が使える人にとっては、遠距離の移動って結構楽だったんだよ。
(魔力がなくても、代行で魔力を込めて魔法陣を発動してくれるお仕事もあったし)
前世にある駅のような場所で、たくさんの転移魔法陣が描かれていて、それぞれ行きたい場所へ行けた。
その周辺には、衛兵の詰所があって、さらに屋台なんかも出てて……賑やかだったのになぁ。
見る影もないんだろうなぁ。
転移魔法陣の管理は、開発者が……つまり魔導学園が、定期的に保全点検に動いてたのを記憶してる。
地図上では機能していると光ってる表示になるみたいで、逆によく使ってた位置で光っていない部分もあった。
街中のだから、きっと戦闘とかがあって魔法陣が崩れてしまったのだろうね。
「生きてる。でも周囲が安全かどうかはわからないの」
「それは調べさせよう風の乙女、上のゲート、わかるな?様子を見てきてくれ」
『はいはい~行ってくるわ。あと王から「気をつけて」ってのと、宰相から「お土産よろしく」って』
いつの間に戻ってきてたんだろう?
風の乙女の可愛らしい声と、何故か…私が指でつんつんしていたテーブルのあたりから、小さな手がにょきっと生えるように現れて「バイバーイ」とでも言うように振られると、また姿を消してしまった。
えっと……風の乙女のおまけのような伝言に思わず笑ってしまったのだけど……ねぇ、お土産ねだってる宰相って、まさかの父様じゃ無いよね?!