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お誕生日。

 




「あとはお土産……何がいいのかしら?」



 国の宰相がねだるようなお土産なんだから、珍しい物が欲しいのかな?

 それとも有用そうな魔道具(マジックアイテム)?



「……そのジャムとクッキーでも持ち帰るか?」


「……ぶっ!それ、何してたのか疑われそうだから、やめてっ」



 ついつい手が止まらずに、会話中もジャムをクッキーに盛るようにのせて食べていたので……突飛な案に、思いっきりむせかける。

 ……とっても美味しいから、持ち帰れるならゼンやエル達に食べさせたい。



「クランベリー、好きだろう?」


「好きだけどっ!」



 涙目になりつつ、紅茶で喉に詰まりかけたクッキーをどうにか流し込む。

 文句を言おうと見上げた先には、楽しげに笑いながらクッキーとジャムの追加注文をしているルーク……本当に持って帰るつもりなの?!



「きっと大切に研究所に持ち帰って、検査されて……きっと何かあるはずだ!とか……ひたすら探究されるのでは?楽しみだな」


「それ、意地悪でしかないから…普通のクッキーとジャムだしっ!」



 こだわるにしても、味の再現だって、レシピさえあればメアリローサ国でも可能だから!

 もういいや、ルークの意見は当てにならない。

 頑張って考えよう。



「王子達には指輪でいいかな……護身用のなんだけど、杖の代わりになるやつ。エルにも持って行こう……父様には、うーん。鈴でいいかな。他の宰相って、どんな人なんだろう?何が喜ばれるかな?」



 一応実用的な路線で選んだつもり。

 剣技やら色々習うっぽいけどさ、それでも咄嗟の時ってあったら嫌だから。

 しっかり守れるように。


 父様は前線で戦う事もあるみたいだから、鈴の方が使いやすいと思う。

 他の宰相は……正直どんな方か知らない。

 セシリア(わたし)の叔父にあたる方達なのだけど。



「……育毛剤?」



 私の手が、紅茶を飲もうとカップを持っていた手がぴくりと止まる。

 育毛剤って……あのまま飲んでたら、思いっきり吹くところだった…危ない。



「……さっきからやたらと失礼な気がするんだけど……怒られるよ?と…え、もしかして結構深刻な感じ?喜ぶなら……育毛じゃなくて発毛剤があるけど」


「発毛…あるのか……喜ぶと、思う…っふ」



 ムッとしつつ、ルークを見ると紅茶を片手にふるふると震えて俯いていた。

 ……宰相は、おいたわしい感じなのだろうか。



「ぶわっと、生えるよ。塗った途端に、艶々の綺麗な髪が」


「…ぶわって……ぶ…くっ…」



 ……勝った。

 さぁ、笑い転げてしまえっ!

 私のクッキーとジャムの仇っ!


 震える手でなんとか紅茶を置きなおし……やっぱり笑いが抑えきれずに笑い出す。



「永久脱毛の薬剤の依頼を受けてたんだけどさ、じゃあその『毛のメカニズムを調べよう!』ってやってる段階で、うっかり出来ちゃった」


「うっかりって……あはははっ」



 爆笑で息も絶え絶えである。

 ちなみに効能はちゃんと長く効きます。



「ちなみにもう1人は…?」


「直接の絡みはないが……胃腸薬かな。最近、申請が多い……ガレット家と教会がらみでね」


「あ……ごめんなさい。それ、ほぼ私ですよね……」


「だな……ふふっ」



 笑いが止まらなくなっているようで、普段の無表情では綺麗すぎて冷たくも感じる顔の頬が赤らみ、琥珀の瞳には涙まで浮かんでいる。

 ……そこまで笑わなくたって。


 でも良い笑顔。思わず見惚れちゃう。



「……試作というわけじゃないんだけど、シシリー(わたし)が作ったやつでも、いいかな?」



 つまり納品用とか製品としてではなくて、個人的に作った物だから、ラベルとかも手書きなんだ。

 つまり、見た目からしてちょっと怪しげ……。

 使ってもらえるかしら?



「それなら、私も何か欲しいな……」


「ルークも?……うーん…あ!あるある!ちょっと待ってて!」



 ここで笑顔で、ルークの分!って発毛剤でも渡そうかと、ちょっと……いや、かなり思っちゃったわけですが、やめておく。

 何故なら私室に、ルーク用に準備しておいた物があったから。


 そーっと私室のドアを開けて中を覗くと、ユージアがすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てているのが見えた。


 こっそりと入室して、サイドチェストの一番下の引き出しから、小さな包みを取り出すと執務室へ戻った。



「はい、どうぞ……渡しそびれた、というか、渡す前に会えなくなっちゃったから」



 魔物の氾濫(スタンピード)で……。

 物は完成してるのだけど、ラッピングまでは間に合わなくて、取り寄せておいた収納用の布張りの小箱に詰め込んで、がさっと作業用に敷いていた紙で包んであるだけだった。



(……今になって渡す機会ができるとは思わなかったよ)



 不思議そうな顔をしながらルークが受け取るのを確認して、顔を見てにこりと笑う。

 こういうのって自然と笑み、出るよね。



「お誕生日おめでとう!」



 当時のデザインを真似て作ったものだから、今の流行ではないかもしれないんだよね……。

 でも、大奮発して作ったの。

 ルークは、本当に凄かったんだよ。

 武勲をたくさん上げたから、近々表彰される予定だった。

 それのお祝いも兼ねて、私も頑張ったんだ。



「ずいぶん時間かかっちゃったけど……渡せてよかった」



 嬉しそうに、笑い返して欲しかったのに。

 思いっきり俯かれてしまった。



「あり……がとう……」



 返事もさっきまでの明るい声はどこへ行ったのか、暗い。

 雫がぽたぽたとこぼれて、紙の包みに染みを広げていく。



「……って、ちょっと……泣かないでよ」



 長い艶やかな黒髪が、俯くルークの顔を隠してしまっているのですぐには気づけなかったけど、また泣かせてしまったみたいだった。

 うーん、ガッツリ無表情の学生時代の時より、今のルークの方が笑顔も素敵で表情豊かだとは思ったけど、泣かれちゃうのは困る。


 隣に移動して、黒髪を肩へ流すようにして覗き込むと、端正な顔をぎゅっと歪めて、泣いていた。

 ……大人の男の人が泣くのを見たのは二回目か……って、両方ルークだし……。

 そういえば、ユージアも泣いてたなぁ……このエルフの親子は涙脆いのか?




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