ケツドライヤーねこ
「画面の前のお兄ちゃん!こんばんゎ〜マジ崎すももだよぉ〜」
松平貞義。
四十三歳、元ネカマ。
二年ほど前勤めていた会社で行っていたセクハラを摘発されクビになったところを元ネカマの経験を活かし、Vチューバーとなった。
そしてついには甘ロリ猫耳貧乳妹系Vチューバー『マジ崎すもも』として、自身の趣味でもあるポケカ関連の動画界において頂点に君臨したのだった。
「うわぁ〜投げ銭ありがとぉ〜すもも投げ銭だーいすき」
彼は資産のほとんどを収録や動画作成の機材に注ぎ込み最高級の萌えキャラの土台をつくりあげると、アズールレーンやりゅうおうのおしごとなどのロリコン御用達のアニメを視聴し研究する。自宅からはそういったアニメのブルーレイが大量に保管されていた。
二十五作品鑑賞し終えたところで、彼は恋声を手にし、完全なる雌への進化を終えたのだった。
「おじさんは必要とされてるんだ」
おじさんは顔も知らない画面の向こう側のオタクにチヤホヤされることに至上の喜びを感じていた。
もだえるコメントや恋声の力を借りた甘ロリボイスで話している時――彼は自分が加隈亜衣すらも超えたロリボイスだとすら考えるのであった。
「満たされない」
だがいつからだったろうか。
掲示板や動画のコメント欄でちやほやされても少しも心が埋まらない。
自分は完ぺきな幼女を演じている自信がある。
その証拠に動画の再生数はうなぎ登りの十億万再生だ。
誰もがうらやむ幼女。
中身がおじさんだとは疑う者すらいない。
だが何故?
何故こんなにも心が乾くのだ?
受肉しなければ。
幼女の体をこの身に!!
貞義は決意する。
本物の幼女を求めるもの。
様々な強人類が集まる成増において抜きん出て異常者と呼べる存在。
それがおじさんなのだ。
「いきなり人称ジャックしてわけわかんねーモノローグ挟むんじゃねー執筆作法警察に見つかったらどうすんだテメー!!」
成増民の自分語りのクドさはTwitterでも中々お目にかかれないものがある。
「ふふふ……おじさんはルールには縛られない。リノイネヤアクッミナヤア……」
「なにぶつぶつ言ってんだ?」
「何かな?……呪文の詠唱?」
「ナカワザナハ!!」
おじさんは叫びリコーダーを振りかざす。
アルトリコーダーから放たれたのは緑色の閃光だ。
俺を抱えたまま避ける真冬。
緑色の閃光は近くの交番跡地にあったピーポくんのクソデカ人形を粉々に破壊する。
「最期までおじさんを見ていろ!お前の瞳におじさんへのガチ恋が芽生える瞬間が見たいのだ!」
「殺しに来てるやつに恋なんて芽生えるわけねーだろ!」
「成増では止まらぬ!おじさんはいずれ世界すら恋に堕とすのだ!サズアロコドタ!!」
おじさんのアルトリコーダーが火を放つ。
そばにあったもう一体のピーポくんも焼き払われた。
なおも止まらぬおじさんの意味不明な呪文と魔法に逃れるべく近くにあった河原の橋下まで逃げる。
「なんだあれ!シューティングゲームの最高難易度みたいな弾幕だぞ!どうすればいいんだ!」
「あのおじさんはどうやら強大な握力を持って闇の幼魔法を手にしたようね。あの力の源であるアルトリコーダーを取り上げれば多少は戦えると思うんだけど……」
うん。普通に考えて無理だな。
母子共に諦めかけたその時。
「ふぅん……宇治春。いつからその様な無様な赤ちゃんになってしまった?」
橋の上に誰かいる。
逆光も相まってなんだかとても強そうに見えるそいつは。
「おまえは!?よしたか!!」
意外な男がそこにいた。




