完全無欠の小5ロリ秋子ジーニアス!!
愛の女神に懇願するよしたかを放置して安全な場所にまで避難すると俺は真冬に話しかける。
「というわけでお前はどこに行きたいの?」
真冬は少し考え込んで、キラキラとした笑顔を向けながら言う。
「ジム」
「ダンベル何キロ持てる!?」
俺はボディービルダーと会話をしているのだろうか。
あまりにもとんがった目的地に俺の回答も迷走する。
「冗談よ……そうね。普通に成増の街を歩くだけでもいいんじゃない?いこ!」
真冬は俺の手を自然にとって先導し始めるが、異性に触れられたせいで俺の平常心はブレイブルーのコンボ動画のように永遠かつ一方的にボコボコにされ始めている。
そんな俺をよそに真冬はどんどん進んでいく。
成増の駅前、モスバーガーの先を過ぎるとそこはもうゴッサムシティと同じくらい美しく治安の悪い街並みが広がる。
「ほんとに……居酒屋しかない街だな」
高潔なる魂を持つ板橋区民なら当然承知だと思われるが、成増駅前の建物は6割くらいが居酒屋だ。
あとはダイエーと謎の個人商店とかが大半を占める。もちろんパチンコ屋も完備だ。
たまに広場でなんかやってたり、流行りに媚びた薄汚いタピオカミルクティー店などがあったりと本当にこの街はどこに向かっているのか、地元民でも不安になるくらいカオスな街並みだ。
「ねえ、アレはなに?」
ふと真冬が指差した先にも場違いな建物だ。
ケバブ屋である。
「ああ、あれはケバブだな。トルコかなんかの料理で秋葉原のソウルフードだ」
「トルコなのに秋葉原?なんで成増に?」
「それはここが全てを受け入れる街だからだ」
論破。
真冬は納得していない顔をしているが成増は全てを受け入れるのだから仕方ない。
「ねえわたしアレ食べてみたいな」
「食ったことないのか?なら食べてみるか」
移動販売の車に近づくとやたら顔の濃い外人のおじさんがこれ以上ないくらいに輝かしい笑顔を向けてきた。
「お兄さんさては子づくりの前座に力つけるね?肉食いなよ肉!!」
俺は無視して金だけ払って注文を済ませる。
さりげなく二人分出したら顔の濃い外人は「君、できるね?インド人もターバン外しちゃうよ」とまるで応えた様子なく意味不明な返答を返す。お前インド人違うだろ。
「お姉さんおっぱいおっきだから肉サービスしといたよ!」
虫ケラを見下す風な真冬に反して、彼は未だとてもいい笑顔である。
どうやら性欲は万国共通らしいということが分かったところで俺たちは早々とその場を離れることにする。
やや距離を取ったところで真冬がキョトンとした表情で尋ねる。
「これ?どうやって食べるの?」
「かぶりつくんだよ!!本能のままに!!おぼこぶってる場合じゃねーぞ!!今夜は戦争なんだろ!!!!」
耳ざとく聞きつけていた外人が叫んでアドバイスを投げかける。うるせーよ。結構離れてんのにききつけるとか聴覚異常者か。
真冬はおそるおそるケバブにかぶりつくとしみじみとした声音で感想を述べる。
「……おいしい」
「ほんとに初めて食べたんだな。もしかしてハンバーガーとかも食べたことない感じ?」
「わたしの家毎日フレンチかキャビアかフォアグラだから。ハンバーガーも家系ラーメンも牛丼も文献でしかお目にかかったことがないわ」
「貧乏人の考えた金持ち像そのままだな」
マジで言ってんのかい?と問い返したくなる食生活だ。エンゲル係数どうなってんの?
「一応わたしイングヴェイ=マルムスティーンと同じで貴族だから」
初耳だぞおい。
スウェーデンのギタリストを名前に挙げられるなよ。あいつもギターから火とか雷出してたから多分強人類だけどよ。
「それで貴族さまの口には合ったわけだ?」
「うんおいしいよ!ありがとね!」
無邪気に笑う真冬を見ていると、数年前の彼女がシュワルツェネッガー五人分くらいの筋肉モリモリマッチョマンだったとは未だに信じられない。
それは真冬も同じようだったみたいで。
「こんな平穏な日々を過ごす日が来るなんて……数年前のわたしなら信じないよ」
「俺は未だにお前が成増のアーチャーだと信じられない」
「それは信じてよ。でも姿も本当に変わった。わたしは変われたよ。あなたに二度も負けたおかげでやっと気づけた。握力以外にも強さがあるって。握力の強さ以外にも素晴らしいことがあるって」
「そう思ってくれるのならボコボコにした罪悪感も少し薄れるぜ」
当時は男だと思ってたから遠慮なくやったが、ここに来て性別を知って罪悪感は少しだけあったのだ。
真冬はいいよ気にしないでと言いながら、上目遣いで俺に問う。
「ねえ……もう少しだけ話聞いてくれる?」
「ああ、構わないが」
真冬はポツリポツリと身の上を語り始める。
「わたしの家厳しいから。家督を継ぐのは一番上のお姉ちゃんだったけど、物心ついた頃にはわたしもダンベルを握らされていた。シュトロハイム家の名に泥を塗るようなひ弱な女になることは許されなかったの」
厳しいし頭おかしい家庭だったんだな。
それに姉ちゃんが何人かいるのか。
真冬の過去の姿を想像すると、やはり吉田沙保里と同等の能力者なのだろうか?
「だけどあなたに筋肉を奪われて寝たきりになってからは、当主から見放されて割と自由になれた……あのレズメイドに蹂躙されることを除けば」
ケバブを食べ終えて残った包み紙が握力で発火し蒸発した。
よほどそのレズメイドとやらはヤバイ存在だったのだろう。憎しみが包み紙を蒸発させる程なのだから。
「でもその時のわたしはまだまだ自由じゃなかったよね。あなたにもう一回負けるまでただ握力を取り戻すことしか考えてなかった。こんな風に友達が出来るなんて思いもしなかったし、街中を歩いて、好きな食べ物を食べるなんて……こんな未来が来るなんて、きっとわたし一人ではたどり着けなかったよ」
真冬は俺を見上げた。
彼女の両目は何かを理解した色をしていた。
「きっとそれがあなたの強さなんだね。一人じゃないってすごく強いことなんだね。あなたの言ってたなんで負けたかの理由がそれ――数年越しの宿題を終えた気分だわ」
すーっと深呼吸して真冬はニコッと笑顔になった。
これには控えめに言って俺の心拍数がヤラれた。
「だからね……わたし、多分あなたのことが好きなんだと思う。こんな気持ち初めてだからよくわからないけど。あなたがそばにいるとすっごく胸がドキドキするの。ねえ……あなたは?」
何かを答えなければいけない時が来ている。
委員長の時のようにうやむやにしてはいけない。
分かっている。
漢としてそれは分かっているのだがそれ以上に気になるものがあるのだ。
視界のすみっこですみっこぐらしばりに目立たないようにしているがその巨体のせいで全然すみっこに暮らせないあいやんマンとポケカおじさんだ。
「尊い……尊い」と呟きながら言う涙を流している。
犬は相変わらず鼻で嗤い、こいつらへの殺意と真冬の正直な告白が相まって俺はもう返答どころではないのだ。
「殺戮のベルが鳴る。かれぴっぴの思慮に欠けた行動が秋子の怒りに火をつけた」
とその時不安な声が会話を遮る。
大家さん(ロリ)だ。
なんかどす黒い色の薬品の入ったボトルを両手に一つずつ持ち、鬼の形相を浮かべている。
そん彼女は突然ボトルの片方をランドセルに突き刺す。
「ラビット!!」
「ラビット!?」
謎の電子音声が流れるや否や、大家さんは二本目のボトルをまたもランドセルに差し込む。
すると再び謎の電子音声が轟く!
「十一歳!!」
「何を始めようとしてるの!?このおばさん」
「日高里菜!!」
変な決め台詞と共に大家さんの風貌が変化していく。
謎の全裸発光というやつだ。
この人の実年齢を知らなければ、ハイクオリティで女児モノアニメを三次元再現していると思うだろう。
「ペロペロの最適性年齢!!秋子・ジーニアス!!」
「さらに若返っだとおおお!?」
そこに現れたのはうさ耳と白いスクール水着を身に纏い、ソプラノリコーダーと赤のランドセルを装備したどこに出しても恥ずかしい幼女が現れた。
「完全無欠の小五ロリ!!秋子ジーニアスの力をおもい知るですぅ!!」
何故若返るのか?
何故ジーニアスなのか?
そしてこのおばさんはこんな格好で恥を知ることがないのか?
そしてそして何故この人はこんなにも空気を読めないのか?
今人生ですげー大事な場面にいるような気がするんだぞ俺。邪魔すんじゃねえ。
「うううぅうさぎさーーーんっ!!秋子おおおお!!力がみなぎるぅよぉおおお!!こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう!!」
大家さんはソプラノリコーダーで地面を何度も叩く。
大地は揺れ、緊急地震速報がスマホから鳴り響く!!
強大な力と若さの代償に、大家さんは精神が壊れた感が半端ない。
「なんなんだよ!!このおばさん!!」
「黙れ!!」
俺の暴言を見逃さなかった大家さんはリコーダーで斬りかかる。
腕の腹で受け流そうとした俺だったが、
「お、折れたーーーー!?」
右手がふにゃんとなってしまった。
これには流石の俺でもビビる。
「小五の力……思い知ったカ……おとおとおとおとおとなしく……婚姻の「ギ」を受けるのダ。ぴょーんっ!!ぴょーーーーおおぉんっ!!」
段々心壊れていく。
この禍々しい笑顔とともに。
あまりにも強大な握力と狂気に俺は本気で死を覚悟するが、
「わたしが相手よ!!」
傷ついた俺を庇うように真冬が立ちはだかる。
「今度はわたしがあなたを守る番!!」
やだ……かっこいい。




