コンク(直毛にするやつ)
「宇治春ぅうううう!!入院したっていうからきたが何があったんだぁあああ!!」
「ぴかぴ?」
「マリィちゃんと女主人公のレズがトレンドになるこの時代にピカチュウになってるじゃねーか!!どんな精神的苦痛を受けたんだ。それに握力が抑えられなくて右手だけゴリラのままだ!」
ありそうでなさそうでそれでいてありそうな名前の病院――成増総合病院に俺は入院している。
病室に駆け込んできたのはよしたかで俺の安否を気遣ってくれたようだ。なんていいやつ。
「すまない。胸の奥がムラムラして右手の制御が効かないんだ。このままでは暴走した握力の影響で周囲の生命にまで悪影響を及ぼしてしまうから無理やり入院からの隔離だよ。なあ、俺はどうしたらいい?よしたか?」
「原因は肥大した性欲か?ならば特効薬を持っている」
よしたかはしばらくスマホをいじると何かの画像を見せつけてきた。
「見ろ。スーパー銭湯なんかにいるアカスリのババアの画像だ。これで暴走は収まるはず」
ピチピチの水着を着た太めのババアの画像によって握力以外にも色々なものを奪われた俺の右手は人間のものへと戻る。
「サンキューよしたか。かなりの荒療治だったがこれで退院できるぜ。あとそんな画像、なんで持ってる?」
「世の中には知らなくていいこともある。これもまたその一つだ。だがあえて理由をつけるとすれば性の探究心を忘れなかった代償といったところか……」
「深淵を覗く時、深淵もまたお前を見ていたんだな……」
賢者の探求は時に危険を冒すこともあるということか……端的に言って釣られたのだろう。
「聞かせてくれよ宇治春。何があった?」
落ち着いた俺を見てよしたかが問う。
俺は正直に答える。
「kissだ。同年代の女子にチューされた」
「てめえ殺してやる!!」
よしたかは恐ろしく速い手刀を繰り出すが華麗に回避する。
殺人中毒者の成増民の攻撃……俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「そんな羨ましい理由で隔離されてやがったのか」
「ああ、しかも二人の女子とひとりのロリおばさんに順番にデートをさせられる始末だ」
「なんでRPGのダルいお使いイベント消化してるテンションなんだよ!!お前の悩みは全世界の童貞が束になって魂を捧げても錬成できない願いなんだぞ!!」
「だからこそだ!よしたか!!俺もお前と同じ童貞!!強すぎる良薬は毒薬にもなるんだ!!天国の時間にスタンド使いでもない俺はついていけないんだ!!」
適度なストレスが人を人足らしめるとするみたいなことはPSYCHO-PASSで学習済みだ。
「すでにおばさんと女子ひとりのデートは消化した。そしてその女子にキスされたのだ。こと色恋沙汰に関して、俺の脳内メモリは昔のゲーセンの筐体――MVSと同程度だ。わかるか?」
「そりゃパンクしちまうな宇治春。だが聞き捨てならないことが一つある……貴様、まだデートの相手がいるのだな?」
「ああ、確かにあとひとり」
「おじゃましまーす!!」
「ぎにゃーー!!」
「空気の読めない女が残っている!!」
病室に乱入してきた真冬が勢いよくドアを開き、よしたかは吹き飛ばされた。
「チューの祝福を受けた上に、金髪……碧眼……おっぱいの三種の神器。許せん。貴様の運命が許せん」
「神々に定められた運命なのだ!!俺にはどうしようもできない!!」
「神話始まってる!?なにスケールの大きい話してるの!?」
「気にするな平凡な成増の小市民の話でしかない」
「あの憎しみの表情見てそんなこと信じられないよ!!何したの!!一族郎党根絶やしにされたみたいな目してるよそこの人!?」
見ると1940年代頃のハーレムにおける黒人マフィアのような視線がよしたかの瞳から注がれている。
「逃げるぞ!!俺がバラされる前に!!」
「やっぱり物騒な話してたの?!」
俺は真冬の手を引き病室を後にする。
「俺にも祝福をよこせええええ!アフロディーテえええええ!!」
よしたかの奇声は怨嗟に塗れていた。




