参る
「秋子推して参る!!」
「簡単には負けませんよ」
ソプラノリコーダーから繰り出される目にも留まらぬ連撃を委員長は両手でさばききる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「くっ……この幼女何者ですか!?私の握力を持ってしてもさばききるのが精一杯です」
「なら二人はどう!」
どこから持ち出したのか真冬は鉄パイプを秋子に振り下ろす。
人格を疑いたくなる蛮行は昔のままだ。
こいつちっとも反省してない。
マジでこれ流血沙汰になるんじゃないかと疑う勢いで鉄パイプは振り下ろされるが、
「小太刀二刀流!陰陽交叉!!」
「ナニソレイミワカンナイ!!」
どこからか取り出した二本目のソプラノリコーダーで鉄パイプを受け止める。
俺は漫画好きの陰キャだから辛うじて秋子の技にピンと来たが令和生まれの真冬にはジェネレーションギャップという壁により理解が追いつかない。
「秋子はお前らのような若さを盾にするタックチック売女共には負けない……死ねぃ!!」
「パ!パーレー!!」
「海賊の掟など秋子には関係ない!!死ねですぅううううう!!ボゲえええええ!!」
秋子は二人を薙ぎ払う。
間髪入れずリコーダーで地面を叩きつけると地割れとともに衝撃波が二人に向かう。
今更ながらナンダコレ?
ハイパーバトルビデオ始まってる?
「かれぴっぴは秋子のかれぴっぴ!!かれぴっぴは秋子のかれぴっぴ!!」
「まるでバーサーカーのようです。宇治春くん」
「なんなのあいつ!?アーチャー時代のわたしより強いんじゃない?」
「よそ見してるひまないですぅううう!!」
「危ない!避けろ!!」
秋子の一閃は空を切る。
とっさにサイドステップで両サイドに別れる俺たち。
今しがた俺たちがいた場所にはコアに到達せんばかりの深い亀裂が生まれている。
バーサーカーと化した秋子の暴走は止まらない。
「秋子はここで負けるわけにはいかないんですぅ……秋子はもう……後にはひけないんですぅ!!かれぴっぴを手に入れるまで……秋子は死ねないんですぅ!!」
「幼女なんだからいくらでも未来はあるでしょうに!引いてくださいよ!」
「エサ天野遠子は黙ってろですぅううううう!!」
秋子は大きく体をひねると、片方のリコーダーを投げつける。
ブーメランのように回転してくるそれは委員長へ向かう。
「遅いですね!」
華麗に避ける委員長。
だが、
「馬鹿めっ!そのリコーダーは秋子の握力を込めた魔具。その名も「愛鬼呼」!!秋子の名を冠する魔具は秋子以外の全ての女を殺すべく地獄の底まで追いかける!!逃げられはしないですぅ!!」
「何ですかコレえええええ!!ずっと追いかけてくるんですけどおおおお!?」
委員長はソプラノリコーダーに追いかけられ、ついには視界の端へと消えていく。
「どうする?織田宇治春?」
どうすると言われましても、自宅アパートで幼女に拉致られたのちの同級生二人が幼女に襲われだ挙句に内一名が行方不明という超展開に俺はついていくのに精一杯だよ。
「あの幼女強いよ。多分わたしたちよりも……関東ローム層に囲まれた西東京市くらいなら半日で制圧できるくらいの握力は感じるよ」
そんなえらく具体的な強さを俺は感じないのだが。
関東ローム層なんて言葉聞いたのも小学校の地理以来だ。
「まあ、でも……俺たち二人よりは弱いだろ?」
「ええ」
遊びは終わりだ。
俺たちは握力を開放する。
「ふ、二人合わせて……いち、にぃ、さん、よん――じゅう。秋子の指じゃ数えきれない握力ですぅううう!!」
秋子は急激な握力の変化に気がつき、指を追って数えていたが到底足りずに考えるのをやめた。
「俺がリコーダーを奪う!お前は右だ!」
「わかってる!」
適当に出した指示は的確に伝わったようだ。何故?
「あっ!」
俺が秋子のリコーダーを奪うと真冬は秋子の頭を掴んで持ち上げて、
「オラァ!!」
「シコえるふっ゛!!」
思いっきり腹パンした。
「口ほどにもないわね」
「う、お、おえええ」
秋子は……吐いた。
アヒージョのオリーブオイルとバジルが混ざって吐瀉物はほんのり美しい緑色だった、いや美しくねえよ見たくねえよこんなもんなんで真昼の住宅街で幼女の吐瀉物拝まなきゃなんねえんだよ死ねよ。
「どう?織田宇治春?わたしにかかればこんな幼女……麩菓子よりももろいわ」
「やりすぎだよ。腹パンしてんじゃねえよ!つーか大丈夫か秋子!」
「ううう、おおううああぁ!!」
未だ吐瀉行為に勤しむ秋子に駆け寄る。
「うっ……握力が。このままじゃ体が保てない」
「は?」
次の瞬間、謎の全裸発光と共に秋子が宙に浮く。
この光景は規約的に大丈夫なのだろうか?
いや、大丈夫だ問題ない。
まるでアニメのエッチシーンのように肝心な部分は謎の光で見えない。
俺が児ポ法のことまで考えを巡らせている頃、光は収まり、そこには全く別の人物が膝をついている。
「大家さん!!」
そこにはもうすぐ三十路を迎えるであろう年齢とは思えない出で立ちの女性がいる。
大家さんである。
サイズが全く合わなくて所々破けムチムチに絡まった小学生コスと、残酷にもおっぱいに絡まって脱げなくなったランドセル。
極め付けは頭にちょこんとのった黄色い帽子だ。
コスプレイヤーか不審者かで言ったら若干不審者度が勝る。
「大家さんどうしてそんなにアイタタタな格好でいるんですか!それに秋子は!?」
「織田宇治春!誰なのこのアイタタタな小学生コスをしたおばさんは!」
俺たちが散々な感想を述べると、大家さんはすすり泣き始めた。
「私が秋子です」
「はい?」
「私が先程まであなた達と戦っていた秋子そのものなのです!!」
衝撃のカミングアウトが訪れた。




