助けは来ない
だが助けは来ない。
よくニートが何もしない時間は至高とかほざくが、あれはある程度の自由という前提条件のもと成り立ってんだなと感じる。
ベッドに鎖で縛り付けられ、強制的に絶の状態にされた上での何もしない時間というのは頭がマジでおかしくなるんじゃないかと思うくらいに苦痛であった。
時計もスマホも見当たらないので時間は分からない。
体感時間で半日くらい経ったように思えた頃、ようやく誰かの声が聞こえる。
「――えますか。聞こえますか?煩悩の女神です。今、あなたの心に直接問いかけています」
「またてめーか!今それどころじゃねーんだよ!」
「何をひとりごちているのだ?ガラハッド卿よ」
「!?」
聞き覚えのあるような無いような声が聞こえ、そちらを見やるとなんとそこにいたのは、
「アグラヴェイン卿か?なぜここに!」
「戦友の危機の予感を察知し、世界の命運をかけた星晶獣どもとの闘いを中断してまでここに赴いたのだ。いったいなにがあったというのだ!?」
ソシャゲやってたのなら素直にそう言って欲しい。
この回りくどい言い回しとなんかもやもやした外見は間違いなく本物だ。一体何年振りの再会になるのだろう。
「見ての通り幼女に監禁されて強制的に絶の状態だ。この鎖を解いてくれ!あと俺の正気を疑わないでくれ。全て現実に起こったことだ」
「異常者はその大半が己の異常性に気がつかないというが……長い人生幼女に誘拐されることくらいはあるだろう」
アグラヴェイン卿はやけにすんなりと状況を受け入れてくれると鎖を解いてくれる。
「ふぅ……助かったぜ。それにしても数年振りの再会がこんな形になるなんてな」
「我はいつでも戦友のことを想っている。危機に駆けつけるのは当然のことだ」
「それにしてもよくこの場所が分かったな?ていうかどこなんだここ?」
「我の情報網は成増の全てを網羅する。ここは貴殿の住まう居城の地下だ」
ん?どういうことなの?
「外に出れば分かる」
困惑顔の俺を見てアグラヴェイン卿はさっさと出口に向かう。
急いで階段を登ると、スイッチで開閉するいかにもシェルターの入り口と言った感じの出口がある。
キュイーンと大げさな駆動音とともに扉は開く。日差しが眩しい。
そしてふと気になったことを思い出す。
先ほどの夢についてだ。
「なあアグラヴェイン卿よ。昔からラーメン屋に行った時のことなんだけどさ」
「さらばだ友よ!」
「あっおい!」
アグラヴェイン卿はさっさと消えてしまう。
追いかけて外に出るとアパートの駐車場であった。もうアグラヴェイン卿の影はどこにも無い。謎の多いやつだよほんとに。
「しかし俺の住んでいたアパートにこんな地下サイコ王国が建設されていたなんて……どういうことなの?」
「あっいたー!」
「宇治春君無事ですか!」
首をかしげる俺の元に真冬と委員長が駆けつける。
探しに来てくれたのか。
「なんとか生きてるよ。一足先に昔の友人が助けに来てくれたわ。危うく地下で永久に鎖に繋がれているところだったぜ」
「それってどういう状況よ!?地下に閉じ込められてたから中々握力の気配が辿れなかったのね」
「でも無事で良かったです。宇治春くんが謎の幼女にさらわれて学校の方も大騒ぎなんですよ」
「あれからどうなったんだ?」
「大会は中止になって、救急車や警察が来たり――」
状況を把握する間も無く、委員長の言葉は遮られる。
「誰よおおおおおおおお!!そこの女ああああああ!!」
怒れる幼女の慟哭が成増に響く!
そこには幼女が!
折れんばかりの握力でソプラノリコーダーを握りしめる幼女が立ちふさがる!!
「かれぴっぴ!秋子みたいなピチピチの幼女妻がいるのに浮気ってどういうこと!?信じられない!」
幼女はソプラノリコーダーを振るう。
風圧で近くに停めてあったCXが粉々になり、炎上する間も無く塵となり消えた。
この幼女の剣術(?)はやはり相当なもの。
さぞかし名のある流派のものを長年の鍛錬によって極めた者――達人と呼ばれる者だけが許される領域にまで完成している。
生半可な握力では……おそらく負ける。
「死んでよ!そこのおばさん二匹!!かれぴっぴに近寄らないで!!心肺停止して殺す!!」
声優の小倉唯ちゃんを思わせる声で秋子は殺害を宣言する!




