思春期を殺した秋子のリコーダー
「くっ……強い。べらぼうに強い。やはり成増のアーチャーを破った程の男……俺が叶うはずもない。だが!!」
満身創痍のはずである。
にも関わらずよしたかは、いまだ立ち上がり叫ぶのだ。
そうさせるのは俺への憎しみか?
それともこいつが輝夜ルナでシコる変態だからか?
「俺はカードが理由で死ぬなら本望だ!たとえこの命尽きようとも!我が魂のカードであるブルーアイズ・ホワイトドラゴンを侮辱されたことに比べれば俺の命など!!」
「よせよしたか。握力を分けてやるからもう負けを認めるんだ」
家に帰れる程度の握力を分け与えようと近寄った時、その声は聞こえた。
「――頑張れ」
どこからともなく声援が送られる。
初めは小さなものだったそれはやがてアリーナを包む程の大合唱に変わる。
「頑張れー!よしたかー!お前は最高のデュエリストだ!」
「卑劣なゴリラになんて負けるんじゃない!」
「お前には俺たちがついている!」
見ると観客は感動の渦に包まれている。
中には涙ぐんで声援を送る者すらいる。
その全てが俺ではなくよしたかにエールを送るのだ。俺はどうしたらいいのこの状況?
「宇治春ぅうう!!見渡す限り全てがお前の敵だ!お前はそれ程の罪を犯したのだ!」
やれやれ。
そろそろ頃合いのようだ。
でなければ完全に俺が悪役のままこの勝負が終わってしまう。
「真実を知る覚悟はあるか?よしたか?」
「真実だと!?」
「ああ、あの時の真実だ。これを知ったらお前は廃人になるかもしれないと思い、俺は今日この日まで胸にしまっておいた。真実を知って悲しむ友を見るくらいなら、お前が俺を憎むことなど甘んじて受け入れようと……俺は考えていた」
だがもうストレスが限界だ。
胃潰瘍になりそう。
頼むから話させてくれ。
「それでも……真実を知りたいか?」
「ふぅん……話してみろ。俺とここにいる観客全員をを納得させるだけの理由があるのならばな!!」
「そうか……ならもう迷わない。これを見ろ」
俺はスマホに数年間封印していた画像をよしたかに見せる。
ついでに近くにいたカメラマンにも映させ、アリーナの上部に位置する巨大スクリーンを通じて観客全員に見せる。
「なんだそれは……メルカリの明細か?」
「そうだ。お前のシークレットレアブルーアイズ・ホワイトドラゴンを転売した時の明細だ。カードゲーマーのお前なら一を見て十を理解するはずだ」
「傷あり。買取価格5000円……まさか!?」
「理解したか……やはりお前は真のデュエリストのようだ」
よしたかは信じられないという表情でまくしたてる。
「シークレットレアブルーアイズ・ホワイトドラゴンは時価3億は下らない神のカードのはず!その買取が5000円、それも傷ありということは!?」
「ああ、俺が取り返した時。お前のブルーアイズ・ホワイトドラゴンは成増のアーチャーの汗と戦いの衝撃で見るも無残な姿に変わっていた」
「あの女の……汗?」
よしたかはやや興奮して観客席の真冬の方を見た。観客もまたやや興奮して真冬の方を見ている。
真冬は顔を両手で覆いうずくまっている。
流石の委員長もこの辱めには同情したらしく、優しく接しているようだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「デュエリストにとって己の魂のカードはもう一人の僕といっても過言ではないものだ。だから、俺は――」
みなまで言う前によしたかは叫ぶ。
「自分が悪役になることで!俺に変わり果てた魂のカードをみせないようにしたのか!?」
「そうだ」
「なんということだ!!」
よしたかはその場に崩れ落ち、慟哭する。
「俺は最低の男だ!友の思いに気付かず!毎夜毎晩名取さなの薄い胸でシコり!!お前への憎しみを忘れなかった!!俺は……万死に値する!!」
名取にも手出してたのかよ……。
公衆の面前で性癖暴露とか確かに万死に値するわ。
「ならば俺のとる行動は一つ!俺を殴ってくれ宇治春!ドMだからじゃない!俺のケジメのために!」
「いや、殴らない。さっき殴ったし」
「だがあの程度では俺は許されないだろう!頼む!」
なぜかよしたかは床に伏せると、浜辺で撮影してる時のグラビアアイドルみたいなポーズをとってスタンバイする。
こいつふざけてんのか?
もう一度ボコボコにしたいと言う抑えられない暴力衝動を必死に抑えて俺は言う。
「いやもう許そう。全知全能の神と全てのラッパーがそうするように……俺は父と子と聖霊の御名によってお前を許す」
「相棒ーーーーー!!」
「友よ!」
よしたかと俺はガッツリとハグし、長年のわだかまりを解消する。
会場はスタンディングオベーションの嵐だ。
皆が俺たちの物語に感動している。
視界の端に映る委員長と真冬だけが三流芸人のコントを目の当たりにした風であったことにだけは目を瞑っておくことにする。
「いや〜デュエルって本当にいいものですね〜」
レフェリーの雑な解説で締めくくられたこの試合の後、観客先に戻る俺とよしたかが優しい輸入ビールの雨に包まれたことは言うまでもない。
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「他人のカードで食べたラーメンはさぞ美味しかったでしょうね?」
「どうしてここには変態しかいないの?」
早速迎えてくれた二人の非難。
二人はとても怖い目をしていたので、心を強く保つことにする。
「やれ座り心地の悪い椅子やな〜」
「茶番はもういいです」
「龍が如くは桐生ちゃんの方が好きだし」
場の空気を和ませるべく、真島の兄貴っぽく極道座りで椅子に座ったのだが逆効果だったようだ。
ここから先は胃が常にキリキリしていたことと、同じような展開が続いたのでダイジェストでお送りする。
「名取さなですら目を覆いたくなーーーーすっっ!!」
「見ろ!我がインモラルの翼を!!」
「いやぁーーーーー!!」
大体こんな感じで、委員長が一撃で相手をボコして、真冬がセクハラを受けて不戦勝、そして俺がなんらかの理由で非難されながら勝利というのが続いただけで軽々と決勝へと勝ち進んだ。
そしてまた委員長は一撃で相手を倒し、真冬はセクハラされ今に至る。
「正真正銘、最後の戦いということだね?織田宇治春くん。私はクライヴ=メルセデス。ロシアの高級官僚の――」
なんかすげー長続きしそうな決勝戦の相手が始めた自己紹介はとある観客の一声で中断される。
「おい見ろよ……幼女だ」
スクリーンを見た。
するとこちらに向かってトコトコと歩く紛れもない幼女の姿があるではないか。
幼女はどこから現れたのか、俺とクライヴなんとかの間までたどり着くと俺に向かって太陽のような笑みを見せる。
「かれぴっぴ……会いたかったですぅ!」
ロリコンかよ。
洗脳薬漬け強姦ゴリラ。
警察を呼びましたからね!!
あらぬ誤解が俺に向かって降り注ぐ!!
「おやお嬢さん。ここは血で血を洗うグラディエーターと強人類だけが足を踏み入れて良い場所だ。お嬢さんのような幼女は怪我をしてしまうよ。だからすぐに――」
「おじさん!かれぴっぴの敵なの?」
幼女は長くなりそうな話を遮って曇りのない眼で問いかける。
「ああ、そうだね」
「了解!お前を殺す!!」
一瞬の出来事だった。
幼女は背負ったランドセルからソプラノリコーダーらしきものを抜刀すると、クライヴなんとかさんを切り刻む!
「おほぉおおおお!!」
クライヴなんとかさんは絶頂して死んだ。
いや、ピクピクしているので辛うじて生きている。
それにしてもこの幼女。
只者ではない。
先ほどの一瞬で二十三発もの剣戟をソプラノリコーダーによって打ち込んでいた。
俺でなきゃ見逃してしまうところだった。
「このかれぴっぴは貰っていきます!」
幼女は宣言する。
えっどういうこと?
「秋子!大勝利のために!!」
「ジー!!ピー!!ゼロッ!!ツー!!」
避ける間も無く幼女は四発の剣戟を俺に浴びせる。
この幼女……強い。
もしかしたら、俺よりも。
この場にいる誰よりも強いかもしれない。
一撃一撃が致命傷になりかねない、そんな攻撃から意識が段々と薄れゆく。
俺は幼女に抱えられ、そのまま跳躍した幼女が天井を破ったところで意識を失った。
それにしても秋子……一体誰なんだ?




