不幸にも黒髪の委員長に追突してしまう
「おどれなにさらしとんじゃ?あ゛?」
委員長というよりヤクザである。
真冬は不幸にも委員長の中に眠る黒塗りの高級車に乗っていそうな人格に追突してしまったようだ。
怒るとたまにこうなるんだこいつは。
「何って?親愛のハグよ。もしかして……ハグをご存知ではない???」
こいつは馬鹿だが煽りスキルに関しては相当光るものを持っている。
ガンダム動物園のチンパンジーですら唸るであろう超高校生級の返答に委員長はプッツンしてしまう。
「ここは大和大国じゃあああ!!神聖なる学び舎へとつながる通学路じゃ!不純異性交遊は万死に値するわボゲ!!」
このキレようである。
まあ、いつものことだから仕方ない。
委員長は昔から貞操概念が幼稚園児並みであるので、俺がお遊戯会でペアの女の子とシャルウィーダンスしただけで地縛霊のような目で相手を睨む。
そのおかげで俺の周りではいつも、
「宇治春に異性が触れるだけで神主でも匙を投げる程の地縛霊が取り憑き呪いで祟られ挙句に死ぬ」
とか、
「宇治春と異性が目を合わせると視線を通じて複数の動物霊が取り憑き、毎晩枕元で猫と犬の鳴き声が混じった不快音が鳴り響き、眠れなくなって挙句ノイローゼで死ぬ」
とか、やたら具体的な上に根も葉もない噂を立てられてきた。
結末で死ぬのがめちゃくちゃタチ悪い。
俺が何をしたっていうんだ?
手つないだだけだぞ?
だから俺はこの年まで清く正しい童貞である。
この令和末期にも関わらずだ。
友達を取られたくないみたいな感情があるのかもしれないが彼女にはもう少し俺離れしてほしい。
「これだから純正のジャパニーズは……見た目通りに心のアップデートが大正時代で止まってるみたいねぷ〜くすくすくす」
だが火に油は注がれた。こいつほんと空気読めねーな。
あろうことか真冬はさらにぎゅっと俺に体を押し付ける。
止めろ!
これ以上は理性が抑えられない!
俺の股間の破壊するものが形をとってしまう!
あと委員長の歯ぎしりと心が壊れてしまった人間だけが見せそうな眼差しがとても胃に響く。
だがそこは我らが委員長、大人の女性の心を持つ者である。
ふーっと息を吐くといつも通りの丁寧語と綺麗な笑顔でゆっくりと話しだす。
「まあ、あなたのような爛れた心を持つ淫乱ドグサレビッチメスゴキブリに人間としての礼節を問うのは間違いですよね?脳みそが無いのですから。ところで……宇治春くん?人肉ハンバーグは好きですか?」
「殺しだけはやめてくれ!」
ぜんぜん冷静じゃなかった。
口にするのもはばかれる罵倒をすらすらと笑顔で紡ぐ様が最高に恐怖。
あと何食わせようとしてんだよ。人肉ハンバーグ好きなやつなんていねーよ。
命のロウソクに容赦なくドライヤーの強風をあてられるプレッシャーを感じた俺は流石に真冬を振り払う。
「お前も離れろよもう!こういうのは海外ドラマのような関係の人だけにしとけ!俺はイギリス紳士認定されるほどの聖人だから大丈夫だけど、見た目だけは可愛いんだから他の男に同じことしたら襲われちまうぞ!」
「う、うん」
「人肉ハンバーグ二人前です」
思ったよりもすんなりということを聞く真冬。
心なしか顔が赤いのは己を恥じてくれたからだろうか。
あとそこ。俺のこともひき肉にしようとすんの止めろや。
微妙な間があったあと真冬はちょっと気まずそうに上目遣いで尋ねる。
「改めて聞くけど……わたしとチーム組んでくれる?友達になってくれる?」
「もちろんだ」
こんな誘いを断るなんてノンケを否定する行いだ。俺にはできない。
「いいよな?委員長?」
俺は委員長に確認をとるが、
「宇治春くんとひき肉と私……宇治春くんとひき肉と私。宇治春くんと……ハンバーグと私……」
受け答えが成立しない。
まあ……イエスと受け取っておこうか。
それにしてもこんなにサイコスイッチが入っている委員長久しぶりに見たわ。真冬に何か思うところでもあんのか?
祟りには無闇に触れないのが吉。
心を切り替えて俺は真冬に向き直る。
「じゃあその大会とやら出てみるか?ちなみにいつ開催なんだそれ?」
「今日」
「雑すぎんだろスケジュール管理!?」
まだ教科書も揃えていないのに!




