↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強☆人☆類 〜握力がインフレした俺はゴリラの異能使い〜  作者: 徳島静
第3章『ゴリラゴリラグラウエリ』
PR
17/53

アナゴさん〜絆の握力〜

「あ、アナゴさん!?いえそれよりもどうやって私の殺気の範囲内に潜り込んだの?それも一瞬にして」


困惑する真冬は委員長を離し、後ろへ跳び距離を取る。


「真冬……いや成増のアーチャーよ。俺はかつて言ったな――どうして負けたか?明日までに考えてきてください、と。答えは出たか?」

「しれたこと!単にわたしの握力が劣っていただけのことよ!だからわた」

「それは違うな!」

「食い気味に否定してこないで!さては答え聞く気ないでしょ!」


図星だ。

この場に来た時点で俺はもう目の前の少女が答えを理解していないことを察していた。


だが同時に言葉では語られていないが彼女が体験したであろう想像を絶する努力も理解した。


なにせ彼女は一度全身の筋肉を破壊され、六歳女児程度の握力しか持たない体にされたのだ。

それをたった数年で単純な握力の総量を俺以上にさせるなどとは、並みの精神力しか持たない者なら実現はおろか夢にすら思わないこと。


けれど彼女はそれをやってのけた。


使用人のセクハラに耐えながら。

俺への憎しみを募らせながら。


その努力に俺は尊敬の念を覚えた。だからこそまずはただ純粋な「自身の握力」でのみぶつかろうと決めたのだ。


だが――


「お前は答えを見つけられず、あの時と同じ理由で俺を怒らせた――今のお前ならアレシアメーター無しでもわかるはずだ。俺の握力の数値をな」


真冬は目を細め、じっとこちらを見つめると訝しげな眼差しでつぶやき始める。


「八恒河沙(はちごうがしゃ)、六阿僧祇(ろくあそうぎ)……まだ……まだ上がっていく!?億を超える握力なんて人間には……いえゴリラにだってつくれない握力!?あなたはいったい」

「その目でよく見てみろ。握力の流れを」

「はっ!?」


真冬は気がついたようだ。

宮殿内部のあちこちにあるものを順に見つめて、まるで信じられないと言うように目を見開きそしてもう一度俺に向き直る。


「握力はどこにでもある。俺にもお前にも委員長にも。虫や動物、木々や川の流れ――そこのカーペットにも!女性声優の萌えボイスにだって握力は流れている!!全てのものは握力で繋がっているんだ!」

「おかしいよっ!握力って握る力でしょ!無機物と女性声優の声とか発生する要素「ゼロ」じゃないっ!」


正論。

だがこの世の中には理屈だけでは語りつくせない真実があるのだ。


「――お前にも見えているのだろう?俺に流れゆく握力の軌道が……耳をすませば握力の声も聞こえるはず」

「聞こえないよ!聞こえたらヤバイやつだよっ!ハーブ吸ってるかシャブ決めてるお友達だけだよっ!!」

「俺はそんな――ガイアそのものから握力を授かり自らの握力へと変換できる」

「お巡りさーーーんんっ!!麻薬および向精神薬取締法違反ですっ!!」

「繋がる力、仲間を想う力それこそが最強の握力――「絆の握力」!仲間を持たない独りよがりの握力だけでは俺には勝てない」

「完全に犯罪者!完全犯罪で中二病ですーー!うっ!?」


真冬はがくりとその場に膝をつく。

理解に苦しむ表情でこちらを見やる。


「端的に説明しておくが、今の一瞬で七十五発の突きをお前の手首、頭部、脚部、首など――セクハラで起訴されないような箇所に打ち込んだ。ちなみに小指の指先一つでだ。人間の体を構成する握力は丹田を通して全身へと繋がっている。各箇所への突きによる衝撃は筋組織を通して体全体へと巡り、今に至る」

「ぜ、ぜんぜん端的じゃないし……まだ……まけてないし。わたしはっ!!」


立ち上がろうとして膝をつく。

なおもまた挑戦するが結果は同じ。

悔し涙とともに見受けられる苦悶の表情。こんな感情を抱けるのは自分の握力と本気で立ち向かったことのある真の強人類の証――


「握力の強さだけしかないっ!!わたしは最強でなければいけないの!馬鹿なわたしの取り柄なんて……握力だけだから」

「無理をするな……肺をやられるぞ」

「そ、そんな重症なのわたし!?」


言ってみただけである。

俺はラッパーのようにポケットに両手を突っ込んでふらふらと歩く。続けてラッパーのような妙に軽快なウィンクを委員長に向けて、その足取りは真冬へと向かっていく。

委員長はただただ「話の通じないジジイ」に出会った時に浮かべるようなどうしようもない局面で見せる笑顔で見守る。


「俺のダチ愚弄、するやつ下郎、だからお前外道、だけど努力感動、差し伸べるは人道!ラップ考えんの面倒!!」


俺は真冬の手を取り、疲労回復のツボを握力で押して立たせる。


「真面目ぶるなんてガラじゃないからちょっとだけエミネムクラスのラッパーになったけど、まあ言いたいことは一つさ。お前に足りないのは仲間だよ」

「仲間……?」

「ああそれも心から守りたいと思える仲間――それがあったから俺は勝てた。逆に言えば俺一人の握力なら負けてたよ。お前に心から信頼できる仲間が出来たら俺はきっと勝てないよ?だからさ――まずは守りたいやつをつくるとこから始めたらいいぜ。友達とかかれぴっぴとか、な」

「えっ……わたしを、殺さないの?」

「殺さねえよ。お前俺をどんなゴリラだと思ってんだ。ここは現代バトル漫画じゃねーんだぞ」


世界一統制のとれた摩天楼こと成増なんだぞここは。


「だけどわたし……見逃されたら何度でも殺す気概でバトルを仕掛けるよ?一度受けた恨みと敗北の苦しみは忘れないから未来永劫戦い続けるけど?それでも殺さない?」


やっぱ殺した方がいいのかなぁ……今後の植物のように穏やかな生活を守るために。

だごここは勝者の余裕を見せた方がカッコいい気がする。


「殺さねえしバトルなら何度でも受けるぜ。バトルでもラップでも負けねえ俺は止まらねえからよ」


そうして俺たちは宮殿を後にする。

隣には委員長が付き添う。

数年前の戦いで、アグラヴェイン卿が隣にいたように俺の隣には守るべき友がいる。

何年経っても……友が減ってもなんとかそれだけは変わっていない。


「ともだち、かれぴっぴ……」


何かを呟く真冬の声が背に響く。

どうやらやつは何かを掴めたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。