クォークグルーオンプラズマ
だが時の流れは誰にでも平等に訪れるもので、俺の面倒さなど何も考慮されず戦いが始まる。
真冬はシンプルに正面からぶつかってくる。
両手を振り子のように伸ばす構えから繰り出される突きは、拳法を連想させる。
「どう?わたしの闇の握力は!」
「ウホっ!?」
真冬の一撃は重い。
その密度たるやクォークグルーオンプラズマを超えている!?
クォークグルーオンプラズマが何かは俺もよく知らない。以前「密度」「濃い」でググったら出てきた単語だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「なんて強大な握力!密度はまるでクォークグルーオンプラズマのようです!」
衝撃で後退する俺に委員長が焦りの混じった声を向ける。どうやら彼女も相手の握力の強さを見抜いているようだ。
そして思考レベルも残念ながら俺と同レベル。
「元成増最強の名は伊達じゃないわ!これが闇の強人類の力!全力で来なさい!真ゴリラシステムを起動するのよ!」
確かに……。
これは余裕を見せている状況ではない。
「ウッホ!」
キュイーンというカッコいい起動音とともに俺の背後に青いゴリラのヴィジョンが生まれる。
真ゴリラシステム。
戦闘状況下で発生するあらゆるデータを即時演算し、得られた膨大な予測値を背後に発生した青いマウンテンゴリラのヴィジョンへ直接フィードバックする俺の異能である。
「真ゴリラシステムは全てを語る。俺の膨大な握力がなせるこの演算システムを用いれば未来予知に近い予測値すらもはじき出せる。この意味がわかるか?」
「さっぱりよ。あなたの言葉の半分も理解できないわ」
やはり馬鹿。
紛うことなき馬鹿。
不敵な笑みを浮かべ自信たっぷりに答える様がなお馬鹿。
だが馬鹿ほど握力は強い。
それは統計でも明らかにされている事実だ。
「つまり真ゴリラシステムは未来を見通す力ということだ」
俺は真ゴリラシステムを作動させ、あらゆる可能性を見通すことに成功するが、
「なん……だと!?この未来は!」
敗北。
あらゆる可能性を模索した真ゴリラシステムがはじき出した答えはただひとつの答えだ。
握力のぶつかり合いで負ける。
闇の握力に飲み込まれ敗北。
全身粉砕骨折でリタイア。
はたまた女体化させられて縄で吊るされ未来永劫猫じゃらしを肌に当てられる――
パターンは違えど、やたらと犯罪係数の高そうな未来が混ざれど、その全てが敗北である。
「どうしたの?怖気付いたのかしら?」
怖気付いたのはお前の異常性癖に対してだよ!
真冬は勝ち誇った笑みを見せ、蔑むように語り出す。
「その目……共喰いされることを覚悟したハムスターそっくり。どうやらまともに戦うまでもなく負けを悟ったようね。無様だわ!」
くっ……例えが意味わかんねえし心の闇抱えすぎだろ。だが嘲笑を黙って受け入れるしか今の俺には出来ない。
下手に動けばその瞬間、俺は負ける。
「血祭りに上げてくれるわ。でもその前に粛清するのはそこの委員長みたいな文学少女――あなたよ!」
ビシッと指差す先には委員長。
一瞬ぎょっとした様子を見せたものの、流石は強人類である。すぐに反論を返す。
「委員長ではありません!あと私活字はヤフーニュースとマガジン。それに異能バトルラノベくらいしか読みませんよ!?」
「うるさい!わたしは強いものしか認めない。あんたみたいに男の庇護欲をそそりそうな見るからに「私儚いですけど?」みたいな外見のした女が一番嫌いなのよ!このリアル大正ロマンっ!あとっ!鼻血出たっ!痛かった!」
毛色は違えどお前も似たような外見じゃねえか。
後半小学生並みの恨みごとしか言ってねえし。
「殺しはしない。けど二度と新潮文庫を持てない握力にするっ!」
それ世間ではきっと半殺しって言われる立派な犯罪だぞ。
なすすべもない俺を尻目に真冬は委員長を羽交い締めにする。
「きゃっ!」
「ふふっ柔らかい肌してるじゃない。血祭りにあげる前にちょっとイケナイことしたくなっちゃう」
「助けて宇治春くんっ!同年代の同性に犯されてしまいます!」
「安心して……R15くらいでお送りするわ」
「ヒィっ!」
委員長の本気の叫びをよそに真冬はその病的なほどに白い肌で委員長のシャツのボタンを一つ外すとそのまますっと胸元に手を滑らす。
「こんな慎ましいお胸様をお持ちなのに生意気にブラなんかつけちゃって……やっぱり女の子ね」
「あなた頭おかしいですよね!?中身は中年親父ですか!」
「わたしは使用人による試練を乗り越えて……可愛い女の子の尊さを理解した。最早真理に到達したと言っても過言ではないわ」
「カッコよく言っても滲み出る馬鹿さ加減が隠しきれないですよ!?あっ……や、め」
「体は正直やな〜姉ちゃん。ほら?強人類なら握力で抵抗してみ?じゃないともっと揉まれちゃうわよ?」
自由を奪った状態で揉むなんて……
もっとやれ!!!!
いや、違う!
このまま眺めたい気持ちも無くはないというかモロにあるが委員長は俺の友人。
これ以上の辱めは許さない。
「そこまでにしてもらおうか……お嬢ちゃん」
精一杯のアナゴさんボイスと共に俺は今まさに禁じられた果実を収穫しようとする真冬の手を掴む。




