闇の握力による防衛術
「というわけだ」
そして時は動き出す。ここは現代。
苦々しげに鼻を押さながら睨む真冬をよそに、委員長は呆れ顔だ。
「よくわかりましたが、明らかな蛇足多すぎません?ポケカおじさんのくだりとかは必要でしたか?」
「そこは重要なとこだろうが。俺の代わりにフルコンタクトゴリ手の説明をしてくれたおじさんだぞ」
まあ正直いらない感があったことは否めないが。
「おほん!」
わざとらしい咳払いで俺たちの視線は真冬にうつる。
「ならここにわたしがいる理由も分かるわね?」
まあ大方の予想はわざわざ回想するまでもない。
「ああ、成増のアーチャーにかわって復讐しに来たんだろう?」
「は?」
「え?」
「あ?」
なにやら噛み合っていないようだ。
委員長も困惑しているようで彼女に向かって問う。
「あなたは再起不能になった成増のアーチャーが送ってきた刺客じゃないんですか?」
「何馬鹿なことを言ってるのよ!」
彼女は激高する。
あの日なのか?
それとも鼻血によるカルシウム不足なのか?
その素朴な疑問は次の言葉で一応の解決を見せる
「成増のアーチャーはわ・た・し!この姿に見覚えがないとは言わせないわよ!」
「見覚えねーよ!ばぁあああか!!」
思わず罵倒が脊髄を通らずに生まれてしまう。
だってそうだろ?
まずこいつ身長二メートルねえもん。百六十もないくらいだぞ。
「な、いきなりおっきい声。出さないでよぉ……」
加えてこの気の弱さ。
隠しきれないスーパーポンコツクオリティ。
明らかに別人!
明らかに別の生命体。
どう結びつけたらあの筋肉が思い起こされるのだろうか?
「いやいやいやいや、おっきい声も出すだろ。だってお前明らかに別人じゃん!どこに共通点見いだせるよ!足の太さだけで六倍はちげーぞ!」
「そ、それはあなたがわたしの全身の筋組織を破壊したからでしょう!」
「それにしても変貌しすぎだろ!性別変わってんぞ!ヤングキングから花ゆめに移籍したのか!?」
同じ人間とはとても……いや成増のアーチャーはマジで外見人間じゃなかったから。見た目からして人間を辞めてたから。
だが彼女はなおも引き下がらない。
「なら聞くけどっ!!成増のアーチャーの髪は何色?」
「金髪……」
「わたしも金髪!それにこのボウガンは?」
「確かに俺が破壊した成増のアーチャーのものだが?」
「ほらっ!」
ドヤ顔で宣言する。
「なら答えは明白でしょ!」
「共通点それだけだろ!?その程度の共通項で人間くくられんなら瀬戸内寂聴と橋本カンナも同一人物だし、タラちゃんとジャスティンビーバーも同じ中学の同級生だぞ!」
「それはおかしい!」
「お前の言ってることもな!」
真冬は、はぁとクソデカため息をつく。なんなのこの子アホなの?ムカつくんだけど。
「まあ、多少容姿が変わったことは認めるわ」
「……多少なのですか?」
「……委員長ややこしくなるから黙っとこうぜ」
俺たちのひそひそ話をよそに真冬は続ける。
その瞳は憎しみに満ちているようだ。
「あなたに全身の筋組織を破壊されてからは地獄の日々だったわ。ベッドから起き上がることもままならないわたしは、ちょっとレズの気がある使用人にベイビーザスターズシャインブライトのロリータ服を着せ替えさせられる毎日……等身大着せ替え人形としての生を強いられ、しまいにはこんな姿に」
その姿になれたことはむしろ俺感謝されてもいいんじゃないかな?
あんな野生児からこんなおっぱいJKを生み出すなんて即身成仏もんの偉業だぞ。
「使用人にキスマークをつけられても抵抗ひとつできない日々……かつて最強の強人類であったわたしには耐えられない屈辱だったわ」
最強の強人類じゃなくても耐えられねーわな。
つーかそんなやつ雇うなよ。解雇しろ。
「あの敗北から数年……1日たりともあなたのことを忘れたことはなかった。わたしの美しい筋肉を奪い、こんな年頃のメスに変えてしまった憎きゴリラへの復讐を……」
「ごめん俺さっき回想するまで完全に忘れてたわ。今期のアニメ追うのに忙しいからさ」
「くぅ〜……わざわざDQNに絡まれるという小芝居までしてあなたに近づいたのに、反応がおかしいとは思ったのよ。まさか一ミリも存在に気づかれていなかったなんて!」
はっきりと言っておく。
馬鹿なの?
「けれどその葛藤の日々も今日で終わりよ!使用人は解雇したし力なら手に入れた!こいつよ!」
真冬の握力が高まる。
可視化された握力はあまりにもドス黒くこれが禁断の領域に踏み込んだ者の力だということは明白であった。
筋肉を破壊され、六歳女児程度の握力しか持たぬ者とは思えない。
これは明らかに強人類クラスの力だ。
「これぞ『闇の握力による防衛術』よ。自らの死後の握力を魔界の悪魔に捧げることで力無き者でも億を超える握力が手にできる!」
「なんだかワクワクする単語をちょくちょく差し込み始めましたね」
「俺はもうそういうの卒業したからただひたすらに恥ずかしい思いしかないね」
俺たちの会話をあざとく聞きつけた真冬は顔を真っ赤にして反論する。
「は、恥ずかしくないしっ!悪魔よ!魔界よ!闇よ!ゴリラより8恒河沙倍くらいカッコいいんだから!」
「お……おう笑」
「笑うなっ!!」
ちょこっとお茶目な俺の対応はお気に召さらなかったようで、ガチギレしてしまう。
「言葉じゃ分かり合えないみたいね。やはりわたしたちは強人類――握力でしか語り合えない!決着をつけましょう」
「いや……今の俺は平和主義者のことなかれ主義だからその……帰ってもいいかな?」
「ここまで盛り上がってなんでそうゆうこといっちゃうのよ!!もういいっ!」
真冬は壊れたボウガンを投げ捨て、叫ぶ。
「勝負よ!負けたらあなたにはモロッコで性転換してもらってわたしの専属の美少女メイドになってもらって寝たきりだった頃のわたしと同じ屈辱を味あわせるわ!これは決定事項よ!」
とんでもない条件を一方的に突きつけて真冬は地面を蹴り、戦いが始まる。
めんどくさ。




