シルバニアファミリー〜悪辣なる妖精王〜
成増のアーチャーがボウガンを構える。
先端から発射されるのは握力によって練られた握力の握力による握力のための弾丸だ。
「簡単には当たらねえぜ!」
「チョコマカト!!」
俺とアグラヴェイン卿は数多の戦いによって鍛えられた反射神経で握力の弾丸を避ける。
目標を失った弾丸は謁見室のガラスを粉々に砕いてもなお、そのスピードに衰えを見せていないようだった。
おっほおおお!!いてぇええええ!!
外から聞こえたフクロウの絶叫がそれを証明している。
死に至らないとか言ってたけど、アレ当たったら絶対死ぬよな?
「ナレバ!!このアクリョクのアメをヌケラレルカ!」
成増のアーチャーはマシンガンのごとく、握力の弾丸を撃ち放つ。
合間を縫って避けるのにも限界がある。
「戦争映画で見るようなバリケードが必要だ!」
「我も同じことを考えていた!」
ゴリラになった俺とアグラヴェイン卿は、弾丸を避けつつ片っ端から部屋のものを集める。
食器棚。
礼拝堂にあるみたいな長いイス。
可愛らしいクマちゃんのぬいぐるみ。
冷蔵庫。
ドラム式洗濯機。
テレビ。
フォークリフト。
印刷工場によくある名前わかんないでっかいすのこみたいなやつ。
10円で回せるガムのガチャガチャ。
なぜか女物の服がぎっしり詰まっているたんす。
セリーヌのママチャリ。
バーボン(メーカーズマーク)
うさちゃんのハンカチ。
ペットフードはドギーマン!
目につくものはありとあらゆるものをかき集めバリケードが完成した。
「くっ、だがこのバリケードも時間の問題であるぞ」
おっしゃる通りです。
早速メーカーズマークとペットフードは砕け散り、辺りはバーボンと犬の餌の匂いがブレンドされ混沌を極めていた!
「この状況を打破する方法が一つだけある」
「それは一体……どのような策であるというのだ?」
「俺とお前の握力を合わせる」
「よもや……合体技!? 親子三大かめはめ波のような!」
そうである。
あまりにも恥ずかしすぎる単語であるから口には出せないが、強人類の握力が二つ合わさった合体技ならさらに強大な握力を引き出せる。
1+1は2ではない。
オレたちは1+1で200!
十倍だぞ十倍!
「そうだ! クローズドビルドフォームのような一体感のある合体技で決める!」
「なんと破廉恥なっ!!」
「どういうことだってばよ!?」
合体技といえば中二ロマンの結晶みたいなもんだろうが!
「それはつまり……我とガラハッド卿が肌と肌を合わせ……ひとつに。ひとつの体になるという。いわゆるおせ……おせっく、すお、おせっせ! おせっせのような!! そういったものなのでありますよね!!!!」
「すまん。そこまで哲学的な発想は俺には無かったわ。あと混乱し過ぎて口調が迷子になってるぞ」
まだクリスマスパーティーのことで疑われているのだろうか?
弁解をしようとしたその時、
「危ない!!」
視界が反転する。
受身を取って前を見ると、両手を広げて立ちふさがるアグラヴェイン卿が見える。
「がっ、がはっ! こ、ここまでとは」
「アグラヴェイン卿!」
俺をかばい、成増のアーチャーの凶弾に倒れたアグラヴェイン卿を抱え込む。
「くっ、これがなければ今頃は――」
アグラヴェイン卿はふところから刺々しい衣装をまとった二足歩行のうさちゃん人形を取りだす。
「それは!? 俺がクリスマスパーティで贈ったプレゼント。『シルバニアファミリー悪辣なる妖精王』のお母さん!! なぜそんなものをふところに!」
アグラヴェイン卿はリアルに血反吐を吐きながら語り始める。
おいおい大丈夫かよ。
早く病院行った方がいいんじゃないか?
「と、当然のことよ。これは我が友からの贈り物。騎士団はこのような性格ゆえ孤立していた我を受け入れてくれた――いわば、家族同然の存在」
「……!?」
アグラヴェイン卿。
本当の姿は分からず、普段から意味不明なことばかり言っているから正直真意は測りかねていた。
だがまさか――そこまで俺たちのことをおもっていてくれたなんて。
今回の招集に一人だけ来てくれたのも。
そんな想いからだったのか?
「嬉しかったのだ。思えば誰かからの贈り物を受け取ったことなど、思い出せる限りこれが初めてであった。それがましてや……信頼できる最高の友からのものであれば――肌身離さず持ち歩かぬなど恥知らずのすること!」
「アグラヴェイン卿、お前……」
「ガラハッド卿よ。我はそなたこそが騎士団最強の騎士であると知っている。ゆけ……成増の正義とプロテインを脅かす悪を打つのだ!」
アグラヴェイン卿の拳が俺の手を取りしっかりと握りしめる。
「成増と……成増に住まう全てのマッチョに……平和を。うっ……」
「アグラヴェイン卿おおお!!」
「ハナシハスンダカ?ニンゲン」
気がつくと成増のアーチャーがバリケードを破壊し尽くし、ボウガンを構えて立っている。
「ショセンニンゲンのゲンカイなどワタシにはオヨバヌノダ。ニドトサカラウコトノナイヨウ。フタリトモ『ゼンシンフンサイコッセツ』ニシテクレルワ!!」
ボウガンに握力が溜まる。
激しく明滅するボウガンの先端から赤い握力が弾丸となって今にも放たれようとしている。
すげぇ握力だ。
本気を出さないと二人とも粉砕骨折だろうな。
とその時、気絶したアグラヴェイン卿の手からシルバニアファミリー悪辣なる森の妖精王のお母さんがこぼれ落ち、成増のアーチャーの足元に転がる。
成増のアーチャーもそれに気がついた。
「ウサチャンニンギョウか……コンナモノヲモチアルクナドメメシイヤツよ!フミツブシテクレルワ!!」
お母さん人形は筋肉たっぷりの太足で見るも無残な姿に変えられる。
――俺の中で何かが一線を越えた。
「シネィ!!」
成増のアーチャーは握力を放つ。
今までの比ではない。
強大で邪悪な赤い閃光が襲い来る!
だが――
「いつまでも調子にのるな」
赤い閃光は届かない。
俺から放たれる青い握力によりかき消されたのだ。
「貴様!なんだそれは!何なのだその青いゴリラは!!」
成増のアーチャーは動揺している。
なぜならばもうカタコトではない。
俺はゴリラの姿のままゆらりと立ち上がり言った。
「やれ!」
俺は俺の背後に位置するソレに合図する。
背後から毛むくじゃらの青い手が伸び、成増のアーチャーを殴打し吹き飛ばす。
盛大に壁に激突した成増のアーチャーは破砕音の中、すぐに態勢を立て直し、こちらに問う。
「貴様の背後に青いマウンテンゴリラが見える!!なんなのだそれは!なんなのだその桁違いの握力は!!」
こいつは救いようのない悪だ。
アグラヴェイン卿の想いを。
よしたかの魂を。
いともたやすく踏みにじった!
今すぐにその握力の芽を摘まなければ、この先もっと沢山の人とマッチョが苦しめられるだろう。
だから俺はこいつに完全に勝利しなければならない。
たとえこいつが……二度とダンベルを持てない体になろうとも。
この悪しき握力はここで完全に消し去ってやる!
故に冥土の土産に教えてやろう。
この俺の握力の名前。
背後で仁王立ちする青いマウンテンゴリラの名を。
「これぞ――真ゴリラ!!」
俺は高らかに言い放った。




