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 いったい、何をやっているのかしら、わたし。

 ロミオと二人、人目を避けて歩きながら、そう思わずにはいられなかった。わたしですらそう思っているのだもの、きっとロミオも同じことを考えているわよね?

 でも、馬鹿なことをしているとは思わない。あのままパリスの妻となって生きているより、ずっとわたしらしく生きていける。それは、そう確信している。

 「ロミオ、それにジュリエット!どうしたのだ、二人揃って」

驚きの声を上げながらも、神父様はあまり意外に思ってはいらっしゃらないみたい。

「実は神父様、ご相談したいことがありまして」

「仔細は中で聞く。早く入りなさい」

周囲に誰もいないことを確認して、神父様はわたしたちをそのまま招き入れて下さった。

 「今朝出会った時は、そのように二人で逃げ出してくるような仲には見えなかったのだけれどな。いったい、何があった?」

何があったと訊かれて、何と答えれば良いのかしら?どうしよう、というつもりでロミオを見ると、彼はそれはそれは楽しそうに笑って見せた。

「実はジュリエット姫に泣きつかれましてね。この街にも、両家の争いにも、愛想が尽きたと。だから、モンタギューの一人息子が消えるなら、キャピレットの一人娘も消えてやる。そうすれば両家も何がしか考えるだろうから、一緒に連れて行ってくれ、と。まあ、それが全てではなく、理由の半分はパリスとの結婚が嫌なのもあるでしょうが」

「ロミオ!」

そりゃ、それはそれで図星だけれど、何も今ここで言わなくても良いじゃない!わたしが憤然として睨みつけると、彼はにやりと笑って言う。

「君はぼくに惚れてるとは一言も言わなかった。そういう率直さは好きだけどね、連れてってと泣きつくんなら、そういう手段の方が手っ取り早かったんじゃないの?」

「わたしがそんなこと言ったって、貴方はすぐに口実だって分かるじゃないの」

「分かっていても、ぐらっとくるかもしれないよ?」

「…………貴方を愛してます、って言って欲しかったの?」

「もし君がそう言っていたら、少しは違う展開になってたかもな」

わたしたちのやり取りをやや呆れながら聞いていた神父様は、そこでようやく口を開いた。

「お前たち、わたしに助言を求めに来たのではなかったのかね?」

そうだったわ。つい、ロミオのペースに乗せられていたけれど。

「はい、二人でこの街を抜け出せる方法があればと思いまして。神父様、何か良いお知恵を頂けますか?」

この人は、本当にずるい。さっきまでの顔とは、一瞬で変わってしまっている。そして、その顔はわたしに口を挟む隙すら与えてくれなかった。

 ロミオの言葉に、神父様はしばし考え込み、そして口を開いた。

「一つだけある」

言って、薬草の並んだ棚から、一つの小さな瓶を取り出した。

「ここに、一つの薬がある。この薬を飲めば、たちまちのうちに頬と唇から血の気が失せて灰色になり、手足は死体のように冷たく硬くなる。だがそれは死ではない。仮初めの死だ。しかし、傍目には死体と区別が付かぬ。そのような状態になれば、体は街の外の墓場へと運ばれるだろう。そこで仮初めの死から戻れば、後は、分かるな?」

わたしの目を真っ直ぐに見据え、神父様はわたしの手にその瓶を握らせた。

「この薬で、仮死になる。そうすれば、わたしの身体は霊廟へ送られる」

「そして、君が霊廟で目覚める頃に、ぼくが迎えに行く」

そんなに、上手くいくかしら?思わず心中で呟いたわたしの不安は、ロミオにはお見通しだったみたい。

「不安そうなのは、どうしてかな?その薬を飲んで目覚めが来ないかも、ということ?ぼくが来る前に死体の中で目覚めてしまうこと?それとも、ぼくが迎えに来ないかも、とでも思ってる?」

からかうようなロミオの声に、わたしは何も考えずに言う。

「そうね、特に最後はありそうね」

「おい、ジュリエット!」

慌てたような声に、ようやく彼から一本取った気がして、わたしは少し笑った。笑うことができたら、何だか大丈夫な気がしてきたわ。

「冗談よ。神父様、ありがとうございます。わたし、やってみますわ」

わたしがそう言うと、神父様は温かく笑ってわたしを抱き締めてくれた。

「お前たちに幸福が訪れるよう、祈ってるよ。さあ、邸にお帰り。薬を飲んで目覚めた時は、ロミオとわたし、二人でお前を迎えてあげよう」

その言葉に、ロミオが笑って頷く。

「約束する」

簡潔な言葉は、なんだかとても暖かい気がする。どうしてかしら、彼の言葉は真っ直ぐに信用できると思う。

「信じているわ」

後戻りはできない。わたしはこれで、自分の行くべき道を、選び取ったのだから。

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