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ブルー・ワシントンの夜の弾き語り  作者: はまゆう


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第十三話 神は黒い——ジェームズ・H・コーン

(ピアノの前に座った老いた黒人ミュージシャン。薄暗い照明。グラスを傾ける客たち。彼は鍵盤に指を置くが、なかなか音を出さない。何かを探している——この夜にふさわしい、一つの言葉。一つの真実。そして、ゆっくりと語り始める。)


こんばんは、みんな。俺だ。


今夜は、神の話をしよう。


(彼はそこで止まる。その言葉の重みを、客席の誰もが感じている。教会で聞くような話じゃない。神学の講義でもない。もっと別の——もっと危険な——神の話だ。)


「神は黒い」。


(長い沈黙。その言葉が、空気中に、まだ溶けずに残っている。)


これを聞いて、どう思う? 誰かの挑発だと思うか? 逆差別の叫びだと思うか? それとも——ただの誇大広告か?


(彼の声が低く、強くなる。)


これは、ジェームズ・コーンの言葉だ。黒人解放の神学者。神は黒人である。


彼は、この一言のために——いや、この一言から——生涯をかけて戦った。


(ピアノ。1938年、アーカンソー州ビアデン。ジム・クロウの影。リンチの記憶。)


彼は、1938年8月5日、アーカンソー州ビアデンで生まれた。小さな農園の町。そこでは、誰もが神を知っていた——でも、誰の神なのか?


(彼の声に、その矛盾が込められる。)


白人の神。南部の神。リンチをする者の隣に座っている神。


彼の両親は、敬虔なクリスチャンだった。毎週日曜日、彼は家族と一緒に黒人教会に座った。そこで彼は聞いた。讃美歌を。説教を。そして、聖書の言葉を。


(彼は間を置く。その記憶を、自分のもののように。)


でも、彼は同時に、外の世界も見ていた。日曜日以外の世界。白人が黒人を、人間として扱わない世界。神を信じていると言いながら、同じ神を黒人が信じることを許さない世界。


(彼の声に、若きコーンの疑問が込められる。)


「この神は、本当に私たちの神なのか?」


それが、彼の最初の問いだった。


(ピアノ。フィランダー・スミス・カレッジ。黒人の学び舎。自由を考える場所。)


彼は、アーカンソー州のフィランダー・スミス・カレッジに進学した。そこは、黒人のための大学だった。そこで彼は、黒人の歴史を学び、黒人の知恵を学び、黒人のための神学が——まだないことを知った。


(彼の声に、その発見の衝撃が込められる。)


白人の神学者たちは、素晴らしい本を書いていた。カール・バルト。パウル・ティリッヒ。ラインホールド・ニーバー。でも、彼らの言葉は——黒人の現実を語っていなかった。黒人の苦しみを、神の視点から考えたことがなかった。


(彼はそこで止まる。そのギャップを、自分の言葉で埋めるように。)


彼は決意した。「自分が書く。黒人のために。黒人の視点から。黒人の神を」と。


(ピアノ。1968年。二つの銃声——キングの、そしてマルコムの。彼らの魂はまだ叫んでいる。)


1968年。キング牧師が撃たれた。マルコムXは、その前に撃たれていた。黒人の指導者たちは、次々に消えていった。でも、彼らのメッセージは消えなかった。


(彼の声に、その二つの声の融合が込められる。)


コーンは、その二つの声を一つにしようとした。


キング牧師の「光」。マルコムXの「炎」。光は照らす。炎は燃やす。でも、それらは別々のものなのか?


(彼の声が強くなる。)


彼は言った。「キングは夢を見た。マルコムは現実を見た。でも、私たちにはその両方が必要なんだ。夢を見ながら、現実と闘うために」


それが、彼の神学の出発点だった。


(ピアノ。1969年。一冊の本が、神学界に落ちた爆弾。)


1969年。彼は、その年の——まだ31歳で——『Black Theology and Black Power』を出版した。


(彼の声に、その本の持つ衝撃が込められる。)


タイトルだけ聞いて、当時の白人の神学者たちは怒った。「ブラック・パワー」——過激な言葉。過激な運動。それを、神学に? キリスト教に?


(彼は小さく笑う。嘲笑ではなく、諦念のような笑い。)


でも、彼は譲らなかった。彼は言った。「ブラック・パワーは、キリストのメッセージそのものだ」と。


(彼の声がさらに強くなる。)


なぜなら、キリストご自身が——最も抑圧された者たちと共にいたからだ。貧しい者と。囚われた者と。病める者と——そして、黒人と。


(ピアノ。1970年。第二の爆弾——『A Black Theology of Liberation』。)


その翌年、彼は『A Black Theology of Liberation』を出版した。これは、体系的に黒人解放の神学を打ち出した最初の書だった。


(彼の声に、その書の内容が要約される。)


彼は言った。「神は、歴史の中で抑圧された側に立つ」と。


(彼はそこで止まる。その言葉の意味を、客席の誰もが考える時間を与える。)


「歴史の中で」。つまり、ただ天上に座している神ではない。地上の戦いに——私たちの戦いに——介入する神。奴隷をエジプトから導き出したあの神のように。十字架で処刑されたあのイエスのように。


(彼の声が問いかける。)


もし神が抑圧された側に立つのなら——アメリカで、最も抑圧されているのは誰か? 黒人だ。ならば、神は黒人と共に立つ。神は——黒い。


(ピアノ。1975年。彼の最高傑作——『God of the Oppressed』。)


1975年。彼は、彼の神学の集大成『God of the Oppressed』を出版した。


(彼の声に、その本への敬意が込められる。)


この本で、彼は以前からの批判に応えた。「お前の神学は、ヨーロッパの神学に依存しすぎている」という批判に。


(彼はその解答を語る。)


彼は、アーカンソーのビアデンに戻った。自分のルーツに。黒人教会の経験に。霊歌と黒人フォークロアの伝統に。そして、黒人の闘いと生存の歴史に。


そこから、彼は神学を再構築した。


(彼の声に、その再構築の核心が込められる。)


その結論は——同じだった。神は黒い。より明確に。より深く。より、戦うために。


(ピアノ。彼の神学の核心——神は黒い。「比喩」ではない。)


ここで、みんなに理解してほしい。


(彼の声が、講義ではなく、告白のように。)


コーンが「神は黒い」と言うとき、それは「比喩」ではない。比喩なら、誰でも言える。「神は岩」「神は光」「神は愛」。それらは美しい。でも、誰も傷つけない。


「神は黒い」は——誰かを傷つける。傷つけるつもりで言っている。アメリカで、黒人であることがどれほど傷つくかを知っているからこそ、その痛みを神に引き受けてほしいからこそ——「神は黒い」と言うんだ。


(彼の声が、その痛みを共有するように。)


もしイエスが今日、アメリカに現れたら——彼の肌の色は、何色だろうか?


(長い沈黙。その問いの答えは、誰にでもわかる。)


イエスは黒い。いや、黒くならなければならない。最も抑圧された場所に、神がいるなら——そこは黒人の隣だ。黒人の生活の中だ。黒い肌の中だ。


(ピアノ。彼の神学のもう一つの柱——十字架とリンチの木。)


彼の後期の代表作に、『The Cross and the Lynching Tree』がある。


(彼の声に、そのタイトルの重みが込められる。)


十字架とリンチの木。イエスが処刑された場所と、アメリカで何千もの黒人が吊るされた場所。コーンは言った。「この二つは、同じものだ」と。


(彼はその意味を解く。)


イエスは、ローマ帝国によって「犯罪者」として処刑された。黒人は、アメリカによって「人間ではない」としてリンチされた。どちらも——権力が、弱者を殺す方法だ。どちらも——神が、被害者の側に立つ場所だ。


(彼の声が強くなる。)


だから、十字架を見るとき、そこにリンチされた黒人の姿を見よ。リンチの木を見るとき、そこに十字架のイエスを見よ。神は——彼らと共にいる。共に苦しみ、共に死に、そして——共に復活する。


(ピアノ。彼の生涯の闘い——神学界との闘い。)


もちろん、彼は批判された。


(彼の声に、その批判と彼の応答が込められる。)


白人の神学者たちは言った。「あなたの神学は、分裂的だ」「愛のメッセージではない」「復讐の神学だ」。


黒人の神学者仲間からも批判された。J・デオティス・ロバーツは言った。「和解を軽視している」と。女性の神学者たち——後に登場する「ウーマニスト神学」の先駆者たち——は言った。「男性中心すぎる。黒人女性の経験を無視している」と。


(彼の声に、その批判への敬意が込められる。)


コーンは、これらの批判を無視しなかった。彼は耳を傾けた。本を改訂した。黒人女性の声を、後に自分の神学に取り入れた。彼は完璧ではなかった。でも、戦い続けた。学び続けた。変わり続けた。


(彼の声に、その姿への敬意が込められる。)


それが、本当の戦士の姿だ。マルコムXと同じ。キング牧師と同じ。アリと同じ。


(ピアノ。2018年4月28日。彼は逝った。)


2018年4月28日。ジェームズ・コーンは、ニューヨークの自宅で息を引き取った。79歳。


(彼の声に、その知らせの衝撃がまだ残っている。もう7年前のことなのに。)


彼は、ユニオン神学校で50年近く教えた。彼の教え子たちは、世界中に散らばった。彼の本は、何十もの言語に翻訳された。彼は、黒人解放神学の「父」と呼ばれた。


でも、彼自身は、その称号をどう思っていただろうか?


(彼は少し笑う。コーンの顔が浮かぶように。)


「父」と呼ばれるよりも、「戦友」と呼ばれたかったのではないか。キングの光を背負い、マルコムの炎を灯し、アリの拳を握り——一緒に戦う仲間として。


(ピアノ。彼の遺したもの——言葉ではなく、武器。)


「あなたにとって、ジェームズ・コーンとは何ですか?」


(彼はその答えを、自分の胸に手を当てて語る。)


彼は、言葉をくれた。


(彼の声に、その「言葉」の重みが込められる。)


私たち黒人は、ずっと感じていた。教会で、白人の神を礼拝している違和感。聖書を読みながら、「これは本当に私たちのための言葉なのか」という疑問。苦しみの中でも神を信じ続ける矛盾。


(彼は間を置く。その感触を、自分の言葉で。)


でも、それを言葉にできなかった。誰も、言葉にしてくれなかった。


(彼の声が強くなる。)


コーンは、その言葉をくれた。私たちのために。「神は黒い」と言える言葉を。「私たちの苦しみは、神の苦しみでもある」と言える言葉を。「神は私たちと共に闘っている」と言える言葉を。


それは、ただの神学じゃない。それは——武器だ。


(ピアノ。彼の神学の続き——あなたへの問いかけ。)


今夜、この話を聞いて、どう思った?


(彼の声が、客席に問いかける。)


「神は黒い」——この言葉が、あなたの胸に何かを刻んだか? 傷つけたか? それとも、救ったか?


(彼はそこで止まる。答えを求めているのではなく、問いを手渡している。)


コーンは、答えを出したがらなかった。彼は、問いを出したがった。私たちに。白人のクリスチャンに。黒人のクリスチャンに。そして、クリスチャンではないすべての人に。


「あなたの神は、誰の側に立っているのか?」


(長い沈黙。その問いが、空気中に、まだ溶けずに残っている。)


(ピアノ。最後のコード。彼が最も愛した黒人霊歌の一節を、静かに。)


彼は語った。神は黒いと。

彼は叫んだ。神は私たちと共に苦しむと。

彼は書いた。私たちの解放が、神の勝利だと。


(彼の声に、その言葉の力が込められる。)


キング牧師の「光」の前に、彼の「視点」があった。マルコムXの「炎」の前に、彼の「熱」があった。アリの「拳」の前に、彼の「闘い」があった。


彼は、戦士だった。武器は——言葉。戦場は——神学。そして、その武器は今も——私たちの手の中に。


(ピアノ。低く、長く。そして、優しく消える。)


ジェームズ・ハル・コーンのために。

1938年8月5日 - 2018年4月28日。

彼は言った。「神は黒い」と。

誰にも、その言葉を奪わせなかった。


(拍手。深く、長い拍手。彼は軽く会釈する。その目は、アーカンソー州ビアデンの小さな黒人教会を見ている。あるいは、ニューヨークのユニオン神学校の教室を見ている。あるいは——その両方に、同じ神がいるのを見ている。しばらくの間——長い間、彼は何も言わなかった。ピアノの前に座ったまま、その言葉の響きを確かめている。「神は黒い」。その言葉は、まだ彼の中で、音を立てている。そして、ゆっくりと次の曲へと指を動かす。今度は——霊歌を。黒人たちが奴隷だった頃、綿畑で歌ったあの歌を。「たとえ鎖につながれても、神は私たちと共におられる」と。)


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