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ブルー・ワシントンの夜の弾き語り  作者: はまゆう


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第十四話 ピアノを武器に——ニーナ・シモン

(ピアノの前に座った老いた黒人ミュージシャン。薄暗い照明。グラスを傾ける客たち。彼は鍵盤に指を置き、低く唸るようなコードを一つ。それは誰かの声——怒りと悲しみが混ざり合った、燃えるような声。そして、語り始める。)


こんばんは、みんな。俺だ。


今夜は、ピアノの話をしよう。


(彼は自分の前に広がる鍵盤を見下ろす。そこには、黒と白。彼の指がその上を這う。)


88の鍵盤。黒い鍵盤と白い鍵盤。音楽を奏でるために並べられた。でも、ある女は——この鍵盤を武器にした。白い鍵盤で叫び、黒い鍵盤で怒り、その両方でこの国を撃ち抜いた。


(彼の顔を上げる。)


ニーナ・シモン。


(ピアノ。1933年、ノースカロライナ。ピアノの音が聞こえてくる。6歳の少女が弾くクラシック。)


彼女は、1933年2月21日、ノースカロライナ州トライオンで生まれた。本名、ユーニス・キャスリーン・ウェイモン。父はアイスクリーム屋を営み、母はメソジスト派の牧師だった。彼女は、3歳でピアノを弾き始めた。


(彼の声に、その才能への驚きが込められる。)


6歳のとき、彼女は教会で初めて賛美歌を弾いた。10歳のとき、彼女は初めてのリサイタルを開いた。その演奏を聴いた白人の女性が、彼女の才能を認め、ピアノの師事のための資金を提供した。


(彼は間を置く。その「白人の女性」の存在の、微妙な意味を噛みしめるように。)


彼女は、クラシック・ピアニストになることを夢見ていた。フィラデルフィアのカーティス音楽院——全米でも最も名門の音楽学校——に入学するために。


(彼の声が暗くなる。)


彼女は、完璧なオーディションを演奏した。審査員たちは口を揃えた。「才能は素晴らしい」と。でも——


(長い沈黙。)


「私たちは、彼女を受け入れられない。なぜなら、彼女は黒人だから。」


(ピアノ。一つの鋭いコード。その瞬間の彼女の心の音。)


その日、彼女の夢は——彼女が目指していた世界は——終わった。


(ピアノ。1950年代、ニューヨーク。クラブの暗い照明。彼女は歌い始める。)


彼女は、カーティスから拒否された後、ニューヨークへ向かった。アトランティックシティのクラブでピアノを弾き始めた。そこで彼女は、「ナイトクラブ・シンガー」としての自分を見つけることになる。


(彼の声に、その出会いの偶然が込められる。)


彼女は言った。「私はクラシックだけを弾きたかった。でも、それが許されないのなら、別の方法で音楽をやる。でも、私の音楽は——誰にも止めさせない」


彼女は、芸名を「ニーナ・シモン」と名乗った。「ニーナ」は彼女を「小さなもの」と呼んだボーイフレンドの愛称。「シモン」はフランスの女優シモーヌ・シニョレから取った。


(彼の声に、その名前に込められた自己決定の力が込められる。)


自分で名前を選んだ。誰にも決めさせなかった。それは、マルコムXのXと同じだった。それは、メレディスがミシシッピ大学の扉を押し開けたのと同じだった。


(ピアノ。1959年。「アイ・ラブ・ユー、ポージー」。彼女の最初のヒット。でも、彼女はまだ本音を隠していた。)


彼女は、最初のうちは「普通の」曲を歌っていた。愛の歌。別れの歌。ポップスのスタンダード。


(彼の声に、その矛盾が込められる。)


でも、彼女の心の中では、別の歌が育っていた。南部で起きている暴力。日常的に黒人が殺されるニュース。彼女の故郷ノースカロライナから届く、差別の声。


(彼の声が強くなる。)


彼女は言った。「アーティストの役割は、真実を語ること。それが彼らのためにある才能の使い方だ」


(ピアノ。1963年。バーミングハム。教会の爆破。少女の死。彼女は動いた。)


1963年9月15日。アラバマ州バーミングハムの第16通りバプテスト教会。KKKによって爆弾が仕掛けられた。4人の少女——アディ・メイ・コリンズ、11歳。シンシア・ウェズリー、14歳。キャロル・ロバートソン、14歳。デニース・マクネア、11歳——彼女たちは、日曜学校の教室で、爆死した。


(彼の声が震える。その知らせを、当時の黒人がどう受け止めたかを、彼は覚えている。)


ニーナ・シモンは、その知らせを聞いた。そして、ピアノの前に座った。


(彼の声に、その瞬間の彼女の姿が浮かぶ。)


彼女は、20分で曲を書き上げた。タイトルは——「ミシシッピ・ゴッダム」。


(ピアノ。その曲の最初のコードを彼は奏でる。低く、唸るように。鋭く、叩きつけるように。)


「ミシシッピ・ゴッダム」——「ゴッダム」は「地獄の」という意味。その名前で彼女は、南部の州を、アメリカ全体を——呪った。


(ピアノ。その曲の持つ力。言葉にできない衝撃。)


この曲を、聴いたことがあるか?


(彼は客席を見渡す。知っている人がいるかもしれない。初めて聞く人がいるかもしれない。)


彼女は、その曲でこう歌った。


「アラバマで私の兄弟が殺された。

世界中の誰もが彼の血を無視する。

でも、私は知っている。

誰かがこの悪夢から私たちを救い出すまで、

私たちは語り続ける——ミシシッピ・ゴッダム」


(彼の声に、その歌詞を伝える苦さが込められる。彼は自分自身の言葉で続ける。)


この曲の中で、彼女は白人社会の偽善を暴いた。彼女は、黒人が毎日直面する暴力を、平然と受け入れてしまうアメリカの意識を——鞭打った。


(彼の声が鋭くなる。)


この曲は、彼女のキャリアの転機だった。彼女は二度と同じ道を歩まなかった。愛の歌を歌うシンガーから、闘うアーティストへ——彼女は変身した。


(ピアノ。1960年代の彼女の黄金期。「フォー・ウーマン」「シン・リバティ」「トゥ・ビー・ヤング、ギフテッド・アンド・ブラック」。彼女は、歌で語り続けた。)


彼女は、公民権運動のただ中で、最も声高に、最も鋭く、最も美しく歌った。


(彼の声に、その曲のタイトルを挙げる喜びが込められる。)


「フォー・ウーマン」——黒人女性の経験を、4つの視点から描いた。決して妥協しない黒人女性の魂の叫び。


「シン・リバティ」——「自由について考える」。でも、その歌は、アメリカの偽りの自由を問い直す。


「トゥ・ビー・ヤング、ギフテッド・アンド・ブラック」——若く、才能があり、そして黒くあることの誇りと苦しみ。この曲は、ブラック・パンサー党の党歌にもなった。


(彼の声に、その言葉の力が込められる。)


彼女は歌った。キング牧師が語った場所で。マルコムXが叫んだ場所で。アリが拳を上げた場所で。彼女はピアノの前に座り、鍵盤を叩き、歌った。


(ピアノ。1970年代。彼女の戦いは、音楽の枠を超えていく。)


彼女は、歌だけでは満足しなかった。彼女は行動した。


(彼の声に、その行動の激しさが込められる。)


彼女は、ブラック・パンサー党を支援した。彼女は、マーティン・ルーサー・キングの暗殺後、彼の未亡人コレッタ・キングと共にデモに参加した。彼女は、アパルトヘイトの南アフリカに対して文化的ボイコットを呼びかけた。


(彼の声が強くなる。)


彼女は言った。「私はもはや、白人の前で何かを『演じる』ことはできない。私は、真実を言うためにここにいる。それが誰かを傷つけるなら、その誰かは真実に傷つくべきなのだ」


(ピアノ。彼女の後半生。離れていく祖国。でも、彼女の歌は離れない。)


1970年代後半から、彼女はアメリカを離れて暮らすことが多くなった。リベリア。フランス。オランダ。彼女はアメリカに幻滅していた。それでも、彼女はアメリカについて歌い続けた。


(彼の声に、その矛盾への理解が込められる。)


彼女は、言った。「私はアメリカを愛している。でも、アメリカは私を愛していない」


(長い沈黙。その言葉の重みが、この場にいる誰の胸にも響く。)


その言葉は、フレデリック・ダグラスが言った言葉と同じだ。この国が愛さないからこそ、私たちはこの国を愛するのか。それとも、愛される資格を求めて、愛し続けるのか。


彼女は、その問いと共に生き続けた。


(ピアノ。2003年。彼女は逝った。)


2003年4月21日。ニーナ・シモンは、フランスのカリュー=ル=ルエの自宅で息を引き取った。70歳。


(彼の声に、その知らせへの哀しみが込められる。)


癌だった。彼女は長年、闘病生活を送っていた。でも、その病床でも、彼女はピアノを弾きたがった。


彼女の葬儀には、何千人もの人が集まった。彼女の棺に、花が置かれた。彼女のピアノが置かれた。


(彼の声に、その葬儀の場面が浮かぶ。)


彼女の棺が運び出される時、スピーカーから彼女の歌が流れた。彼女が25歳で録音した「アイ・ラブ・ユー、ポージー」。若い日の彼女の声。まだ、この国が彼女を傷つける前の。


(彼は間を置く。その皮肉を、音楽だけが知っている。)


(ピアノ。彼女の遺したもの。私たちへの問い。)


「あなたにとって、ニーナ・シモンとは何ですか?」


(彼はその答えを、自分の胸に手を当てて語る。)


彼女は、ピアノを武器にした。88の鍵盤で、この国を撃ち抜いた。黒い鍵盤は怒り、白い鍵盤は悲しみ。それらが混ざり合って、彼女だけのブルースを奏でた。


(彼の声に、その音楽の意味が込められる。)


キング牧師の「光」を、彼女は歌にした。マルコムXの「炎」を、彼女はピアノにした。アリの「拳」を、彼女はコードにした。


(彼は自分の前に広がる鍵盤を見下ろす。そこには黒と白。そして、彼の指。)


彼女は、私たちに教えた。音楽は、娯楽ではない。音楽は、武器である。戦う者のためにある。叫ぶ者のためにある。そして——歌わなければならない者のために、最も重要な武器である。


(ピアノ。最後のコード。彼女が最も愛した、不協和音の響き。)


彼女は歌った。ただ、それだけだった。

誰にも、黙らせなかった。

その歌は、銃弾よりも強く、忘却よりも永く。

この国の、魂の奥まで響いている。


(ピアノ。彼女の声がどこかから聞こえてくるような不協和音。そして、その音が静かに、優しく消える。)


ユーニス・キャスリーン・ウェイモンのために。

ニーナ・シモンのために。

1933年2月21日 - 2003年4月21日。

彼女は歌った。ただ、それだけだった。

誰にも、止められなかった。


(拍手。深く、長い拍手。彼は軽く会釈する。その目は、カーティス音楽院の拒否の手紙を見ている。あるいは、バーミングハムの爆破された教会を見ている。あるいは——その両方で、彼女がピアノを弾いているのを見ている。しばらくの間——長い間、彼は何も言わなかった。ピアノの前に座ったまま、そのコードの響きを確かめている。黒い鍵盤と白い鍵盤。彼女はそれらを押して、歌った。誰よりも強く。誰よりも美しく。そして、ゆっくりと次の曲へと指を動かす。今度は——彼女のために。彼女の戦いを引き継ぐための、一つのブルースを。)

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