第42話 残響、交わる境界
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王立魔法学園を覆っていた「泥」の悪臭は消え去った。
しかし、そこに残された傷跡は、物理的な破壊以上に深く、冷たい影を落としていた。
事後処理の関係もあり、学園の暫定的な休校が決まり、生徒の多くは領地や実家へと帰された。
しかし、教職員たちに休む暇はなかった。
学園長であるシグルドは、王宮への緊急報告や、学園内に潜んでいたユーリ・ドレイクの素性調査、崩壊した闘技場の結界修復など、かつてない事態の収拾に不眠不休で追われていた。
また、王太子であるエドワードも同様だった。
一国を揺るがしかねない襲撃事件の事後処理と、王宮での絶え間ない対策会議に忙殺され、自らの足で学園へ赴くことすら叶わない状況が続いている。
そんな中、激闘の当事者たちは、未だ学園の特別病棟に留まっていた。
特別病棟の一角、白いカーテンが日の光を柔らかく透かす個室
そこには、あの襲撃の後から一度も目を覚まさない少女、レイナ・アッシュベルクが横たわっていた。
「……今日もお肌、真っ白だね」
レイナの枕元で、リリィが絞り出すような声で呟いた。
傍らのサイドテーブルには、エドワード殿下から届けられたのであろう、差出人不明の瑞々しい花束が、主の不在を埋めるように静かに香っている。
「彼女の魔力……以前とは明らかに質が変わっているわ」
扉の近くに背を預けていたカトレアが、眠るレイナを見つめて言った。
「これは単なる魔法の変質ではなさそうね。
レイナがこれまで抱えてきた拒絶を、私たちを救いたいという強烈な想いが上回ったことで
力が、彼女自身の魂の変化に……想いに連動して、形を変えたと言った所かしら?」
窓際に立つカイルが、自分の胸に手を当てて頷く
「僕の回路を洗ったあの風は、拒絶の力じゃなかった。
不純なものだけを吹き飛ばし、大切なものを残そうとする、意思を持った風だった……」
レイナの魔法――『灰』は、彼女が今世で受けたトラウマが元になり、自分を守るための力だった。
しかし今、拒絶だけでなく、誰かの涙を拭うための『風』が息吹いた。
三人は、眠り続ける彼女が成し遂げたことの大きさを噛みしめ、ただ静かにその目覚めを待っていた。
* * *
――そこは、星々が河のように流れ、時間の概念すら曖昧な「境界」の地。
そこに漂う超越的な意志は、地上で眠り続けるレイナの魂を、親のような慈しみと、わずかな後悔の念で見守っていた。
『……すまない、幼き魂よ』
超越者の意思が空間に響く
『前世の君は、あまりに色彩に乏しく、凍てついていた。だからこそ、今世では誰にも傷つけられず、あらゆる理を従える事すら可能な最も自由な「彩」の守護を与えたのだが……』
しかし、レイナを取り巻く環境は、そんな超越者の意志とは裏腹に不運な出来事が続いてしまった。
気がついた時には、彼女は世界から自分を閉ざすように、自らの彩を『灰』に固定してしまっていたのだ。
そんなレイナが、守りたいと強く願う心によって、本来の力の片鱗を取り戻した。
超越者は、その変化を誇らしく思う一方で、彼女が再び過酷な運命の渦中へ飛び込んでいくことを、忍びなく思っていた。
『私の願いとは裏腹に、君はまた自分を閉ざし、自分よりも誰かのために傷つく道を選んでしまった。
……もう少しだけ、君がただの少女として笑える時間を、長く用意してあげたかったのだが』
超越者が静かに光を揺らす
そして、レイナに記憶が戻り始めてから、ずっと試みていた「作業」を完成させるべく、空間の密度を一点に集中させた。
肉体を失い、魂となって四散しかけていた「彼女」を、この聖域に定着させるには、それなりの時間と、超越者自身の干渉が必要だったのだ。
『……ようやく、意識が結ばれたか』
パサリ、パサリ。
絶対的な静寂の中に、どこか懐かしく、穏やかな足音が響き渡る。
超越者が呼び寄せ、その魂が霧散せぬよう守り抜いた存在――エルマ・アッシュベルクが、そこにいた。
「おや……」
白髪を丁寧にまとめ、清潔なエプロンを身に纏った彼女は、老眼鏡の奥にある瞳を瞬かせ、不思議そうにあたりを見回した。
「一体……ここはどこだい? なんだか随分と遠くまで、呼ばれてしまったみたいだねぇ」
亡くなってから今日まで、彼女の意識は深い眠りの中にあった。
超越者が彼女をこの空間に招き入れ、対話ができるほどに定着させるまで、長い時間を要したのだ。
『驚かせてしまっただろうか。……エルマ・アッシュベルク。
君をここへ呼び寄せたのは、私だ』
星々のきらめきが脈動し、慈愛に満ちた声がエルマを包み込む。
『あの子を……レイナを見守ってくれた君に、どうしても話しておきたいことがあるのだよ。彼女の魂の真実を。そして、これから彼女が歩むであろう、険しくも尊い道のりを』
「私に、かい……?」
エルマは、目の前の人知を超えた存在を恐れる様子もなく、ただ静かに、孫を想う優しい顔でその言葉に耳を傾けた。
超越者は静かに語りかけた
彼女の愛する孫娘が、どのような孤独な過去を持ち、どのような祈りとともにこの世界へ送り出されたのか。そして、彼女自身が選んだ「拒絶」と、それを打ち破った「愛」の物語を。
すべてを聴き終えたエルマは、老眼鏡の奥で少しだけ目を細め、ふんわりと笑って言った。
「レイナはそんな過去と想いを受けて生まれてきたのかい。……それなのに。もう、あの子に何もしてあげられない事が残念だねぇ」
その言葉に悲壮感はなく、ただ深く、あたたかい愛情だけがあった。
星々のきらめきが激しく波打つ
レイナの幸せを願う超越者と、死して尚も孫を愛し続ける祖母。
二つの慈愛が交錯する境界で、物語は誰も予想し得なかった、新たな局面へと動き出す。
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