お兄様と穴人。
毎日更新とか無理でした。
ですがもうしばらく、この位のペースで上げたいと思います。
よろしくお願いします。
「フラウス、これは・・・この洞窟は亥人の手によるモノなのか?」
俺は何かの模様が彫り込まれた美しい石柱に触れながらフラウスに声をかける。
彼が先頭なのは案内役としての役割を全うしたいから主張したためだ。
「え?あ!ちっ違う。これは、昔居た人・・・穴人が作った」
「あなびと・・・?」
聞き覚えのない呼び名だ。
「おそらくドワーフの事です」
後ろからノートが教えてくれる。
「おぉ!そうなのか!?もしや亥人はドワーフと交流があるのか?」
思いがけず探していた種族の名前に声がはずんでしまう。
探していたと言っても人を使ってどうこうしていた訳では無い。
彼らは生活環境が特殊なため、会おうと思って会える種族ではない。
ドワーフとは人間とは異なり地下に住む種族なのだ。
蟻が自身の何倍もある大きな巣を作る様に、地中に大きな都市を築くそうだ。
そんな彼らだが、恐らく王国でドワーフの存在を知っている人間はごく少数だろう。
というのも、彼らの存在はヴァレンティノ領に残る古い言い伝えでしか聞いた事が無い。
もちろん、それだけなら俺だってその存在を信じる事はなかっただろう。
だがダークエルフであるノートから以前ドワーフ達と交流が有ったと聞かされれば話は別だ。
しかしドワーフ達は遊牧の民が大地をさすらう様に、地中の資源を求めてゆっくりとその居を移すらしい。
ノートの森でもその姿を見なくなって久しい、と聞いていたので半ばあきらめていた。
ちなみに彼らの外見は小柄だが人間に近く、ノート達ダークエルフの美的感覚からすると醜いらしい。
「・・・えっと・・・そっそれは・・・」
先頭を歩いていたフラウスは立ち止まり、俺が思考している間も何かをためらう様に言い淀む。
何か不味い事でもあるのか?
「・・・どうかしたのか?別に無理に紹介してくれと言うつもりは無いぞ?何かあるのか?」
と言うのは建前で、もし可能ならば多少強引な手段を用いてでも彼らと接触するつもりだ。
「その、ケルキス族が穴人からこの穴を奪った」
「・・・なるほど、そうか・・・」
俺がドワーフに対して好意的だと思って、警戒したのか・・・。
だが、少し冷静に考えれば至極当然の話だ。
異種族の生活圏が重なれば争いになる。
特にドワーフは好戦的ではないが保守的な種族らしく、簡単に生き方を変えたりはしないそうだ。
亥人達がこの洞窟を欲した時に交渉や共存と言う選択肢は無かったのだろう。
あるいはカウキスの様な好戦的な亥人が交渉しようとしなかったか・・・。
「穴人に、その、あっ会いたい?」
会いたいか会いたくないのかと問われれば当然会いたい。
なぜならドワーフという種族が持つという鍛冶の技術を手に入れたいからだ。
ヴァレンティノ領内で加工できる金属は青銅が限界だ。
もちろん鉄が無いわけではない。
領内には鉄鉱石を多く含んだ地層も存在する。
だが鉄を加工出来るだけの炉も燃料も無い。
燃料に使えるほどの木材が無いのだ。
そのため現在は魔法による加工に頼るしかないのだが、魔法を使えば自由に金属の形を変形させられる訳では無い。
やはり熱を加えて柔らかく、または溶かす必要がある。
しかし魔法は一時的に炎を生み出し対象を攻撃するような使い方には向いているが、長時間持続的に熱を加える様な魔法は難しい。
さらに鉄を溶かす程の高火力魔法となると難易度は跳ね上がる。
今の領内の術者では加工のしやすい青銅を扱うのが限界で、その段階に達した者だって数える程度しかいない。
ダークエルフの魔法ならば鉄の加工も可能かもしれない。
だが彼女達を長時間工房に閉じ込める事は出来ないとノートに断られた。
だからこそドワーフの鍛冶技術を領内に取り入れたいと思っているのだ。
と言うのも彼らドワーフは、炎に拠らない金属の加工技術を持っているらしい。
まぁ、当然と言えば当然の話だ。
彼らは地下で生活しているのだから、地中では炎は扱えない。
ならば他の加工方法があるのだ。
だがそれがどういった方法なのかまではノートも知らなかった。
だからこそ、もし出会える機会があるのなら逃したくは・・・。
「アニィ!ダメだ。また聞いてない」
いつの間にかヨルズが目の前で手を振っていた。
少し考え込んでいた様だ。
「人聞きが悪いな。なんだ?」
「『ナンダ?』じゃ無いよ。さっきから上の空で、このブタさんが聞いてるよ」
人の声をマネた後、ヨルズがフラウスを指し示す。
彼ははるかに小さいヨルズに指を差され身を小さくしている。
かなり怯えているようだ。
まぁ、ヨルズとカウキスの戦いを見ていたのだから当然か・・・。
「フラウスだ。ヨルズ、人の名前を間違えるのは失礼なことだ。もしノートやヨルズの名前を間違えられたら嫌だろ?それで、どうした?」
嫌どころか、ヨルズなら戦いになりそうだ。
「むー、人の話聞かないのだって失礼でしょ!」
ヨルズがまた頬を膨らませる。
む、それは確かにそうだ・・・。
「そうだな、悪かった。それで、どうした?」
軽く頭を下げて謝ったんだがヨルズはそっぽ向いてしまう。
「あ、えっと。穴人に、その、会いたいの?」
フラウスはいっそう縮こまり遠慮がちにそう口にする。
そういえば、さっきの質問に答えていなかったな。
どうやら俺が気付かなかったせいで怒っていると勘違いさせてしまった様だ。
「あぁ、出来れば会いたいな。彼らから教えてもらいたい事がある」
「あ、その・・・さっ里に一人だけ、居る。ここで会った時に、捕まえた・・・らしい」
なるほど、奴隷という事か。
「そうか、なら紹介してくれるとありがたいな」
内心を隠しそれだけ伝える。
ドワーフと出会い領内の問題が一つ解決する可能性に対する期待と、亥人に対するわずかな懸念を感じでいた。
別に奴隷が悪いなんて言うつもりは無い。
彼らが人間より遥かに優れた戦士なのも間違いはないだろう。
だが他種族に対して過度に攻撃的なのはまずい。
敵と親しい者も敵と考えるのは人間の社会ではよくある事だ。
だから亥人との繋がりが領内に不要な争いを持ち込むことになるかも知れない。
もちろん、ドワーフと亥人達がどういう出会い方をしたのかは分からないので、彼らの正当性など部外者の俺では判断のしようもない。
だがもし、亥人とドワーフが対立してどちらかとしか友好関係を築けなかった場合、現状では亥人を切り捨てドワーフと結ぶ可能性が高い。
俺が考える亥人の価値は、その大部分をアルミニウスによる魔法の知識が占めている。
だが、それは無くても問題は無い。
亥人達の戦力についても魅力的ではあるが、人間で代用できる。
だがドワーフの持つとされる製鉄技術の価値は計り知れない。
もちろんドワーフが交渉に乗ってこないようなら亥人と共に強引な・・・。
「わっわかった」
フラウスは怯えた様に何度か頷きそれだけ前を向く。
もしかすると俺まで彼に怖がれているのだろうか。
そんな怖い表情をしていた自覚は無い。
というよりも、思考を巡らせている時は注意力が散漫にはなるが、それを表情に外に出すような事はしない。
これでも貴族の端くれなのだ、腹芸が出来ないでは務まらない。
そういえば、先ほどから俺が話しかけるだけでビクッと肩を驚かせ、鼻もピクピクと動かしていた気がするな。
・・・もしかするとこの洞窟に入る前、あの森林限界で見た黒い蜥蜴について尋ねたのが原因か?
あの蜥蜴は「死の使い」と呼ばれているらしく、亥人の子供を躾ける時に話すのだそうだ。
よくある『悪い子は「死の使い」が来てバリバリと食べられてしまう』と言うヤツだ。
そんな存在に出会って生還したからこそ恐れる・・・いまいち、こじつけな気がするな・・・。
「・・・もっもうすぐ、抜ける」
フラウスのその言葉で前から光が見え始めたのに気付く。
だがそこから少し進むと整備された道は曲がり、その先は少し進んだ所で崩落か何かで塞がれている。
光が見えるのは、綺麗な曲線を描く壁に空けられた横穴からだ。
その横穴からは力任せに掘り抜いた様な荒々しい素掘りの道が続いている。
穴の大きさ自体は少し狭くなった程度だが、たぶん別の者の手で掘られたのだろう。
・・・おそらくドワーフの作った道と亥人達の掘った穴がここでぶつかったのだ。
ドワーフ達にとっては不運だったな。
横穴付近の壁には武器を振り回した様な傷や黒っぽい跡が魔法の光に照らし出されている。
・・・素掘りの穴をしばらく進むとようやく風の流れを感じる。
そういえば、途中ドワーフの道にいくつかの分岐が有った。
フラウスが先導したおかげで迷いなく進むことが出来たのは僥倖だった。
道案内の名目で連れては来たが、本当に案内してもらう事になるとは思っていなかったからだ。
彼には、里についてからの事情説明と、交渉の円滑化、そしてアルミニウス達が里に戻った時に報告をさせるのが主な狙いだった。
俺があれこれ説明するより、同族から話を聞いた方が、信頼できるはずだと考えたからだ。
しかし、フラウス本人が案内をするために選ばれたと思い込み協力的なのは嬉しい誤算だ。
読んで頂きありがとうございました。
今回は動きがほとんどない説明が多めの話になってしまいました。




