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お兄様と黒い蜥蜴。

もうすぐ、日が昇りますね。

申し訳ありません。

もう少し早く上げたかったのですが、できませんでした。

 突然現れ巨狼と我々の進路をふさいだ黒い蜥蜴とかげだが、立ったまま何かするわけではなかった。

 少し離れた場所(おそらく巨狼に対する安全な距離なのだろう)からジッとこちらを観察している。


 「なんだろ?何もしてこないね」


 ヨルズが首を傾げてこちらを見る。


 「そうだな。ノート、この生き物が何なのか知っているか?」


 「知りません、少なくとも森では見かける事が無いですね」


 翼膜をたたみ、人間の腕の様な前脚で欠伸混じりに首の後ろをガジガジと掻く。

 その四肢には亥人すら簡単に引き裂きそうな鋭く大きな鉤爪を持っている。

 突然目の前に降りてきてこちらに興味は無いとでも言いたげな、随分な態度だとは思うが人間からすれば勝ち目の無い恐ろしい生物だという事は分かる。

 しかし、それは人間からすればだ。

 巨狼にとってはカラスのようなモノなのか、道を譲る理由はないと無造作に距離をつめる。

 すると黒い蜥蜴はたたんでいた両翼を勢いよく広げ、道を阻む様な姿勢をとる。

 そして「ギャオゥーッ!」と響く声で鳴いた。


 「あれ?また来た」


 すぐにヨルズが気付いて緊張感のない、むしろ楽し気な声を上げる。

 その小さい指が示した空からは、一匹もう一匹と次々に黒い影が降りてくる。

 それはドンドン数を増やし、あっという間に十数匹になる。

 最初に現れた黒い蜥蜴の後ろにドカドカと着地すると、「ギャゥ」「ギャウッ」と鳴きながら何かのやり取りをした。

 そしてまるで巨狼の進路をふさぐ壁の様に密集して立ちはだかる。

 これより先に進むなとでも言いたげだ。

 だが最初に鳴いた後は威嚇するような事はせず、距離を置いてジッとこちらを見つめる。

 攻撃するつもりは無いという事なのだろうか・・・。


 「目障りですね、排除しますか?」


 「いや、知性が有るようだし、不要な対立は避けたい。すまないが迂回する様に言ってくれ」


 ノートの冷淡な提案に首を振って答える。

 相手は敵対的な行動をとっていないのだから無理に追い払う必要はない。

 今は巨狼がいるからこそ抑止力になっているのだろうが、もしヘタに刺激する事で恨まれ、今後この辺りでの活動に支障が出ては厄介だ。

 なにより外見的にもドラゴンに近い種族だと思われるので、もし眷属や従僕じゅうぼく的存在だった場合はより不味い事態になるかも知れない。

 それにわずかな可能性ではあるが、知性があり組織的な行動ができる生き物ならば、飼育して何かに利用する事だって・・・さすがにこれは妄想の域か。

 この黒い蜥蜴がどういう生き物なのかも、フラウスが起きてさえいれば聞き出せたかもしれんが・・・まぁ、どちらにせよ今は時間が無いか。

 まずは攫われた村人を救出する方を優先すべきだろう。


 「そうですか・・・」


 ノートは俺のその考えを知ってか知らずか、いつも通りに返事をする。

 そして巨狼の背中を撫でながら何か語り掛ける。

 俺も謝罪の意味を込めて巨狼の背中を軽く撫でる。

 自分より小さな生き物に道を譲る事に不快感を感じていなければいいのだが。

 巨狼は一度道を塞ぐ黒い蜥蜴を見渡した後、ゆっくりと向きを変えその脇を少し距離を置いて通り抜ける。

 黒い蜥蜴たちは巨狼が近づいた一瞬、翼を広げようとしたが、巨狼が通り過ぎるのが分かった様で、それ以上は特に動きはしなかった。

 巨狼はそれらの動きを無視して悠然と進む。

 消してお前たちに臆したわけでは無いと黒い蜥蜴たちに示しているかのようだ。

 それから十分に距離が離れた後でまた駆け出した。


 どうやら巨狼は目的地へ直進する道を選んでいる様で、それからしばらくするとまた木々の上をくだりながら駆け始めた。

 一つの山を越え、さらにその奥の山へと突き進んでいる様だ。

 だが、この辺りで俺の気力と体力が限界を迎え、意識を手放す。



 次に目覚めた時には少し開けた場所で、ノート曰く山の中腹らしい。

 近くには洞窟があり、巨狼の姿はすでになかった。

 どうやら亥人の里はすぐ近くで、その洞窟が入り口らしい。

 巨狼は日の光の届かない場所を嫌がるそうなので、すでに帰したらしい。

 そうでなくても、あの大きさならばこの洞窟の中へ入る事は難しかっただろう。


 「アニィによろしくだってさ」


 ヨルズが草むらを駆けながら楽しげにそう言った。

 これから暗い洞窟の中に入らなければならないのに、元気なヤツだ。


 「あ、その、すっすまなかった」


 そう思っていると横から声をかけられる。

 振り向けばフラウスが立っており、申し訳なさそうにしていた。

 彼いわく、亥人達が野営していた場所から山へ入り数時間ほど進んだ所に洞窟の入り口があり、そこを彼らは普段から利用しているらしい。

 巨狼が通った山越えの経路は大きく迂回するモノで、彼らからすれば数倍は遠回りした事になるのだそうだ。

 案内なのに役に立たなくて、と肩を落としていた。

 実際に見てないので断言は出来ないが、どのみちその洞窟に巨狼は入れなかったと思うので気にする必要はないのだが、負い目に感じると言うのならそう思わせておく。

 恩は売れる時に売り、大きな見返りを得るのだ。

 今居る洞窟は里に最も近いらしいが普段は利用していないそうだ。

 ここは背の高い木々が無い開けた草むらとなっているため、空から襲われた事があったらしい。


 ならばと、サッサと洞窟の中に入る事にする。

 ダークエルフはもちろん、亥人も暗い場所には強いらしいが、彼らの場合ダークエルフの様に完全な闇を見通すわけでは無く、わずかな光でも知覚できるという事らしい。

 そのため光源が一切ない洞窟などは何も見えないらしいので、ノートが魔法で周囲を浮遊する光の玉を作ってくれた。


 洞窟内は湿度が高くジメジメとして滑りやすい、岩だらけの天然の空洞・・・だと思っていたのだが、全然違っていた。

 天然の岩肌が剥き出しになっていたのは入って数メートルまでで、それより先は何者かの手が入れられていた。

 穴の高さは亥人達よりも高く横幅も彼等が優にすれ違うことが出来るほど広い。

 床は平らに削られて、なだらかな傾斜になりわだちの跡まである。

 壁も削られ、天井部分へ緩やかな曲線状になるアーチ型だ。

 さらに所々に石の柱が埋め込まれ補強されている。

 まるで砦かどこかの廊下のようだ。

 とても高度な建築技術によるモノだと一目で分かる。

 これは亥人に対する認識を改める必要があるかも知れない・・・。

読んで頂きありがとうございます。

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