第47話 ネリーのお願い
調査の報酬をいただきに、キルヒナー氏宅へ向かう。
今日もツバキはお留守番だ。
ミリアムとブラウが面倒を見てくれている。
ハンナ謹製のごはんのおかげで、ブラウもふくよかになったそうだ。
「今日は運動させまくりますから!」
ミリアムが気合を入れていた。
オレも期待している。
途中でネリーと合流した。
ハンナに言われた、ネリーをよく観察して喜ぶものを贈るという課題を思い出した。
よし、観察するぞ。
ネリーは普段、可愛らしいワンピースを着ていることが多い。
今日はキルヒナー氏宅に仕事の話をするためだろうか、きっちりとしたスーツだ。
「ネリーは、かわいらしい服が好きなのか?」
「!!」
ネリーの動きが一瞬止まった。
「ア、アルは、どんな服が好きなのですか?」
「んー、オレは頓着はないと思うけど……そうだな。着心地がよくて、作業の邪魔にならなくて、汚れても気にならない服が理想かな」
心なしかネリーが落胆したように見えた。
もしかして、オレの恰好ださい……?一緒に歩くの恥ずかしかったか。
「ごめん……ネリー。TPOは守るようにしてるつもりだったが、オレの格好、ださかった?」
「ち…ちがいます!」
服装の話はタブーかな……。
ハンナに相談しよう。
話しているうちに、キルヒナー氏宅に到着した。
呼び鈴を鳴らして、程なくキルヒナー氏がドアを開けた。
「ジルバーシュタイン様、ネリー嬢。ご足労ありがとうございます。どうぞ」
応接室では、ランゲ夫人が待っていた。
「ジルバーシュタイン様。このたびは本当にありがとうございました」
夫人が深々と頭を下げた。
お茶を運んできたキルヒナー氏に促され、それぞれ席につく。
「ローザから聞きました。情報を集めていただくだけでもありがたいのに、盗まれた美術品を見つけ、犯人を捕まえるところまで協力していただけるとは思いもよりませんでした」
夫人がオレに分厚い封筒を差し出した。
「ジルバーシュタイン様の活躍に対して、ささやかすぎる報酬で申し訳ありませんが、お納めください」
「猫たちのおかげですよ」
オレは封筒をカバンにしまった。
夫人がお茶を一口飲んだあと、口を開いた。
「ジルバーシュタイン様には、もうひとつ。夫のフォルダを預かっていただいていると伺っています」
そういえば、夫人に返すべきなんだろうな。
「もう少し預かっていていただけないでしょうか?私たちにも、そのフォルダを扱いかねていまして……」
夫人が再び頭をさげた。
「勝手なのは承知ですが、安全に預かっていただけるところが他になくて……」
「はぁ…」
ネリーが口を挟んだ。
「中身を確認できる目途はたっているのでしょうか?」
夫人は黙り込み、キルヒナー氏が申し訳なさそうに口を開いた。
「助手ではありましたが、教授の研究のすべてを把握していたわけではないのです。今残されている資料から、パスワードを探しているのですが……」
室内は沈黙に包まれた。
「夫の遺稿が見つからないのです……」
夫人がぽつりとつぶやいた。
「遺稿?」
「はい。夫は生前、遺稿をまとめていると私に言っていました」
夫人はカップで手を温めるようなしぐさをした後、
「夫が遺稿を書いていると言ったのは病床についてからのことでした。しかし治療院から引き取った夫の荷物には、それらしきものはなかったのです」
教授は治療院で遺稿を書いていたってことだろうか。
「治療院に見舞いにきた人に渡したのかもしれません。今、そちらを当たっています」
夫人は一度視線を落とした。
「遺稿にきっと何かがあるのではと思っています」
「また、何かわかりましたらご連絡します」
そういう流れで解散となった。
「わからないことばかりですね……」
ネリーのつぶやきにオレも同意だった。
帰り道にネリーにヘルマンさんのビオトープの依頼の話を相談した。
「アル、使った魔石の購入金額、それから作成に掛かった時間などを教えてください」
オレは魔石の金額を思い出し、ネリーに伝えた。
「結構いい魔石使っていますね。このクラスのものしかダメだったのですか?」
「いや、もっと下のランクでも問題ないかな」
ネリーがメモを取りたいというので、喫茶店に入ることにした。
ネリーが紅茶を頼んだので、オレも同じものを注文した。
「ちなみに魔力は充電式ですか?使い切りですか?」
「んー?どっちがいいんだろう?」
「充電式の場合はどれぐらいの日数で充電が必要ですか? 使い切りの場合は効果がなくなるまでの日数は?」
「ヘルマンさんに渡した奴は、魔石に余裕があったから……試してないけど数か月は持つんじゃないかな。あと充電できるはず」
「コストダウンした魔石だと、稼働時間は短くなりますよね?」
「なるな。使い切りのほうが稼働時間は長くなると思う」
ネリーは「うーん」と唸りながら、手帳にメモをしていく。
――ネリーのメモ
名称: ビオトープ・プロトタイプ
提供先: ヘルマン
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約3か月
原価: 10万ステラ(約10万円相当)
その他: 水流調整可能
名称: ビオトープ・廉価版・使い切りタイプ
魔力補充方式: 補充不可
連続稼働時間: 約2か月
原価: 1万ステラ(約1万円相当)
その他: 水流調整可能
名称: ビオトープ・廉価版・補充タイプ
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約1か月
原価: 5万ステラ(約5万円相当)
その他: 水流調整可能
――
「高すぎますね」
ネリーはきっぱりと言った。
おおう、こうやって一覧に出されると売れないと思えてきた。
「この水流調整を削ったら、コスト下げれますか?」
「うーん。もう二つぐらい魔石のランク下げれるとは思うけど困らないか?」
「最初から弱、中、強で固定すればいいと思いますよ。一回設定したら変えないと思いますよ」
なるほど。
――ネリーのメモ
名称: ビオトープ・廉価版・使い切りタイプ・強
魔力補充方式: 補充不可
連続稼働時間: 約1か月
水流:強
原価: 3000ステラ(約3千円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・使い切りタイプ・中
魔力補充方式: 補充不可
連続稼働時間: 約3か月
水流:中
原価: 3000ステラ(約3千円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・使い切りタイプ・弱
魔力補充方式: 補充不可
連続稼働時間: 約6か月
水流:弱
原価: 3000ステラ(約3千円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・補充タイプ・水流調整
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約1か月
水流:調整可能
原価: 5万ステラ(約5万円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・補充タイプ・強
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約1か月
水流:強
原価: 3万ステラ(約3万円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・補充タイプ・中
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約2か月
水流:中
原価: 3万ステラ(約3万円相当)
名称: ビオトープ・廉価版・補充タイプ・弱
魔力補充方式:補充可能
連続稼働時間: 約3か月
水流:弱
原価: 3万ステラ(約3万円相当)
――
「これなら、なんとか」
「もうちょっと魔法を改良したらコスト下げれると思う」
「アル、これは原価ですからね。ここに利益を乗せなければなりません。販売価格は最低でも原価の倍です」
「そんなに……?」
それはぼったくりなんじゃないだろうか。
「それが普通です!」
「……はい」
販売価格の設定などはネリーが手順を整えてくれるというので、その言葉に甘えることにした。オレはヘルマンさんのところに持っていくプロトタイプを作ることになった。
オレはネリーに助けられてばっかりだなぁ。
「ネリー、ありがとう」
「いえいえ」
「オレ、ネリーにお礼がしたい。だからネリーが好きなものを知りたいと思う」
「!!」
ネリーの顔が真っ赤に染まった。
もしかして……それどころじゃないって怒られるパターンか?
「あの、オレもっとしっかりするから」
「……私のこと知りたいなら……デートしてください」
ネリーが絞り出すような声で言った。
「わかったよ。どこに行こうか?」
「……アルが連れて行ってくれるなら、どこでもいいです」
それ、一番困る奴。
うーん、マリアにでも聞くか。
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