第八景「嵐の到来」
第二幕「零れる過去」
第八景「嵐の到来」
外の雨風の音が、建物の中にいてもよく聞こえる。
静かな会議室で、悠吾は窓の外を見下ろしていた。
眼下には六本木の街並みが広がっていた。
台風のピークは通り過ぎたとは言え、
それでもここまで来るのは一苦労だった。
今日は新しい取引先との顔合わせなのだが、
この天気で同席するはずの未来が遅れていた。
「大空はまだか?」
課長の桐生真司が尋ねてくる。
「あ、はい。やはり電車が遅れているみたいで……」
そう言って、悠吾はもう一度窓の外を見る。
雨が、降り続けていた。
—私、雨宮さんのこと、好きです—
昨日の告白が、悠吾の胸を締め付ける。
振り払うように、首を横に振り、前を見る。
今は、仕事に集中しろ。
そう思った時、会議室のドアが開いて、一人の男性が入ってきた。
整った金茶の髪。切れ長のグレーの瞳。
ジレ付きのダークネイビーのスーツは、程よく上品で、隙の無さをも感じさせる。
同性の自分から見ても、一瞬息を呑むほどの端正な立ち姿だった。
「お待たせして申し訳ありません」
男は悠吾に向かって言う。
「初めまして。AIONのプロジェクトリーダー、神城零です」
男——零はそう言うと、右手を差し出して微笑む。
「こちらこそ、本日はよろしくお願いします」
悠吾も一歩前に出て、零と向かい合う。
「MER:AIソリューションズの雨宮悠吾です」
そして、差し出された右手を取り、握手をする。
「よろしく」
零は、穏やかに笑っていた。
「…あと一人、同席者が到着する予定なんですが、
遅れていて申し訳ないです」
悠吾は零に軽く頭を下げて謝る。
「いや、こちらこそ申し訳ない。こんな悪天候の中来ていただいて——」
「失礼します!」
零が言いかけたその時、ドアが開いて未来が駆け込んできた。
軽く息を切らしていた。髪も雨と風で少し乱れていた。
「大空さん、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。それよりもご迷惑をおかけしてしまって…」
未来はそう言って、ハンカチでスーツの濡れた箇所を押さえていた。
「……君が、同席者の方かな?」
零は、未来の方を見て、静かに言った。
「あ、はい——」
未来の手から、ハンカチが零れ落ちた。
「どうも、AIONの神城零です」
さっきと変わらない笑顔を未来に向ける。
未来の表情が、固まった。
ただ、零の顔を見つめている。
その瞳がわずかに揺れていた。
「……?」
悠吾は少しだけ違和感を覚えつつ、
床に落ちたハンカチを拾って未来に差し出す。
「大空さん、落としてるよ?」
「あ、はい。すみません、ありがとうございます……」
気づいたように、未来は慌ててそのハンカチを受け取った。
その時、零の視線がこちらを向いていたような気がした。
悠吾が零の方に向き直ると、彼は変わらない薄い笑みを浮かべていた。
冬瀬澪です。
第二幕「零れる過去」開幕です。
如何だったでしょうか?
未来の告白を受けて、動揺する悠吾の前に、今度は神城零が現れる。
嵐と共にやって来た彼が、二人に何をもたらすのか。
是非次回も楽しみにしていて下さい。




