第七景「嵐の前の告白」
第一幕「雨の東京で」
第七景「嵐の前の告白」
外は、雨がしとしとと降っていた。
悠吾は傘を差しながら空を見上げる。
明日、関東に台風が最接近する。
その影響で、連日のように雨が降り続けていた。
ため息を一つ、ついた。
「雨宮さん」
振り向くと、いつの間にか側に居た未来が顔を見上げていた。
「驚いた……。大空さんも、今帰り?」
「はい。一緒にいいですか?」
未来は、まっすぐな瞳を向けてくる。
「あ、ああ…いいよ……」
-☂️-
二人で並んで帰るのは、あの日以来だった。
少し広い道に街路樹がぽつぽつとある。
行き交う人は少なかった。
「……どう、仕事慣れてきた?」
咄嗟に、悠吾は当たり障りのない話を振ってみた。
「はい。雨宮さんのお陰です」
穏やかに笑う。
「そっか……」
「……」
「……」
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「……あの、この間の、部屋で……」
悠吾は、沈黙に耐えられず、つい口を開きかけた。
けれど、飲み込んだ。
「——雨宮さん。お話が、あります」
未来の表情から、笑顔が消えた。
-☂️-
「私、雨宮さんのこと、初めて見た時から気になってました」
雨の音が二人の間に流れた。
しとしとと静かに降っていた雨は、いつの間にか傘を叩く音を大きくしていた。
「……初めて?」
悠吾は問い返した。
「本当は私、雨宮さんのこと、入社前から知ってたんです」
「……え」
「2年ぐらい前に、世田谷区立の図書館で、本を良く借りてませんでしたか?」
言われてみれば。
休日の夕方に一時期よく通っていた、あの図書館。
「私も…丁度その頃、通ってたんです」
未来が少しだけ俯いた。
「雨宮さんの姿を、見かけることが多くて」
傘の縁で、表情が見えない。
「図書館の隅の窓辺に、いつも座っていましたよね」
悠吾の指がわずかに動いた。
「静かに本を読んでるあなたの姿が印象的で、どこか惹かれてたんです」
雨の音が、どんどん強く重なっていく。
「でも、声をかける勇気もないまま、いつの間に姿を見なくなって……」
「……」
悠吾はただ、黙って聞き続けていた。
「だから、入社して、あなたが居て……本当に驚きました」
未来が、傘を上げてもう一度こちらを見た。
「私、雨宮さんのこと、好きです」
まっすぐな瞳を悠吾に向ける。
悠吾は胸を突かれた。瞳から目が離せなかった。
「初めて見た時から、今まで、ずっと……」
雨が激しく降る音の中、かろうじて彼女の告白が届いた。
「……あの日、部屋で寝ている雨宮さんに、キス、しました」
悠吾の傘を持つ手に力が籠る。
「気づいて…もらいたかったんです」
未来の声が、わずかに震えている。
「あの時、気づかれてもいいとさえ、思ってた……」
切実な声が、雨音に混じって聞こえる。
「……」
雨の音と未来の告白が、悠吾の中で反響する。
悠吾は、口を開きかけるが、何を言ったらいいか分からなかった。
未来の顔も見られなかった。
どんな顔を向けたらいいのかも分からなかった。
「……突然、ごめんなさい。こんなことを言って」
雨の音が響く中、未来の言葉が落ちた。
「でも、これが、私の気持ちです」
そう言って、未来は背中を向けた。
「また、明日……」
そう残して、彼女は去っていった。
悠吾が顔を上げると、彼女の傘を差した後ろ姿が見えた。
叩きつけるような雨が、降っている。
悠吾は一人、その中で佇んでいた。
冬瀬澪です。
第一幕「雨の東京で」終了です。
如何だったでしょうか?
雨宮悠吾と大空未来の出会いと告白までの一幕でした。
雨が運ぶ情景と、感情の揺れ動きを表現することに挑戦した作品ですが、読者の方に伝わってると嬉しいです。
次回、第二幕「零れる過去」が始まります。
嵐の到来、どんな展開になるか。
是非楽しみにしていて下さい。




