第五景「熱の残り香」
第一幕「雨の東京で」
第五景「熱の残り香」
さっきまで降っていた雨のせいか、部屋の湿度が高く感じる。
でも、蒸し暑さの原因はそれだけじゃなかった。
「38.9度……」
悠吾は体温計の数値を見て、ベッドの上で天を仰いだ。
ここ最近の気温の上下が原因で、すっかり体調を崩してしまった。
「結構、熱高いですね。大丈夫ですか?」
未来の声が不意に飛んできた。
「あ、ああ。まあ、なんとか」
置かれた状況に、まだ馴染めず、悠吾は少しだけ緊張していた。
「これ、お願いされていた書類とUSBです」
未来は自分の白い鞄から、一式取り出してベッド脇のローテーブルに置く。
「本当、申し訳ない。わざわざ持って来てもらっちゃって……」
悠吾は俯きながら言葉を濁した。
「いえ、私は大丈夫です。今日は金曜ですし、明日明後日しっかり休んで下さい」
そう言って、未来は穏やかに笑う。
「これ、水分補給用に買ってきました。きちんと飲んでくださいね」
テーブルに経口補水液のボトルが置かれた。
言われて、悠吾はかなり喉が乾いていることに気づいた。
「……すまない。あとは、自分でやるから」
そう言ってベッドから立ち上がろうとしたが、少しふらついた。
「無理しないでください」
そっと軽く肩を押さえられて、ベッドに戻される。
仕方なく、悠吾はボトルを取って、少し口に含んでから横になる。
情けない。
こんな風に後輩に迷惑かけるなんて。
床に散らばっていた雑誌や本を、未来が片付けているのが、霞む目で見えた。
「雨宮さん、もしかして星とか、好きなんですか?」
表紙を見ながら未来が聞いてくる。
「……ああ、高校の時に、初めて見た流星群がきっかけで」
悠吾は小さな声で話し出す。
「東京って夜でも明るいから、星なんてほとんど見えないんだけど、大きな流星群ともなると都内でも見えることあるんだよ」
「ふーん……そうなんですね。きっと、綺麗なんでしょうね」
未来は、静かに、でも真剣に聞いていた。
「なんて言うか、普段見えていないものが自分を見下ろしてるっていうのが、どこか……不思議で……」
-☂️-
悠吾の声が途中で途切れた。
未来が振り返ると、悠吾は目を閉じていた。
ベッドに近づくと、静かに寝息を立てている。
疲れて寝てしまったのだろうか。
部屋が静まり返っている。
壁にかかっている時計の針の音が、小さく響く。
未来は、ベッドの脇に膝をついて悠吾の顔を見ていた。
悠吾の静かな呼吸が聞こえる。
身体をそっと持ち上げて、長い横髪を耳にかけ直す。
未来は自分の顔を悠吾の顔に近づけた。
布の擦れる音とベッドの軋む音が、残った。
ゆっくりと顔を上げると、白い肌が、紅く染まっていた。
-☂️-
静かな部屋に、玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
悠吾はそっと目を開けた。
朦朧とした意識で、天井を見つめていた。
手を自身の唇に持ってきて、確かめた。
「……え?」




