第三景「濡れたジャケット」
第一幕「雨の東京で」
第三景「濡れたジャケット」
昼休み開始のチャイムが鳴った。
悠吾は席を立とうとした。
ふと隣を見ると、未来が少し困った顔をしていた。
机に目をやって、悠吾は違和感に気づいた。
「あれ? 大空さん、今日はお弁当は?」
「実は、その……今日は寝坊してしまって……」
少し恥ずかしそうに答える未来。
ああ、道理で。
前髪に少し変な癖があるなとは思ってた。
「……俺、今日はコンビニだけど、近くだから一緒に行く?」
未来の表情が明るくなった。
-☂️-
買い物を終え、コンビニを出てしばらく歩くと、突然雨が降ってきた。
さっきまで、晴れとまではいかなくても、それなりに明るかったのに。
急なにわか雨だった。
悠吾と未来は慌てて近くの軒先に避難した。
「しまった……。傘、会社だ……」
悠吾は空を見上げて、少しだけ睨んだ。
「でも、空も明るいですし、待ってたら止むかもしれませんね」
未来も空を見上げて言う。
車が行き交う度に、近くの水たまりが跳ね上がる。
軒下に二人で並んで、しばらく止むのを待つ。
「雨宮さん、いつもお昼はコンビニなんですか?」
側に立っている未来が、悠吾の方を見上げて言う。
「まぁ、そうかな……。あとは、たまに外で食べたり」
手にもったコンビニの袋が、カサカサと風に揺れた。
「飽きたりしません? 毎日だと」
「……飽きてる、かも」
未来がくすっと笑った。
-☂️-
「……にしても、雨止まないな」
止むどころか、さっきよりも少し雨脚が強くなってきている。
「どうしましょう、このままだとお昼休み終わっちゃいますね」
空を見ながら、未来は両腕を抱えていた。
少しだけ震えているように見えた。
先ほど、少しだけ雨に打たれたのか、黒く細い睫毛に雨の小さな雫が光っていた。
そして、白いブラウスが、わずかに透けているのを見てしまった。
白い布地の下に、白い肌が見え隠れする。
悠吾は、思わず自身のジャケットを脱いだ。
「……これ、使っていいから」
そう言って、悠吾は未来の肩にジャケットを掛けた。
「え、そんな。申し訳ないです」
未来の白いブラウスの上に、悠吾の黒いジャケットが覆う。
「時間がない。行くぞ」
そう言って、悠吾は軒下を出て先に行った。
「あ、待って下さい!」
悠吾の後を、未来はついてくる。
羽織った悠吾のジャケットの襟元を、細い指がギュッと握りしめていた。
走っているからなのか、未来の顔が、ほんの少し紅潮しているように見える。
自分のジャケットに包まれた未来の姿を、悠吾は直視出来なかった。




