↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rainy Tokyo☂️-レイニートウキョウ-  作者: 冬瀬澪
第四幕「真夏の一月」
24/25

第二十三景「遠花火」

第四幕「真夏の一月」

第二十三景「遠花火」



夕暮れ時。


薄い橙の空に、ビルのシルエットが立ち並ぶ。

振り返るとスカイツリーが自分を見下ろしている。


悠吾は地下鉄の出口を出ると、少し眩しそうにそれらを見ていた。


夏の熱気の中で、沢山の人が目の前を行き交う。


下駄がカラコロと鳴る音や、遠くのお囃子の音が混ざり合う。


「遅いっすよ!先輩」


雑踏の中から快が現れた。白縞の浴衣に団扇を持っている。


「悠吾さん、私服じゃないっすか。折角の花火大会なのに?」


「あ、いや、俺浴衣持ってなくてさ……」


「ま、いいか。ほら、他の皆は既に集まってますよ」


促されて、快の後をついて行く。


少し開けた場所に出ると、社の若手数人が溜まっていた。

近づきながらメンバーを確認しつつ、視線を動かす。

ちらほら私服仲間がいて、少し胸を撫で下ろす。


男性陣から隣の女性陣を見る。


未来が、いた。


「……!」


悠吾は、一瞬息が止まった。


黄昏時の淡い空を背景に、白い姿が一際浮いて見え、悠吾は目を奪われた。


白く華奢な身体に、白地の浴衣。

紅い金魚の紋様が艶やかに彼女の身体を泳いでいた。


未来がこちらに気づいた。

少しだけ、気まずそうに。


「あ、あの…こんばんは……」


「……こんばんは」


悠吾は、呆けた顔でそれだけを言った。


「悠吾さーん、こんばんは!」


突然横から声を掛けられて、我に返る。

茉夏が駆け寄ってくる。


「一ノ瀬さん、こんばんは」


「どうです?浴衣、似合ってます?」


そう言って、茉夏は目の前でくるっと一回転してみせる。


「ああ、いいんじゃない?一ノ瀬さんらしい」


「ほんとーですかー?良かった、これにして!」


ふと横を見ると、未来が背中を向けて他の女性と話をしていた。



-☂️-



花火が上がる音が聞こえた。

空を見ると夕闇の中に、一輪二輪と光の華が咲いている。


雑踏を進むと、風に乗って仄かに火薬の匂いが交じる。


屋台が立ち並ぶ道に入ると、雑踏は更に激しさを増す。

食べ物が焼ける匂い、笑い声、上空の花火の音。


悠吾は久しくこんな空気を味わっていなかった。


そう言えば、子供の頃はお祭りなんかによく行ってたっけ。


一つ一つ屋台を見ていた。


その中に、悠吾はひもくじの店を見つけた。


「悪い、先行ってて」


「え、悠吾さん?!」


流れに逆らうように、悠吾は列を抜け出していた。


懐かしい。

子供の頃、どうしても欲しい景品があって、親に駄々をこねたっけ。


「おじさん、一回いい?」


「あいよ、300円」


小銭を渡して、紐の束を見る。

どれがどの景品に繋がっているのかなんて、分かりもしないのに。


紐を探って、一本だけ選んで引いてみる。


「はい、おめでとう」


渡されたのは、なんの変哲もない玩具だった。


流れ星のキーホルダー。


悠吾は手で摘んで、下から覗く。

花火の光を受けて、星は様々な色に変化する。


少し眉を寄せて、手で握る。



-☂️-



先に行ってしまったメンバーを追うように、悠吾は雑踏をかき分けていく。

その時、長い列から逸れるように、道の端に白い立ち姿が見えた。


未来だった。


周りを見ると、社の仲間の姿は見えない。

一人きりのようだった。


悠吾は手の中のキーホルダーを見た。


それから、雑踏を抜け出した。



「大空さん」


一瞬、びっくりしたように未来が振り返る。


「……あ、雨宮、さん」


「……皆とはぐれたの?」


「え、あ、はい……少し、迷ってしまって」


「……」


「……」


少し間が空いた。

花火の光と音が、二人を包む。


悠吾が口を開く。


「あー、あのさ…これ、いる?」


握っていたキーホルダーを未来の前に差し出す。


未来はそれを両手で受け取った。


「これは……?」


「願い、叶うらしいよ」


目を細めて、悠吾は微笑んだ。


「……ありがとう、ございます」


挿絵(By みてみん)


「……大空さ——」


言いかけた時、突然、背後から腕に手を回された。


「居た!悠吾さん!」


茉夏だった。


「もー、急に居なくなるから心配しましたよ?」


「ご、ごめん」


茉夏は悠吾を引っ張っていこうとするが、すぐに立ち止まる。


「痛ッ!」


茉夏が屈みながら、足元に視線を下ろす。


「どうした?」


「足が……」


悠吾は茉夏の前に膝をついて、その足元を見る。


「草履で靴擦れでも起こしたかな…見せて」


「あ、ありがとうございます」


「うん、赤くなってるだけで、大したことないよ」


立ち上がると、未来の姿が見えなくなっていた。


「——大空さん!?」


「あ、悠吾さん!」


悠吾は背中越しに茉夏の声を聞きながら、走り出していた。



-☂️-



雑踏の流れに逆らうように、悠吾は未来を探した。


観衆が大きく歓声を上げる。

背中では花火の音が盛り上がっている。


肺に熱い空気が入ってくる。

進んでも進んでも、白い姿が見えない。


歓声が更に大きくなる。


花火のフィナーレが、無情にもその時を告げる。

悠吾は道の真ん中で立ち尽くしていた。


バラバラと、柳花火の流れ落ちる音が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。