↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rainy Tokyo☂️-レイニートウキョウ-  作者: 冬瀬澪
第三幕「熱に滲む夏」
20/25

第十九景「忘れて下さい」

第十九景「忘れて下さい」



早朝の朝日が部屋を照らしていた。

姿見の前に立つ、未来の姿が映る。


自室で、未来は服を着替え、長い黒髪をブラシで整えていた。

ブラシが襟元の辺りを通る時、首筋で手が止まった。


未来の白い首元に、小さな紅い痕、そこに加わった歯の痕が見える。

未来は、その歯形を指でなぞるように確かめた。


小さく息が漏れる。


黒い瞳が、自分を見てた。

熱く、湿度のあるそれで見下ろしてた。


なのに、どこか寂しそうだった。


歯形で覆われた、紅い痕は、なおも消えない。


未来はそっとその痕を手で隠した。



-☂️-



PCのキーを打つ手が止まる。


駄目だ。集中出来ない。


悠吾はため息をついた。

気分直しにマグカップを手に取り、一口すする。


昨日の夜の事が、どうしたって頭をもたげる。


彼女の肢体と、高揚した熱、そして湿った肌の質感。

どれもまだ生々しく残っている。


もう一度マグの中身をすする。


彼女を抱いたという充足感。

そして、どこかで同時に感じていた空虚感。


悠吾は顔を上げて窓の外に視線をやり、少し遠くを見ていた。


空は、悠吾の気持ちとは裏腹に、やけに晴れていた。


「……雨宮さん」


後ろから、声が聞こえた。


胸が跳ねた。昨夜の声をつい思い出したから。


「——大空さん!?」


いつもより、少し声が大きく出てしまう。

明らかに動揺してる自分が恥ずかしかった。


「あ、あの、…すみません」


「あ、いや……」


「……」


「……」


二人とも俯いて、言葉を濁した。


先に口を開いたのは未来だった。


「あの、仕事終わりにお時間いただけますか?」


「わ、わかった」


悠吾の声が、少しだけ上擦った。


でも、その未来の表情を見た時、少し胸騒ぎがした。



-☂️-



夜の空高くに、小さな月が昇っている。

オフィス街の路面が淡く月光に照らされ、白く輝いていた。


会社の近くの外のベンチに、二人で並んで座った。


「大空さんは、温かいお茶で良かった?」


そう言って、悠吾は自販機で買った小さなペットボトルを未来に手渡した。


「……ありがとうございます」


受け取ると、未来は両手で指を温めるように持っていた。


月光に照らされた未来の横顔は、白く儚げで、悠吾は吸い込まれるように見ていた。


そんな自分に気づいて、我に返る。


「それで、その…話って……」


言いながら、悠吾は自分の分の缶コーヒーの蓋を開けた。


未来の顔をもう一度ちらりと覗いた。


「……」


ほんの少し間が開いた。


「ごめんなさい。私…雨宮さんに、酷いことしました」


未来の言葉が、静かに胸を突いた。


「……どうして?」


缶を持つ指が動いた。


「私、雨宮さんのこと、良いように利用してしまった」


挿絵(By みてみん)


そう言う未来の顔は、今にも泣きそうな表情だった。


「私の中では、終わってるつもりだったんです」


未来の視線が、彼女の手の中のボトルに落ちる。


「だから、雨宮さんに、告白しました」


そのボトルを掴む指にきゅっと力が入る。


「なのに、私、本当に酷くて……」


未来の声がわずかに震えている。


「過去を忘れたくて…あんな形を取ってしまった」


悠吾の缶を持つ手にも力が入った。


「私、雨宮さんのこと、好きになる資格ありません」


想像もしていなかった。そんな台詞。


「だから、昨日のことも、私の言ったことも、全て忘れて下さい」


そう言うと未来は立ち上がった。


「本当に、ごめんなさい……」


月の明かりが、彼女の頬を伝う一筋の涙を照らした。

そして、それ以上何も言わず、悠吾のもとから去っていった。


缶を持ったまま、悠吾は項垂れた。


その缶の中身は、既に冷たくなっていた。



-☂️-



未来がいなくなっても、しばらく悠吾はそこにいた。


「……なんだよ、それ」


独り呟いた。やりきれなさでいっぱいだった。


勝手に飛び込んできて、勝手に出てく?

そんな仕打ち、あるか?


悠吾は、さっきまで未来を映していた空の月を、悔しそうに見上げていた。



冬瀬澪です。


第三幕「熱に滲む夏」終了いたしました。


第三幕は色々私にとっては挑戦的な幕でした。

レイニートウキョウのビターな夏を感じてとっていただけたのなら幸いです。


次回、第四幕「真夏の一月」

季節は盛夏の東京へと移っていきます。

どのような展開が待っているか、是非次回も読んでいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。