第十八景「明けの明星」
第三幕「熱に滲む夏」
第十八景「明けの明星」
カーテンの隙間から白い光が筋のように漏れ、悠吾の閉じた瞼にかかる。
どこかひんやりした空気が、素肌の肩を撫でる。
悠吾はベッドの中で、ゆっくりと目を開ける。
すると、目の前には白い肩の稜線と、長く艷やかな黒髪があった。
意識がまだはっきりしていないのに、悠吾はその瞬間昨日の情事を思い出した。
息を呑む。
彼女はまだ、静かな寝息を立てている。
布団に包まれながら、その白い肩がゆっくりと上下していた。
悠吾は、寝ている後ろ姿の彼女を見つめていた。
—……雨宮さん、お願い—
懇願するように伸ばしてきた手。淡い瞳。
でも、あれは、自分を見ている瞳じゃなかった。
「……ん」
小さな声と共に、未来が少しだけ身じろぐ。
長い横髪が肩を滑っていく。
彼女の首筋が、露わになる。
そこには、自分が残した痕と、消えないあの人の紅い痕。
その痕を苦々しく見つめ、奥歯を噛み締めた。
悠吾はそっと、未来の肩に手をやる。
ほんの少し湿って、冷えた肩。
振り向かせようと、わずかに手に力を入れるが、その手をゆっくり離す。
代わりに、悠吾はその白い肩に小さく口づけを落とした。
「う、ん……」
未来の睫毛が震えるように開く。
半分開いた目で、ゆっくりとこちらを見てくる。
「……あま、みやさん?」
悠吾は小さく笑って言った。
「おはよう。大空さん……」
-☂️-
早朝の太陽が空を明るくする。
ほんの少し視線を移動すると、薄青い空にまだ星が見えていた。
悠吾はその星を、目を細めて見ていた。
木々の葉からは昨晩の雨の雫が垂れていて、それらはキラキラと光を反射していた。
空気が少しだけ清々しい。
悠吾は玄関先で、腕を組みながらそんな事を感じていた。
「……それじゃあ、雨宮さん、ここで失礼します」
目の前の未来が、白いブラウスとタイトスカートの姿で丁寧にお辞儀をした。
一晩で乾いたとは言え、服は少しだけ皺になっていた。
「本当に、送らなくて大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「……」
「……」
二人の間にしばらく沈黙が落ちた。
「雨宮さん…あの……」
未来の視線が少しずつ落ちていく。
悠吾は、口の端を緩めながら、そっと未来の頭に手を乗せる。
ほんの少しだけ優しく撫でる。
はっとして未来は顔を上げる。その瞳が淡く揺れていた。
「それじゃあ、また会社で……」
「……はい」
小さくお辞儀をして、未来はその場を後にした。
悠吾は片手を上げて、未来を送り出す。
未来は廊下の突き当りで、もう一度お辞儀をする。
マンションの玄関を出て去っていく未来の姿を、悠吾は上の廊下から最後まで見ていた。




