第十六景「雨の訪問」
※本景にはR15相当の表現が含まれています。
第三幕「熱に滲む夏」
第十六景「雨の訪問」
悠吾は自室のベッドに座っていた。
窓の外は強い雨が降っている。
ガラスを叩く音が、部屋に反響する。
窓の向こうの街の光が、歪んで揺らいでいた。
スマホの画面を点けてみる。
相変わらずメッセージに既読は付かない。
こんな夜だからか、それとも未来に会いたいと思った矢先に挫かれたからか、悠吾は妙に落ち着かなかった。
ピンポーン。玄関のチャイムがなる。
壁の時計を見ると22時を過ぎていた。
こんな時間に?宅配なんて頼んでたっけ?
そう思いつつ、玄関に向かう。
「はい——」
扉を開けると、目の前には未来が立っていた。
「お、大空さん!?」
急な来訪で、しかもその様相に悠吾はぎくりとした。
傘を持っているはずなのに、彼女の全身はずぶ濡れだった。
俯いていた未来が、ゆっくりと顔を上げる。
未来の瞳が濡れていた。
顔は雨に濡れたのだろう。
けれど、今にもその瞳から涙が溢れそうなことぐらい、悠吾にも分かった。
「雨宮さん!」
そう言って、未来は突然悠吾の胸に飛び込んできた。
未来の持っていた傘が、コトンと音を立てて足元に落ちた。
悠吾はあまりの事に声が出なかった。
未来の肩は震えていて、悠吾の胸の中で瞳は固く閉じていた。
空いた両腕の所在を探している内に、未来は続けた。
「私、怖いんです。このままだと、私——」
怖い?何が?
悠吾は言ってることを呑み込めなかった。
「雨宮さん。私を——抱いて…下さい」
悠吾の手が宙で止まった。
-☂️-
シャワーのコックをひねると、排水溝に渦を巻いて湯水が吸い込まれていくのが見える。
悠吾は、しばらくその様子を見ていた。
バスルームの壁に手をついて、首を横に振る。
シャワーを終えてバスタオルを纏う。
ベッドルームに向かうと、未来が先にベッドの端に座っていた。
白く透き通るような素肌に、同じようにバスタオルを一枚だけ纏って。
部屋の隅には、未来の濡れたブラウスとスカートが干され、雫がぽつぽつと垂れていた。
悠吾は、そのまま未来の隣に座った。
「……寒く、ないか」
未来は無言で頷いた。
そして、ゆっくりとこちらを見てくる。
淡い瞳が、自分を見上げてくる。
未来の手が、膝に置かれた自分の手の上に重なる。
悠吾はそっと未来の肩に手をやると、そのままベッドに仰向けに寝かせた。
まさか、こんな形で、彼女を抱くことになるなんて。
自分の眼鏡を片手で外しながら、そんなことを思った。
どこか自分がここにいないような、不思議な心地だった。
彼女の纏っていたバスタオルをそっと捲る。
白い素肌が、顕になる。
ひんやりとした空気で、未来はわずかに身体を震わせた。
未来が少しだけ顔を背ける。
その首筋に、わずかに紅い痕があるのを見つけた。
悠吾は思い出した。あの時の、資料室での出来事。
堪えるように、唇を噛んだ。
未来も、悠吾の視線に気づいてはっとする。
未来の震える唇が開く。
「……雨宮さん、お願い。私に、あの人を、忘れさせて……」
そう瞳を濡らして、未来は手を伸ばしながら懇願してくる。
——くそ!
悠吾は未来の首筋の紅い痕に、食らいついた。
傷つかないように。でも、軽く歯を立てて。
「——あ!」
未来の小さな悲鳴が上がる。
紅い痕を覆うように、未来の素肌に悠吾の歯形が残る。




