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Rainy Tokyo☂️-レイニートウキョウ-  作者: 冬瀬澪
第三幕「熱に滲む夏」
14/25

第十三景「書架の奥」

第三幕「熱に滲む夏」

※本景にはR15相当の表現が含まれています。


第十三景「書架の奥」




梅雨が明け、一段と蒸し暑さが強くなった午後。


悠吾は自社の会議室で、一人打ち合わせの準備を進めていた。

書類をテーブルに並べていく。


空調が少し弱めだろうか、額に滲んだ汗をハンカチで拭う。


—なんで、そんな言い方するんですか—


手に持ったハンカチを見てから、ぎゅっと握りしめる。


後悔ばかりが思い出され、悠吾は奥歯を噛み締めた。


「やあ、雨宮くん」


声に驚いて、悠吾は振り返る。


会議室の入口のドアに零が立っていた。

腕を組んで、ドアに寄りかかっている。


悠吾は零のその態度に小さな苛立ちを覚えた。


「神城さん、随分早いですね。まだ、時間までありますよ」


「失礼のないようにと思ってね」


相変わらず、笑顔だけは爽やかだった。


「すみません、まだ準備中なので」


そう言って悠吾は、ドアの側に立つ零の脇をすり抜けていった。


通り過ぎる瞬間、冷たい視線を強く感じた。



-☂️-



悠吾は資料室のドアを開けた。

部屋は暗かったが、カーテン越しに外の日差しの暑さを感じる。


資料や備品が並んだ書棚が幾列も並んでいるのが見える。


部屋の電気を点けてみる。

弱々しい光が書架を照らす。

閉じたカーテンのせいか、まだ薄暗く感じる。


書架の奥へと進む。


打ち合わせに使う予定の製本ファイルを書棚から探す。


確か、この奥の方にあったはず……。


突然、資料室の入口のドアが開いた。

零が入ってきた。


「零さん、用って何ですか……?」


神城と、——大空さん?


悠吾は、思わず書棚の影に身を隠してしまった。


「すまない、二人きりで話をしたくてね」


言うやいなや、零は自身の両腕で、未来を入口の扉に縫い付けるように押さえて向かい合う。


「ち、ちょっと、零さん?!」


未来は目を見開いて固まる。


「教えてくれないか」


零の低い声が聞こえた。


「君は…今、雨宮くんが好きなのか?」


悠吾の胸が跳ねた。


自分の名前を出されたのと、それを未来に聞いたということに、驚きを隠せなかった。


「そんなの、零さんには——」


「関係なく、ないよ。俺は、今でも君を愛してる」


零の言葉に、未来は息を呑んだ。


零は、まっすぐに未来を見る。

未来はそのグレーの瞳から、目を背けられなかった。


「君は、忘れてしまった?」


そう言ってから、零は未来の唇にキスをした。


「——!」


悠吾は思わず目を背けた。



-☂️-



零は少し強引に未来の顔を持ち上げる。


なのに、繰り返される口づけは、優しく甘かった。


「まっ…。あ、零さ…」


未来の声が漏れる。

その声は、いつもの未来の声と違って、甘く濡れていた。

零の胸に当てていた未来の手の力が抜けていく。


挿絵(By みてみん)


資料室に、二人が交わす水音が響く。

時折漏れる未来の吐息が、熱を帯びていた。


零は、未来を解放すると、ささやくように耳元で言う。


「ほら、忘れてない」


未来は、目を見張った。

それから零を睨んで言った。


「でも、私、今は……!」


「——俺が、忘れさせない」


遮るように零のグレーの瞳が、未来の潤んだ瞳を絡めとる。

そのまま、未来の首筋に唇を這わせる。


「——!」


未来の噛んだ唇が震える。


零は未来の襟の際に、そっと、確かに、紅い印を残した。


「……零、さん」


未来は、もう何も言えなくなっていた。


零は、未来から離れると、奥の書棚に視線をやった。


「悪かったね、こんなところで。そろそろ戻らないとね」


未来は思い出したように、慌てて腕時計を見る。


「大変…急がないと」


零は資料室のドアを開けて、左右を確認する。


「大丈夫。誰もいないよ」


「し、失礼します」


未来は、そう言って足早に部屋を出ていった。


零はその背中を見送ってから、もう一度奥の書棚に視線をやった。

そして、ほくそ笑みながらドアをくぐっていった。



-☂️-



悠吾はしばらく書棚の影でうずくまっていた。

資料室の中の蒸し暑さ。その不快感が、悠吾を蝕む。


何も、言えなかった。何も、出来なかった。


未来の甘い声が、零の見透かしたような声が、酷く頭を巡った。

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