↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rainy Tokyo☂️-レイニートウキョウ-  作者: 冬瀬澪
第二幕「零れる過去」
12/25

第十一景「優しい記憶」

第二幕「零れる過去」



玄関のドアを閉じると、未来はしばらく動けずにいた。

雨に濡れた身体で寄りかかった鉄の扉が、冷たく感じた。


ドア越しに、外の雨の音が聞こえる。


未来は、自分の手でもう一度左耳に触れた。

会議室での、ひやりとした指の温度を思い出した。


俯いて、唇を噛んだ。


どうして、今頃になって、あの人に遭うんだろう……。



-☂️-



——4年前


未来は少しそわそわしていた。

銀のトレーを持って、お店の出入り口をずっと見ていた。


鈴の音と一緒に、古い木製の扉が開いた。

いつもの時間だった。


一人の男性が入ってくる。


金茶の髪。涼やかなグレーの瞳。端正な顔立ち。

男性は窓辺の席に座って、未来の方を見てくる。


今日も、来てくれた。


未来は早く鳴る鼓動を感じつつ、注文票を持ってテーブルに近づく。


「いらっしゃいませ。ご注文は——」


「いつものでいいよ」


テーブルに肘をつきながら、軽やかに言う。



-☂️-



未来は男の座るテーブルにブレンドコーヒーを置く。


「今日も、いい天気だね」


窓の外を見ながら、男は言う。


「そう、ですね」


そんな短いやりとりでも、未来にとっては嬉しかった。


「……あのさ、仕事上がりって何時かな?」


男は未来の方に向き直って言う。


「このあと、もしよかったら少し時間もらえる?」


「え、あの、お客様…!」


突然の台詞に未来は狼狽えた。


「——神城零。零って呼んでいいよ」



-☂️-



「零さん…。その、私…初めて、で……」


未来は、この後の事を考えると、恥ずかしすぎて思わず両手で顔を隠してしまう。


白い素肌がピンク色に染まっている。


「大丈夫。大切に、するから。だから、こっちを向いて」


零はそっと、その手に口づけを落とす。


グレーの瞳が未来を覗く。


未来は震える手を顔から離し、零の背中にそっと回した。


——大切に、するから。


零の言葉に間違いはなかった。



-☂️-



「まだレポート終わらないのかい?」


そう言って、リビングのテーブルに座る未来に、零はカップを一つ差し出す。

ふわっと香るそれはカモミールのハーブティーだった。


「……うん、まだあとこれを英訳しないと」


未来はカップを受け取る。

零は未来の隣に座ってじっと顔を見てくる。


「……? 何?」


「いや、あんまり寝るのが遅いと、肌が荒れてしまうよ」


そう言って、未来の頬に一度キスを落とす。


「もう。零さんってば、邪魔しないで」


未来は顔を真っ赤にしていた。


挿絵(By みてみん)


「ははは。じゃあ、先に休んでいるよ」



——そんななんてことのない日々が、本当に温かかった。



-☂️-



けれど、それはいつまでも続くことはなかった。

いつの間にか、お互い忙しくなって、会う時間も限られていった。


別れは、零から告げられた。


「ごめん、未来。これ以上、君を傷つけたくない」


静まり返ったリビングは無性に冷えて感じた。

零は続けた。


「だから……もう、終わりにしよう」


どこかで、未来はそれを分かっていた。


零の生い立ちを、これからの人生を考えれば、それは仕方のないことだった。

零がどれだけ今の仕事に、必死で打ち込んでいるかも知っていた。


だから、未来はそれを受け入れるしかなかった。


そうやって、終わっていくしかなかった。



-☂️-



外の雨の音が戻ってきた。


未来はずっと、玄関の扉に寄りかかっていた。


身体が冷えていく。


未来は、濡れた身体に掛けられた、黒いジャケットを思い出していた。

彼の、逸らした黒い瞳と、少し不器用な気遣い。


冷たい身体を抱えながら、未来の頬には涙が伝っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。