春 遊び人代表
「今日は随分と遅い登校だったじゃねえか、どうしたんだい宮城くん」
「ああ、ちょっと女子と話しながら登校してきたんだ。お楽しみの時間を過ごしてきた、というわけだ」
あと十分で朝のショートホームルームが始まるというところ、友達、我妻大地と今朝のことについて『事実』を話していたんだが、その時ある女に背中を思いっきり打たれた。
「......いったっ」
「なんの話をしているのかな?」
「なんでもないです」
その女というのは赤沢莉緒、俺の幼馴染である。そして、今日一緒に登校してきた女子とはこいつのことである。
「なんだよ〜、朝からいちゃつきやがって。いいな、赤沢さん」
「......欲しいならくれてやる、あいつビッチだし」
後ろから感じる鋭い目線に肩をすくませながら、まだジンジンと感じる背中の痛みの仕返しに、言いたい放題言ってやる。
「赤沢は今弱ってるからチャンスだぞ?悩み事があるらしくてさ」
「まじか、赤沢さん。狙っちゃっていいのか?」
「おう、いいともいいとも〜」
背後では座っていた女子に話しかけている莉緒、ここぞとばかりに大地もアピールをするわけだがそんなことを彼女は一切気にしていない。彼女の頭の中にあるのは、さっきまで会話していたおさななじに深傷を負わせるためのシュミレーション。それだけである。言いすぎました〜、勘弁してください〜。
彼女も教室は河合達の目があるので動きづらいのだろう。彼女らの間に何があったのか走る由もないが、何かあったことは間違いない。昨日より暗い空気が教室に渦巻いているからである。
大地も気まずそうに小声で
「これ大丈夫そう?本当にやばそうな空気じゃん」
と聞いてくる。
別にたいしたことないだろう。と返したが大地は呆れた顔で、やっぱお前はオンリーワンだよ宮城。と言って他の男子グループに行ってしまった。どいつもこいつもなんだか、俺を馬鹿にしている気がする。
俺が席に着こうとすると、不意に背後を掴まれてしまった。これは、大地がここをさった理由もわかる気がする、とんでもない圧だ。
「今日は一緒に帰ろうね?」
笑顔の裏の隠しきれていない殺気に、俺も、莉緒と話していた名前も知らないクラスメイトも、うんうんと首を縦に振った。
昼休み。大地は俺の席に来るや否や、「赤沢ってビッチなのか」と話題を振ってきた。昼休みの教室は昼休みは学食に行く人が多いので女子が少なく、莉緒や河合もいないので下ネタに最適な場所なのである。
「ああ、そういう噂は聞くな。ここだけの話、推定六人は食ってるらしい」
「六人......、俺も七人目になりてーぜ」
「高望みしすぎでしょ」
ナチュラルに男の会話に混ざってきたのは青木澪、この前紹介したやつである。こいつの方が莉緒よりやばい、こんな話題に入り込んでくるぐらいなんだから、莉緒よりやばいやつと言っても過言ではないし、まず恋愛対象としては絶対にない。莉緒は何を心配しているのかわからないが、こいつと話すのも男と話すのもたいして変わらないので、何も心配することはないということである。
「ああ、青木お疲れ、今日の一組の午前の授業はやばかったんだろ。」
「そうだよ〜、英語と数学どっちも二時間づつ!学校サボってもよかったくない?」
「今日は珍しく朝から来たのか」
「なわけないじゃん。今来たところだよ」
こいつは平然と何を言っているのか、息を吸うように学校をサボるやつだ。
「そういやさ〜、そのびっち赤沢から何か言われたかい?宮城くんよ」
「ああ、青ちゃんと話すなとかどうとか、どうせお前がなんか言ったんだろ?」
「赤ちゃんは私を清純だと思ってくれてるからね、宮城から下ネタを教わってるって話をしてやったんだよ、かましてやったぜえ?結構deepな単語をよ。意味がわからないから意味聞いてきて、結局、顔真っ赤にして私の説明聞いてる赤ちゃんは本当に可愛かったぜ」
「......趣味悪いな」
なんで青ちゃん赤ちゃんと呼ぶくらいにまで仲がいいのか、莉緒はめっちゃ下ネタ嫌いなやつなのに、そんな話しててよく仲良くできてるもんだ。
「おいおい、さすが青木だな、宮城が可哀想だ」
何が面白いのか、大地は楽しそうである。
「ちなみに教えてあげるとね。私生徒会の時みたいに皮かぶって話しかけてるから、赤ちゃんと仲良くやれてるんだよ?そしてつい出ちゃった下ネタは全部宮城のせいにしてる。」
「......嘘だよな?」
「まじだけど」
「はっはっは!可哀想だな宮城。だからじゃね?あんな冷たくされてんの」
......なるほど、お前のせえかよ、やけに幼馴染が冷たいと思ったら。
別に莉緒にどう思われていようがどうでもいいのだが、今に至るまで何かと不機嫌な莉緒と過ごしてきた時間を考えると、あの心の距離もこいつのせいなんじゃないかと思ってきたら、苛立ちが湧き上がってきてしまった。
「今すぐ莉緒に事実話せや青木〜!!」
つい大声を出してしまい、そしてさらに声が裏返ってしまい、みんなの視線がこっちに向く。妙に面白い感じに声が出てしまって、ところどころから笑い声が聞こえてくる。恥ずかしくなって俯くと、上から二つの笑い声が聞い超えてきた。
「何それ、私たちを笑わせるためにやってるっ......。」
「おもろいなお前、さすがだわ」
俺は怖くないらしい、こいつらは止められない、周囲から聞こえる笑い声に自分が情けなくなりながら、小さく首を横に振った。
昼ごはんを食べ終わると、青木も大地もどっかに言ってしまったので、一人になり、水筒を飲み干したところだったので飲み物を買おうと思い、自販時にやってきた。
すると後ろから不機嫌そうな声がかかった。
「よっ、あんたさあ、昼休み奇声上げてたってどんな話?そんなだから悪い噂広まるんだよ?」
「.......ああ、あれはやむを得ない事情があったんだ」
赤沢莉緒、教室に戻るところだったのにわざわざ声をかけにきたようで、彼女の後ろの方には青木の姿が身えた。
「いいから、青木待たせてんじゃん」
「......澪が気になるって言ってんの、教えなよ!」
かなり不機嫌そうな様子だ。彼女も最近のことで、いくら莉緒とは言っても疲れているのだろう。ただ、その姉御肌はどんな状況でも発動するらしく、聞くまで引き下がらない様子だ。
「......大地と大声で話してたら弁当落としそうになって危機一髪それを掬い上げる時に奇声を上げちゃったって、それだけだ。特に面白みはない」
「......へえ、あっそ」
適当に青木が納得できる答えが来ればよかったのだろう、莉緒はあっさりと引き下がっていった。ただ、長年りおを見ていればわかる。あれはちゃんと嘘だとわかっている顔だ。
(今日の放課後は、長くなりそうだ)
自販機からお茶を拾い上げて、まだ予鈴さえならないので、ゆっくりと教室へ歩き出した。




