春 帰路
放課後、生徒会室にて、俺は時間が経つのを待って、一人ぼーっとしていた。
(青木も、バレーに行っちゃったしな)
特に有意義な仕事もないし、話し相手もいないし、7時まで女バレが終わるのを待たなきゃいけないので、今日の放課後は暇としか言えない状況である。
そんな時、生徒会室の扉が開いた。
「暇そうじゃない、今日は帰ってもいいのよ?」
「......いえ、暇だからここにいて」
「なんか社畜みたいだね。ここにいて仕事しないと落ち着かないみたいな」
「そんなところもありますね」
入ってきた霜月紗良先輩は霜月紗良、この学校の生徒会副会長である。そんな彼女もどうして今日に来たんだか、特にやることもないのに、やっぱ社畜精神が染み付いているのかもしれない。
「......そんな先輩はどうしてここに?」
「んん〜、いやー、私も暇だったから、勉強するのも面倒くさいし」
適当な先輩だが成績は優秀である。親に期待をかけられているので、部活は入らずに塾に入って、でも暇になったから生徒会に入ったとか、よくわかんない雑な先輩だが、見た目はショートでボーイッシュでかっこいいので、その点で尊敬できる先輩だ。
「......なんか面白い話ないの?」
「ないですね」
「ありそうな顔してるけどね〜?澪ちゃんとなんかあった?」
「ないですね」
「進展してないんかい!」
うるさい先輩に適当に返事をする。
正直霜月先輩はあまり好きではない。尊敬できるのはその格好の良さだけ、ダル絡みが面倒臭い先輩なのだ。
大袈裟にため息をついてやったが引く様子はない、そしてなぜか俺の背中の匂いを嗅いできた。
「......っ。やめてください」
「......ん〜、悪いこだね。澪ちゃん以外に女がいるんだ」
「......まず青木は俺の女じゃありません」
「あらそ〜?思わせぶりな男は好かれないぞ?」
別に青木にアプローチしたことないし、てかそういう目で見れないんだって。
そして多分、服についてた女子の匂いは莉緒のものだろう、朝殴られたから、てかそれを嗅いでくるあたりやっぱり苦手だ。
「......だる絡みはやめてください」
「なんで?暇そうじゃ〜ん」
一切引く気はなさそうである。次は俺の肩を掴んで体をゆさゆさ揺らしてくる。
(仕方ないな、この人)
暇なのはそうだ、もちろん暇つぶしにはなるが、こんな暇つぶしはどうなのか。スマホの充電を見ると30%ないほどだった。しょうがない、無駄話に付き合ってやるか。
そうして俺は正面に座った先輩と向き合って、無駄話を始めることにしたのだった。
「お疲れ様です!」
「あ、お疲れ〜!」
「......お疲れ」
6時半、なぜか部活をやっているはずの青木が生徒会室にやってきた。
「お前、またサボりか......」
「澪ちゃ〜ん、今暇つぶししてたとこなんだよ!参加して参加して!」
先輩は俺の疑問をかき消すような元気な声で話しかけると自分の隣の椅子を引いた。
「じゃあ遠慮なく!」
「澪ちゃ〜ん寂しかったんだよ〜、よくきてくれたよ〜」
なんなんだこいつらは。
生徒会室にいる時の青木は猫をかぶっているのでそんなに好きではない、そしてこの霜月先輩の前では新たな顔を見せる。それも好きではない。
「バレーやってきたの?随分中途半端な時間に来たけど」
「そうですよ、もう疲れちゃったんで避難してきました」
「片付けサボってきたのか?」
「......いや〜、それで先輩たちは何をしてたんですか?」
サボったな、こいつ。こういうところがあるから正義感の強い莉緒はあまりこいつと仲良くないと思っていたのだが、なんで仲がいいんだか。
「今は雑談をしていたところでさ、最近の宮城くんの恋バナ聴きたかったんだけど言ってくんないんだよね〜」
「え、そうなんですか?結構オープンなイメージありますけど」
酷い話題を振りやがった。青木はニッコニコである。余計なこと言わないでくれ、頼むから。
「澪ちゃん以外に女ができたんだって、悲しいよね〜」
「ええ、ええ、悲しいです。いつの間にか第二の女になっていたのですね」
「......お前は第二でもねえよ」
こういう時、青木が否定しないから先輩も調子に乗るのだ。普段だったらめっちゃはっきりしたやつなくせに、急にめんどくさいやつになるのだ。
(前までの莉緒の印象と、ちょっと似ているんだよな)
ズルがしそうで、面倒臭いところ。
だからやっぱこういうところは好きになれないのかもしれない。
先輩もさっきまで俺と二人で話していた時より勢いよく、楽しそうに恋バナに花を咲かせている。まだ6時45分か。俺は時計を見て静かに立ち上がると、生徒会室の扉を開けて外に出た。
夜の校舎は君が悪い。この校舎も長い歴史があって、勝手にところどころみしみしと音が出るので、それも危険な雰囲気を出している。
周りの教室からは一切話し声も聞こえない。
(なんでこんな時間に学校にいるんだ?俺)
俺はまたため息をついて階段を降りていく、夏はバテるような暑さだったのに、すっかり寒くなってしまった。薄暗い街、空には星が見える。一階に降りて体育館通路に出たところで、俺は空を見上げた。
(変な感じだ......)
さっきまで先輩としょうもない話をしていたが、外にはこんな景色があったのか。
(夜の空を眺めているのも、悪くなかったのかもしれねえな)
せっかくここまできたわけだが女バレの奴らに見られると面倒だ。俺は中庭のベンチに腰を下ろした。膝にスマホを置き時間を確認する。あと5分ほどというところだった。
こういう時の暇つぶしはとにかく雑なことを考える。
そういえばなんで俺、莉緒と帰るんだっけって思ったり、俺も昔は素直だなって思ったり、2年に入ってなかなか落ち着かなかったので、こんな時間も悪くないと思える。
俺は基本ふざけたやつでいるつもりだが、実際はそんなことがない、いっつも何もかも馬鹿らしく思っている節があって、いわゆる冷笑界隈ってやつなのかもしれない。
(そう言えば、俺、昼休みの件、なんって説明すればいいんだろ)
俺は下ネタ教えてないぜ、なんて言ったら、流石に青木に悪いよな。
必死になんの話をしようか考えていたところで、額にデコピンされた。
「あんた、何で目閉じてんの」
女バレのエース様が到着したようである。
「ユニフォーム着替えなくていいのか?」
「あぁ〜、徒歩だからね、みんなは着替えてるけど、私は家近いし、そっちの方が早上がりできるし」
「......そっか」
「何、臭い?」
「いや、そんな話じゃねえよ」
やばい、早く話を振ってくれ。こいつに何を話せばいいのか。まずそっちが誘ったんだから早く用件を言ってくれ。
莉緒は話し出す様子はない。昔は手に取るように考えていたが、今となっては全くわからなくなったもんだ。
「......それで、どうして誘ったんだ?」
「......いや、別に理由はないけど」
俺は意外な返事に声も出なかった。なんだこいつ、この前話すこともないのに話すわけないとか言ってたくせに。
「去年も一緒に帰ったよね、なんか、4月は仲良いよね?私たち」
「そう言えばそうだったな」
ちょう入学式から一週間経った頃、そんなこともあった。中学時代から別にそこまで話さなくなったが、互いに少し人見知りなところがあるから4月のみんなが友達を作る様子を見ていると、仲間を頼りたくなる、と言ったところなのかもしれない。
「星が綺麗だね〜。あれ、去年もこんなこと言ったような」
あははっ。と機嫌よさそうに笑う彼女は、この前放課後話しかけた時、キモっ、と突き放したやつとは、全く違うように見えた。
「お前って多重人格者か?」
「......は?」
いや、紛れもなく同一人物でした。
「あんたやっぱ、失礼だね」
「別にお前に礼儀なんてねえよ」
「......確かにね」
夜の街は暗い。やっぱり暗い。でもベンチに座っていた時より、俺の周りが明るくなったような感じがした。
「そう言えば、ごめんね?待たせちゃって、生徒会の仕事捗った」
「......ああ、いや、仕事なかった」
「......え、まじ?」
申し訳なさそうに俺の顔を覗く莉緒に、精一杯の不機嫌顔を見せてやる。そうすると莉緒は少し笑った、やっぱ、多分何かいいことがあったんだろう。
「なんかお礼してあげようと思ったけど、やっぱいいや、あんただし」
「......親しき仲にも礼儀ありだぞ?」
「さっきの顔でなんかお礼する気失せた」
精一杯の不機嫌顔だぞ?笑わせる気はなかったんだぞ?やっぱりこいつは俺を馬鹿にしている。
朝のことと昼休みのことで何か言われるかと思ったら、特になんも言われずに家に近づいてきた。普段は10分ほどで着く道のりだが、なぜか莉緒がゆっくりと歩くので、今日は結構かかっている気がする。
莉緒と歩幅を合わせて、親の話とか有る事無い事話していたのだが、莉緒は急にコンビニの前で足を止めた。
「......やっぱ気は変わった、ちょっとコンビニ寄ってかない?アイス奢るよ」
こいつ、今日はどうしたんだ?気が狂ったとしか思えない。特に急ぎの用事もないし、別に断る理由もないのだが
「......いやなんでアイス?」
「アイス美味しいじゃん」
「こんな寒いのに?」
「年中アイスは私の味方なの!」
じゃあいくよ!と腕を引っ張られ、結局されるがままにコンビニに入ることにした。
次の話と一緒に見てください!




