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竜門の十哲~最強の10人は再び集う~  作者: 柊 楓
幕間 ルナの日常
45/50

第一話 ルナの休暇

黄色のブーツで、積もった雪を踏みしめる。


サク。


サク、サク、サク。


あ、これ楽しい!!


サクサクサクサクサクサクサクサク。

ザクザクザクザクザクザクザクザク。




冬の早朝のボッカは、ルナのくるぶしの辺りまで雪が積もり、一面の雪世界。まっさらな雪のキャンバスに自分の跡をつけるのは、楽しいからしばらく続けてしまう。


10分ほどたった頃だろうか、踏みしめた雪にほんのり橙色が宿り、日が登り始めたことに気づいた。


本屋が開く時間だ!


半年ぶりだとしても、行きつけのお店の開く時間帯は覚えてる。さ、雪踏みはこのくらいにして、お買い物に行こう!




この街のいい所は、本が沢山売ってあるところ。


街の南北を貫く商店街。そこで一番目立つ町役場の、隣に建てられた二階建て。そこは、日が昇るのと同時に開店し、日が暮れると共に閉店する、普通の本屋さん。


雨で汚れた外壁と違って、中に入ると明るい木の板が敷かれ、本棚からも新鮮な香りがする。けれども、ルナは新書から香る紙の香りの方が好きなのだが、同僚の中では少数派で、いっつも可笑しいと笑われる。


その性格で本好きなのは、よく分からない──よく言われる、よく分からない言葉。




今日は、服に関する本でも探そうかなんて思って、表紙のレイアウトから質の良さげな本を3冊選んでみた。


『婦人コーデのいろは』

『男性の見る女性の下着』

『女性服の究極』


お仕事が一区切りし、およそ半年ぶりに確保した1ヶ月の休暇。お仕事の間に服に自分の好きを出せない分、休暇のうちに色々と試してみようと思うのだけど...。


...2冊目は明らかにエッチな本でしょ。


タイトルからどう考えても危険な『男性の見る女性の下着』はそっと棚に戻す。


まあ、もっと分からないのは3冊目なんだけどね。


究極とは、つまりどういうことなのかな。これが1番オシャレなんてコーデは存在しないし、これを着ていけば誰でもオシャレに見える服も存在しない。人の体型や顔、雰囲気は千差万別で、一概にまとめることなどできないのだ。と、誰かがそんなことを言ってた気がする。


うーん...。


それでも、やっぱり究極の女性服がなんなのか、とても気になる。


あまり買い置きするのは好きじゃないから、『女性服の究極』の1冊だけをもって、支払いに向かう。もう1冊は、これを読み終わってから。




買う時に店員に怪訝(けげん)な顔をされた。多分この本があまり買われないからだと思う。確かに手を出しにくそうな名前ではあるが、興味が惹かれない訳でもないはずなんだけどなあ。


それよりも、本屋を出てからずっとあとをつける男が一人。気配を隠すのが普通の人より上手いから、一応隠密スキルをもってるとは思う。


別に敵意は感じないし、大丈夫だとは思うけど...。


一人、この街にいる冒険者に目を通した時を思い出し、ピンと来た。とりあえず冒険者ギルドに向かうのがぶなんかな、ぶなんの言葉の使い方あってるっけなんて思いながら、商店街の中心、大きな噴水のある広場を通ると、ものすごい勢いで後ろから男が詰めてくる。


奇襲対策はバッチリなんだけど、ここまで変な動きされてもなあ。


とりあえず、その姿を拝もうと振り向くと。

「ぉ嬢さん!」


不審者だぁ。


ずずいっと顔を近づけてくる、黒服黒ハチマキの不審者。忍と言われる者の格好だ。急ブレーキをしたことで、積もった雪がルナにかかるのに、かけた本人は焦ってるのか気づかない。


「え!?あ、いや私は不審者などではなく...。はっ。失礼。仕切り直して...このあと時間あるかなあるならそこのカフェとかでどうだい?」

早口でまくしたてる黒い不審者。大袈裟な身振り手振りが少し怖くて、思わず体を引いてしまう。


「おっと...。ごめんよ、怖がらせるつもりはなかったんだ」

今度は両手をピシッと体側に揃える。確かに尾けていることがバレてなければ、なんとかただのナンパおじさんに見えなくもないけど...。


少しの逡巡(しゅんじゅん)。ルナにとっての1番無難な返事は...。


ストーカーさん。同業者と言えなくもないし、別に怖そうに見えないからいっか。


「いいよ?」

別に得物を持ってるわけでもなさそうだし、この人には少しだけ興味があるもの。


同僚にはガミガミ言われそうな返答に

「だからストーカーでもなくて...いいのか!」

「はい!」

コワモテのおじさんも嬉しそう!


結局、2人はそのまま広場のすぐ側にあった『アルメッセ』というこじんまりしたカフェをみつけ、カランカランとベルのなるドアを開く。


「このカフェ、好きなの?」

「え!?いや、たまたま目に入ったからさ」

嘘だ。私の斜め前を歩きながら、自然な風を装って方向をこのカフェに向けてた。干渉魔法で、お店の中に数人男がいることがわかった。けど、この人のパーティ仲間だし、問題ないでしょ。


「おお、早かったんなあ。ていうか、もう連れてきたんか」

店に入ると、中でゆったりしていた男3人が入口に向かってくる。


「まあな。おっと失礼。こちら、俺の冒険者仲間なんだ。リドー。ベルモス。エニトラ。そして俺がジュゲムだ」

「「よろしく」」

「よろしくな」

今度は不審者らしくなく、よく見る取り引きの時のように丁寧な自己紹介。何となく人柄はわかったし、名前もわかったけど、ジュゲムさんの言い訳が数秒で意味を失った。いいのかな。


ま、それよりも。


「私はルナ!で!なんで呼ばれたのかわかんないんだけど...?」

尋ねるように小首を傾げると、4人の男の反応は二つに分かれた。


「上物だ...」

「いいの拾ってきよたなジュゲム」

「ばかあお前、なんで説明せんで連れてくる」

「あ、あああすまない」

慌てたように両手を前に突き出し、ゆらゆらさせるジュゲム。なんだかこないだ手に入れたロボットみたいでかわいい。


「「笑うともっといい」」

「お前らもだまっとけや」

そう、仲間を諌(いさ)めた男──リドーというガタイのいいおっさん──は居住まいを正してルナの方をむく。

「あー嬢ちゃん。おじさんたちはな、冒険者ってのをやってて。んでまあ1年間冬を除いて毎日毎日冒険をしてるんだわ」


プラチナだしな。と、エニトラがつぶやく。


「んでまあよ。おっさんたちは冒険譚を語りたい。嫁も子供もいねえで仕事に打ち込む俺らにはよ、小さな子に自分の話をして楽しんでもらうのしか生き甲斐がねんだ」

そこまで言うと、後ろの人たち含めてみんな姿勢をただすと


「飽きたらそこで帰ってええ。俺たちの話、聞いてくれるか?」




冒険者になった人のおよそ70%は、パーティ結成の一年後までに冒険者を辞める。


同僚の先輩がそんなことを言っていた。


パーティの一人でも死んでしまえば、あるいは自分より年下の強い子を見れば、それに比べてランクの上がらない自分たちを見つめれば、自ずと辞めていく人たちがでてくる。帝国の三大冒険者育成学校でも、冒険者を辞めても職に就けるように様々な科目を取れるようになっているから、そういう見通しはあるのだろう。


ただし、残りの30パーセントのうち、ほんのひと握りの人達は年老いても力が衰えず、未だ前線に立っている。


──婚期を逃し、再就職できる時期も逃し。


それが、30年前に時の人となったこのパーティ【蜃気楼】。デバフに特化した珍しいパーティで、パーティリーダーのリドーが4世代前の「勇者」。


辞める時期を逃し、それでもまだ戦えるから戦う。そんな人達の唯一のご褒美は、子供たちに物語をしてあげること。


かっこいい!!


「ぜひ!聞かせて!!」

即答した。


尊敬と、純粋にこの人たちの話を聞いてみたいと。そう思った。


「おお、嬉しいなあ」

「さあ、奢ってあげるから好きな物頼んで」

「ありがとう!」

思わずバンザイしちゃうと、持ってた紙袋から買った本が飛び出て、ジュゲムの手に落ちる。


「おっと、と。お嬢ちゃん、いや、ルナちゃんこれ落とし...」

「あ、ありがと...」

返してもらおうと近づくと。


「おおおおじょルナちゃん!?これ読んでるのか?」

ジュゲムさすがにキモイぞー、と野次が飛ぶ。

「あ。それ、気になってさっき買ってきたの!」

「「ドヤ顔もかわええ」」


「どれ、何買ったん」

「あ、いや、その前に」

近づくリドーを片手で止めて、本の真ん中当たりのページを開くジュゲム。


本は最初から読みたいのだけど、この人は何を気になったんだろう。


すると、ジュゲムは開いたページを見せながら、ルナの耳元で

「これ、結構ヤバいエッな服しか載ってないけど、いいの?」


目の前の、裸に鎖を巻き付けたような女性の写真を見て、思考が停止する。




ああ。




あああああ。


「おい、嬢ちゃん?」

「あああああああああ!!買い戻してきますうううううううううう!!!!」


大絶叫して、そのまま本屋に駆け込んだ。




「あー。こんなに語ったの久しぶりやわ」

「ほんとだな、もう夕方だ」

「なあ、お嬢ちゃん。もうこんな時間だけど、親御さんは心配せんか?」

長時間話し続けて、少し疲れたようなおっさんたちは思い思いに伸びをしている。


「ううん、お父さんたちいないから」

「あっと、ごめんな。酷いこと聞いて」

「それなら、おじさんのとこ来るかい?冬の間なら世話でき」

「「いい加減キモイわ」」


だんだん回数の増えてきたジュゲム劇場にひとしきり笑う。


お店の勘定を終わって、いつの間にか雪の降り始めた広場を歩く。

「日が暮れたら、家族を迎えに行くの」

「そいつは...?」

「3年ぶりに会う人なんだけど、それまで一緒に過ごしてた人なんだ!」

「今の年齢が14くらいだと3年前は」

「「さすがにやばいぞ」」

「3年か...。約束はしてあるのか?どこで待ち合わせとか」


「してないよ。ここで会うことも、いつ会うかも」


「!?」

「じゃ、なんで来るのがわかるんだ?」


別になんでとか言われても、わかるものはわかる。太陽が東から登るように、あの人が今日ここに来るのは、絶対。

「強いて言うなら、兄妹の絆?」


「一緒に待とこうか?」

「ううん。感動の再会は、当人同士が1番いいもの!」

「「健気だ...」」

涙ぐむエニトラとベルモス。リドーとジュゲムも心做しか困ったような、それでいてちゃんと優しい顔をしていた。


「困ったら、俺に声をかけろ。すぐに助けてやる」

「ああ、別にこいつじゃなくても、街の冒険者に話せば助けてくれるように、俺からあ言ってやるからよ」

「話沢山聞いてくれてありがとなあ。こんな娘が欲しいっ!」

「嬢ちゃん、この時間帯は気をつけろよ。変態にあったらすぐ逃げるんだぞ」

チラとエニトラが今日1番の変態を見やると、当のジュゲムは後ろを振り返る。

「「お前だよ!!」」


「あはははっ!今日は楽しいお話をありがとう!また会えたときに、他のお話を聞けるの楽しみにしてるね!」

有意義な一日だった。


ひとしきり手を振って別れたあと、あの人が来るだろう方角を向く。沢山の家に囲まれて外の景色が見えなかったから、ジャンプして家の屋根に登る。


音もなく着地して南の真っ白な草原を見ると、猛スピードで街に迫る気配を感じた。思わず頬がほころぶ。




──あの人たちには申し訳ないけど、彼がいればどうとでもなっちゃうんだよね。

【キャラ紹介】


ルナ


茶髪こげ茶色の円な目をした、ジンと同い年の女性。

出るところは出ているが、小柄な体躯とその口調から年齢よりも幼く見られがち。

変化・干渉・バフ・デバフの4色に特化した【プラチナ】級冒険者で、二つ名は「美影」。

読書とオシャレが趣味。

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