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機械音が鳴り、昇降口のドアが閉まると三人を残してバスが去っていく。大きな駐車場があるチェーン店が国道に沿って並んでいるだけで歩いている人はおらず、車だけが右から左、左から右へと過ぎ去っていく。民家も見当たらない。
「今日はこの辺りで宿泊しましょう。」
狸塚の言葉に慈鳥は鋭い視線を向けた。狸塚はその視線をいなし、演技がかったように肩をすくめた。懐からスマホを取り出し、親指でスクロールしながらキャリーケースを手に取った。
「ここから更にタクシーで三時間掛かるんですよ?さらに具合が悪くなったら先方にご迷惑でしょう。」
スマホを耳に当て、源と慈鳥の側から離れるように歩き出す。
「お世話になっておりますー。本日、お伺いする予定だった狸塚ですー。」
いつもの声よりワントーン高くなりながら、狸塚はさらに離れる。源と慈鳥はその場に留まりながら、詐欺電話でも掛けているようなトーンで話す狸塚を見ていた。
源は慈鳥を盗み見ると、その横顔はまだ青ざめていた。なんだか見ていられなくて、視線を逸らすとキャリーケースの上に腰掛ける。
何か話したいけど、何を話せばいいのか分からず視線を下げて指遊びをしながらその場をやり過ごしていたが、やはり慈鳥の様子が気になる。
「あ、あの。何か飲むっすか?それとも座ります?」
具合が悪い人なんて相手にしたことがない。自分の飲み掛けのペットボトルを差し出したり、座っていたキャリーケースを差し出してみたりするが正しい対処なのかは不明だ。
「水はあるし座らなくても大丈夫だ。」
確かに顔色が悪いだけで慈鳥の背筋はピンと伸びておりフラフラはしている様子はない。源は余計なお世話だったか、と差し出したものを引っ込めていると頭の上から自分の体温とは違うひんやりとした体温を感じた。
「心配しなくてもいい。」
視線の先には自分より幾分か小さい慈鳥が少し困ったように笑い、数度優しく叩くと頭から手を離した。
「先方にもご連絡しましたし、今夜の宿も確保しましたよー。」
狸塚はこの短時間で宿の予約をし、更にはタクシーの手配もしたらしい。狸塚のすぐ側に横付けしているタクシーが止まっていた。
「仕事が早いな、あいつは。」
呆れ半分、感心半分といった様子で慈鳥は自分のキャリーケースを引きながら狸塚の元へ歩いて行く。
源はその後ろ姿を見つめながら撫でられた頭を触った。自分は頼りにされていないのかもしれない。狸塚には何かしら話しているのに、自分には何も言ってはくれない。それがちょっと、いや、かなり疎外感を感じてしまう。
自分が子供だからだろうか。大人になれば話してくれるのだろうか。でも、自分は子供と言える年齢なのだろうか。
子供でもない、大人でもない、中途半端な位置にいるな、と悲しく、いや、何とも言えない気持ちになった。
「何をしている、行くぞ。」
こちらを振り返った慈鳥が、来いと言うように顔を僅かに動かし、先を促した。
源は追いかけるように早足で歩く。
蝉の声が早くもっと早くとまるで急かしているような気がした。




