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「源くん、起きてください。」
その声にゆっくりと目が開く。だけど、目も頭もぼんやりしていて今、どこにいるのか思い出せない。なんで、ここにいるんだったか。
まだ眠たい、寝ていたい。開いた瞼がまた落ちてこようとしたが、バス特有のシートとガソリンの臭いが鼻を掠めると、今いる場所と目的を思い出した。目を擦りなんとか目を覚まさせようとする。
「もうすぐ降りますから、準備をしてください。」
どれだけ寝ていたのか、窓の外を見るとバスに乗る前よりもさらに高い位置に太陽があった。
「俺、どれくらい寝てたっすか。」
大きく伸びをすると肩や腰の骨が大きく鳴った。まだまだ鳴りそうだ。
「だいたい、二時間くらいでしょうか。」
なるほど。だとすると今は十二時過ぎか。だから、寝起きなのにこんなに腹が鳴っているのか。まるで生き物を飼っているかの様に、鳴り続ける腹に視線を落としてから狸塚を見た。顔が歪んでいる。
「今、なにも持っていないのでもう少し我慢しなさい。」
そう言われても分かりましたと腹の音を止めるのは難しい。というか腹の音なんて止められるか?お腹を悲しい気持ちで眺めていると肩の辺りを触られた感じがした。
振り返ると黒い淡いピンク色のバケットハットを被りニコニコと笑っているお婆さんが軽く身を乗り出していた。
「元気のよか音じゃねぇ。こいば食べなっせ。」
差し出されたものを見るとクッキーのような健康補助食品の黄色い箱。方言で少し分かりにくいがくれるということらしい。
「いいんすか?」
「よかよか。ばあちゃん腹の減っとらんけん。」
ほれ、と黄色い箱をさらに源の方に差し出す。それを受け取ると自然と顔が緩む。これで腹が鳴き止む。
「ばあちゃん、ありがと!」
礼を言うとさっきより顔の皺を深く刻みながらお婆さんは笑った。はやる気持ちを抑えながら箱のミシン目に沿って音を立てながら開ける。ぴかぴかと光る金色に包まれた袋を取り出して袋を破るとチョコレート味のそれを頬張った。ほろほろと口の中で崩れて口の中の水分を全部持っていかれる。でも美味しい。なんか内臓とかに染み渡るとかいう言葉があった気がする。
「お気遣いいただき申し訳ありません。」
狸塚が源の方に身を乗り出してお婆さんに礼を言う。お婆さんは首を数回横に振り、元気な笑い声を上げた。
「こげんよか音ば聞いとると、なんか食べさせとうなるけん。」
「お恥ずかしい限りです。」
狸塚は恐縮したように頭を下げた。お婆さんは、よかよかと更に笑って見せた。源はそのやりとりを眺めながらも口を止めることはなく、一個、また一個と頬張っていく。口の中の水分がほとんどなくなると、持っていたペットボトルのお茶を飲んだ。もう一個、と口に運ぼうとするとバスが停まった。
「降りますよ。」
そう言われて慌てて立ち上がる。貰った食べ物は中身が溢れない様に丁寧に箱にしまい、ポケットにしまった。
「ばあちゃん!食べ物ありがと!」
改めてお礼を言うとお婆さんは返事をするように笑った。バスを降り、預けていた荷物を受け取るがなぜか慈鳥と狸塚が降りてこなかった。
不思議に思い、バスの外から中を見る。座っている慈鳥と少し体を屈めている狸塚が何か話しているように見えた。頷いたり、首を横に振っている慈鳥の姿になかなか話がまとまらない様子だ。
視線を感じたのかこちらに顔を向けた慈鳥と目が合った。ほんのりと顔色が青い気がする。立ち上がった姿を見た数秒後に二人はバスから降りてきた。やっぱり慈鳥の顔色が悪かった。
「具合、悪いんすか?」
そう尋ねると慈鳥は視線だけ源に向けるとすぐに前を見た。
「酔っただけだ。」
その言葉は、なんとなく嘘な気がした。




